第26話 前世の話
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女子トイレの窓から差す陽の光はすでにオレンジ色だった。
ひんやりとしたタイルはわたしの微かな体温も奪う。
ただでさえ水で濡れた制服は重く、前髪からも水滴が滴り落ちている。
「……ったぃ……」
同じ女子とは言え、お腹を蹴られたら相応に痛い。
淫らに捲られてしまったスカートの裾を戻して、壁にしがみつくようにして立ち上がる。
「……どうして、わたしは生きているんだろう……」
人気と痛みが消えるまでの1時間はいつもその事を考える。
誰かが通りかかるわけじゃないこの第二理科室側のトイレでは、痛みと恐怖に耐えている間に人が来るわけもない。助けなんてない。
お腹を
下駄箱のある入口は通るけど、わたしにとって下駄箱はゴミ溜めだから基本的に使えない。
バックからローファーを取り出して学校を出る。
グラウンドからは部活をしている学生たちの「ありがとうございました!」という元気な声がわたしを脅かす。
大きい音はいつもこわい。
わたしには関係なんてないとわかっていてもだ。
下校ルートを歩いていると、前に同じクラスの人がいた。
反射的に角を曲がって中道を通る。
同じクラスの神崎光也。
わたしに唯一害を与えない人。
それ故に害が生じる人。
わたしみたいなのにも挨拶をするクラスの中心人物。
こんなビショビショの状態を見られたら後が面倒。
「どうして、隠れなきゃいけないんだろうね」
そう呟いてわたしはそそくさとお家に帰った。
家に着くと、お酒の臭いがした。
ああ、今日はダメな日か。
「おひ、おめぇはただいはも言えねぇのか?」
「っがッ!!……ご、めんな、さい……」
安いカップ酒を片手にお父さんはわたしのお腹を殴った。
酔っ払っているお父さんはいつもお腹を殴る。
顔を殴ると
「ごべんなさいざぁねぇんだよああ?!」
「っぐふッ……ぅぅ……」
「こっぢに来いくそが」
今度はお腹を蹴られ、
呻くわたしを前にお父さんはズボンを降ろして「おしおき」と言いながらわたしの口に強引に男のモノを入れた。
頭を掴まれて乱暴に前後に振られて痛いし苦しい。
苦くて気持ちが悪くて怖い。
舌や頬の内側に擦り付けられる度に吐き気がする。
息もできなくて辛い。
「……
お父さんがわたしを犯す時、いつもお母さんの名前を呼ぶ。
わたしは死んだお母さんによく似ているそうだ。
けどわたしは顔もよく知らない。
ここには
吐き出された粘つく穢い液体を飲まされ、綺麗に舐めとらされた。
満足したのか疲れてお父さんは眠った。
何度もうがいをして、お風呂に入った。
お腹や腕の痣はしばらく消えそうにないな、なんて他人事のように思った。
それでも今日はマシな方だ。
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