黒百合の魔王
小鳥遊なごむ
プロローグ
黒崎百合子。
それがわたしの名前。
お母さんは花言葉をよく知らなかったらしく、わたしはクロユリと呼ばれて虐められた。
黒い百合には『呪い』や『復讐』という花言葉があるからだった。
真っ黒な長い髪とか、色白な肌がより一層死神っぽく見えたわたしは、近づいたら呪われるそうです。
先生たちもよそよそしかった。
化け物を見る目だった。
わたしの机には『呪い』とか、『死神』とか、『死』とか、そんな言葉がたくさん掘られるようになった。
下敷きを使わないと板書ができないくらいにボロボロで、担任の先生はわたしの机に気付いていた。
でも、わたしの机に触れたくなくて何も言ってはくれなかった。
それでも、お母さんを困らせたくないから、高校には頑張って行っていた。辛かった。
黒百合には『愛』や『恋』っていう素敵な花言葉もあるのに、どうしてわたしは死神みたいに畏れられるんだろう。虐められるんだろう。
そう思いながらも学校へは行ったんだよ。
でも、高校1年の夏休み。
調べ物をする為に学校の図書館へ寄って後に忘れ物を取りに教室へ行くと、わたしの机には藁人形があった。
『黒崎百合子』とか書かれたノートの切れ端が藁人形に貼り付けられてて、釘でしっかりと机に刺されていた。
悲しかった。
わたしはみんなから、呪いたいほど嫌われていたのだと改めて知った。
平然と並ぶみんなの机の中で、わたしの机だけが孤立していた。
溢れる涙は止まらなくて、わたしは誰に謝りたいのかも分からないまま黒板に「ごめんなさい」とひたすらに書いた。
強く握りすぎてチョークは折れて、それでも書いていたら指の皮が向けて血が出た。
ヤケになって自分の血で「ごめんなさい」と書き続けて黒板は埋まった。
そこで詰まって、わたしは我に返った。
謝罪で覆われているその呪われた黒板を見てわたしはまた泣いた。
自分で書いたくせにさらに辛くなって、わたしは教室から逃げた。
誰もいない所へ行きたくて走っていたら、屋上にいた。
どうしてか屋上へと続く扉の鍵は壊れていて、なんだか救われた気がした。
空は暴力的に青かった。
夏の陽射しが強くて、照り返す熱はわたしに追い討ちをかけた。
青空が憎かった。
当たり前に青い空が憎かった。
蝉たちの鳴き声も全部わたしへの悪口に聞こえる。
青春って言葉も嫌いだった。
笑っている人達も嫌いだった。
この世のほとんど全てに憎悪した。
わたしはスマホのメモに、お母さんへのメッセージを遺した。
「お母さん、ごめんね」
そうしてわたしは、命を絶った。
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