第1話 異世界転生、小さなクロユリ

わたしは泣いていた。

死んでも泣かないといけないのかと絶望した。


けど、見知らぬ小汚い小屋だった。

わたしはなぜか、自分が赤子のように泣いているとその後気付いた。


病院にしては不衛生過ぎるし、なんでわたしはこんな赤子みたいな声で泣いているのだろう。

そう思っていても、わたしは泣く事しかできなかった。


そうしていると、奥から1人の少女が出てきた。

真っ白な長い髪と綺麗な紅色の瞳の女の子だった。

歳はわたしと同じくらいに見える。


「クロユリ〜泣くな泣くな。ほれほれ」


その女の子はわたしを軽々と持ち上げてあやすように抱っこして揺らした。


部屋にあった鏡を見てわたしは騒然とした。


小柄な白髪少女に抱っこされているのは赤子。

そしてそれは状況的に見てわたしだった……




3歳になった。

わたしは知らない世界で皮肉にも「クロユリ」という名前で生きていた。


生きていた、というよりは生まれ変わったらしい。

言葉も最初は日本語じゃなくて全然わからなかったけど、1歳になった頃には聞き取れるようになった。


生前の世界とは違って、文明的には低いけど魔石とかがあって、なんなら日本より便利な物が多い。


魔石、というものの通り、わたしからすればファンタジー世界だった。


「カトレア、さんぽ」

「クロユリは散歩が好きね。いいわよ。ちょっとだけ待ってね?」


白髪の少女の名前はカトレアという。

お母さん代わりにわたしを育ててくれている人だ。


わたしはカトレア以外の人を知らない。

カトレアは魔導着を着て魔石の付いた杖を装備してわたしの手を引いて歩き出した。


わたしはまだ3歳。

1人でこの森を出歩くのは危険らしい。

土地は比較的豊からしく、魔物は少ないから大丈夫だとは思うけど、3歳のわたしに説得力はない。


今日はカトレアと一緒に木の実を取った。

甘くて酸味のある果実がわたしは好きだった。


日本と違って、この森での生活は非常に娯楽は少ない。

美味しいものも少ない。

虐めがないだけ良いけど。


カトレアは人との交流を避けているようにわたしと森で暮らした。


狩りも一緒にやってみたりした。

と言ってもほとんどは見学するだけ。あとはちょっとしたお手伝い。


そんな日々も過ぎてわたしが5歳になった。


わたしはどうやら身体能力が高いらしい。

身体は未熟な方らしいが、魔力量が多いらしく身体能力を無意識に強化しているのかもしれないとカトレアは言っていた。


「魔力って、もわもわしたヤツとか見えるんだと思ってた」

「魔力操作に慣れたら見えるようになるわよ」

「どんなふーに?」

「見てみたい?」

「うん」


カトレアは私が魔力に興味がある事を知るとやたらと教育熱心に教えてくれるようになった。


「【真理を見抜く古の力・魔眼の共犯者】」


カトレアはわたしのおでこに触れてそう唱えて魔術を発動させた。


視界が一瞬歪んだ。


「うえぇ……気持ち悪い」

「カトレア、私を見ててね」


カトレアが地面に杖を突き刺して目を閉じた。

集中しているのかわたしまで緊張してきた。


家庭的な魔法は見てきたけど、こういったのはほとんど初めてだった。


カトレアの全身からもわもわした赤いものが溢れてくる。

コントロールしているのか、綺麗に身体の周りに纏わせている。


ドラゴン○ールの気とか、ハン○ーハンターの念みたいだと思った。

わたしにもなんか出来そうな気がしてきた。


「カトレア、わたしもやっていい?」

「……簡単にはできないと思うけど、やってみて」


カトレアは微笑ましそうにわたしを見ている。

わたしには杖もなにも無いから、突っ立ったまま目を閉じて集中した。


もちろん簡単に出来るものじゃないとわたしも思う。


ただ、試してみたかった。

虐められていた時、殺したいほど憎んだ時の溢れてくるなにか。

きっと良くないものではあると思う。


けど、わたしにとっては溢れてくる怒りや絶望が力のイメージの源だった。


「クロユリ!」

「……っ!」


前世の事を思い出していたら、禍々しい魔力が溢れていた。

涙も溢れてきてた。


綺麗な青空だったのに、今は見渡せる空は真っ黒だ。

雷が轟いていていかにも邪悪な魔王とか召喚されそうな怪しい雰囲気。


そして、なぜか大量の魔物に囲まれていた。

ゴブリンやら大猿にオオカミ、イノシシみたいな魔物とたくさんの種類がいる。


「カトレア……」

「大丈夫!大丈夫だからっ!」


カトレアはわたしを抱き締めていてくれた。

魔物に囲まれていたけど、カトレアの結界のお陰で攻撃は受けていない。


「クロユリ!意識をしっかり保って!」


少し気を抜けば心の中の真っ黒ななにかに飲まれそうだった。

胸の奥に、なにかがいる。


きっと死神かなにか。

真っ黒な大鎌を持っている。

刃が紅いメタリック色に光っていて、禍々しさがえげつない。


「……カトレア、なんか、暴走しそうだから……発散させて……」

「ダメよ抑えて!落ち着いてクロユリ!」


わたしの肩を掴んで眼を合わせるカトレア。


「大丈夫。少し……一振りするだけ……」


わたしは身体の赴くまま右手は伸ばしてなにかを掴んだ。

突如具現化されたのは胸の奥の死神が持っていた大鎌だった。


どう見てもわたしの小さな身体からすれば、身長の3倍はあるのにわたしはそれを片手で持ち上げている。


「カトレア、結界、解除して」

「ダメよ!」

「今やらないと、魔力が溢れて……」


湧き上がる憎悪と魔力。

コントロールが効かなくなる前に使わないとやばい。

それだけはわかる。


カトレアもそれを承知してくれたのか、結界を解除してくれた。

魔物たちが一斉に襲いかかってくる。

魔物たちみんながわたしを見ている。


「カトレア、フォローおねがい」


そう言ってわたしは大鎌を両手で握って構えた。

大鎌はおろかバットだって振ったことなんてない。

だからわたしは力任せに横一線に振り回した。


わたしを中心に円を描くように周りが吹き飛んだ。

魔物たちの悲鳴が響き、全てが消し飛んだ。


見渡す限りの灰と血。

緑で溢れる森は見る影もなくなってしまった。


魔力をありったけ込めて放ったからか、反動で全身の力が抜けた。

膝を付いて崩れ落ちるわたしをカトレアが抱き締めて支えてくれた。

それから後は覚えていない。


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