第55話 愉快なティータイム

「行ってこいやろうども〜」


わたしは走る配下たちに手を振りながら1度奥へ戻った。


南門と西門担当の魔物使いと愉快な魔物たちが攻め込んでいる。


わたしは【合成樹脂魔法レジン・マジック】で作った硬質な結界を兼ねた琥珀色のテントを作って設置した。


「この紅茶美味しいわね」

「でしょ〜お菓子も焼いてきたの」

「美味しそうね」


わたしとカトレアは紅茶と焼き菓子をつまみながら、城壁から飛んでくるわずかな弓矢や魔法を眺めていた。


「それにしても、これって頑丈ね。どうやって作ったのクロユリ?」

「魔大樹って魔王ジュリアの能力をちょっと工夫して作ったわ。魔力で硬さも調整できるから設置も片付けも楽なのよね」


樹脂を加工して琥珀にすれば強度は上がるし、魔力で流体を維持してスライムみたいにぷよぷよにもできるからクッションにもできる。


もちろん出来るのは樹や植物の範囲だ。


(クロユリ様)

(どうしたのレビナス)


「どうしたのクロユリ?」

「レビナスからの念話よ。少し黙るわね」


レビナスに持たせていた琥珀のピアス。

ニーナたちが持っていた魔晶石を参考にして作ってみた試作品。


神精石という宝石を琥珀で加工して作った。

琥珀の密度を調整して魔力変換効率を上げて念話をできるようにした物。


ニーナたちの魔晶石より性能は落ちるし召喚獣も召喚できない。

改良の余地ありね。


(クロユリ様、あまりにもニンゲンたち連合軍が疲弊していて手応えが無いのですが……)

(魔大樹の影響で一般人が暴走しているから、たぶん避難やらで戦力をまとめきれていないのだと思うわ)


魔大樹を植え付けてから魔王軍進行までは一週間くらい。


その間にどれだけ魔大樹が急成長したのかはわからないけど、一般人が人間爆弾になってパニックの状態から魔王軍が襲ってきたならこんなものだろう。


(魔力暴走した一般人を使ってさらに連合軍を混乱させて効率よく制圧して頂戴。あと勇者たちの報告お願いね)

(かしこまりました)


未だに勇者たち10名が出てきてないのが不可解ね。

お腹でも痛いのかしら?


「ごめんなさいねカトレア」

「大丈夫よ」


冷めてしまった紅茶を新しく入れてくれたカトレア。

良い香りが鼻腔をくすぐる。


不意に、紅茶の表面が少し揺れているのが分かった。


「ん?」

「どしたのクロユリ?」

「いえ……」


わたしは【獣化】して聴覚を研ぎ澄ました。


「聞こえるわ」

「何が?」

「ちょっと行ってくるわ。カトレア、【影狼】を置いておくからここで待機していてくれるかしら?すぐに戻ってくるわ」

「ええ。分かったわ」


【獣化】を継続したまま翼を生やして琥珀テントを出た。


【影狼】はありったけ出しておいたから問題ないはず。


わたしは音のする方向へ飛んだ。

ミーシャたちから報告のあった超大型ゴーレム。


おそらくはそれだろう。

どれだけ大きいのかはわからないけど、わたしたちの知らないところで動いている別勢力の可能性がある。


デカいだけなら何とでもなる。


「見えた」


……大きいわね。大き過ぎる。

グレーテ大森林がただの草に見えるくらいにはデカい。


どうしてこんな大物……?なんか……


「ぽち?」

「クロドゥリサマァァァ!!」

「ぽーちぃぃぃぃぃぃぃ!!」


ぽちだ。

グレーテ大森林を出る時に野良の魔物避けにカトレアに創らせた土ゴーレム。


最初は人と同じくらいのサイズだったのに、今やこんなに大きくなって……


「ぽち。大きくなったわね」

「クロドゥリサマ!アエタ!!」


てっきり雨に打たれて消滅しているか魔物たちにズタボロにされていると思っていた。


けれどこうして大きくなっている。

しかも喋ってるし。


今までどうやって姿を隠してたのかとか色々聞きたいけど、グランドル王国にカトレアたちがいるから早く戻らないといけないわね。


「ぽち。再会できて嬉しいけれど、時間がないから急ぐわよ」

「ワカディマシタ」


わたしはぽちの肩に乗ってナビーゲートした。


なるほど。なんでぽちが大きくなったのか、触れてわかった。


わたしが核にした髪の毛と血が魔力を集めるシステムを維持してたのね。


【吹き溜まりの悪魔】の効果がぽちにも多少引き継がれている。

だから生存できるように大きくなって力を付けたのね。


喋れるようになったのは意識が芽生えたからかしら?

まだ詳しい原理はわからないけど、これは面白い事になった。


「ぽち!全力前進よ!!」

「オオォォォォォ!!」


すぐにグランドル王国の王都が見えた。

一歩一歩が天災のように大地を震わせていく。


「ぽち!あの壁を叩き壊して!」

「ワカディマシタ!」

「いけ!【義土神兵どじんへいの鉄槌】!!」


ぽちの大きな拳が上から振り下ろされて城壁が簡単に消し飛んでいった。


「カトレア!ただいまぁ!!」

「クロユリ?!どゆこと?!」

「ぽちを連れて来たわ!!」


わたしはカトレアに駆け寄って事情を話した。


「カトレア、ぽちの肩に乗ってニンゲンの王都観光に行きましょ」

「いいわね。賛成」


ニンゲンさんこんにちは。遊びにきたわ。


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