第15話 死ねない呪い
次の日は陽が出る前に起きて出発した。
半魔たちは手先が器用なようで、前世でいうアウトドア用品のような仮設テントや家財を自作して持っていた。
「すごいわこれ。こんなにコンパクトになるのね……」
「移動が多かったものですから」
ヤコタを殺そうとしていたのに、半魔たちは思いのほかあっさりしていた。
漏らしていたくらいだから、てっきり距離を置かれると思っていた。
まあ、何人かはちょっと怯えてる人もいるけど。
「わたしのいた前世にもこんなのあったけど、高かったわ。自作できるのはすごいわ。カトレア、貴女もこれ作れるかしら?」
「このレベルの物は中々作れないよ。ギミックが複雑な物が多いもの」
現在は南西にある魔王城に向けて森の中を歩いている。
戦えない半魔たちの護衛としてヴェゼルを除くレビナスの部下がわたしたちを囲んで進む。
ヴェゼルには暗殺部隊の訓練の一環として進行方向の魔物の殲滅をさせている。
もちろんカトレアの敵索に加えレビナスたちの警戒もある。
わたしを狙う人間の追手や刺客の警戒も兼ねているけど、子供たちの移動速度や体力を考えると早くは行けない。
「あと1時間ほど移動した先が休憩地点となっています」
「わかったわ」
半魔は種族にもよるけど、亜人と魔族の混血である場合、身体の成長速度は早いらしい。
わたしのように魔力に応じて成長するわけではないらしいけど、成長が早いのは亜人特有のようだ。
15歳で成人なのは人間も亜人も変わらないけど、亜人は10歳程で大人の身体にほぼ成長する。
子供たちにはまだ暗殺について学ばせる気はない。
手先が器用なら、他にも出来ることはあるからだ。
武器や家具、そういった物を作る職人などになるか暗殺を学ぶかは身体が出来てから選ばせたい。
「クロユリ様!抱っこして!」
「オレも!」
「わたしも!」
「ボクも!」
「4人同時は無理ね……」
このロリショタたちには出来れば暗殺の道には行って欲しくない。
だって可愛いもの。
まあ、わたしが子供たちと遊んでいると半魔の親達はあまりいい顔はしないけど。
「じゃあそうね……」
わたしが不意に大鎌を取り出すと子供たち以外のみんなが反射的に驚いた。というか警戒している。
「この棒の部分に乗って。真ん中と刃の近くには気を付けてね?痛いわよ」
ロリショタの小さいお尻は簡単に収まり、準備が出来たのでわたしは空いているグリップ部分を肩に乗っけてロリショタ4人を担いだ。
「クロユリ様すげぇ!」
「高い!」
「おち、落ちるぅ!」
「あ!ちょっと!掴まないでよっ!」
未だかつて大鎌をこんな使い方をした人はいないだろう。
わたしに大鎌を与えた死神もこんな使い方をされるとは思っていまい。
はしゃいでる2人は運動神経が高いのか、全然怖がってない。
わたわたしてる2人もなんだかんだバランスを取っている。
「はしゃぎ過ぎると落ちるわよ」
ヴェゼルたち暗殺部隊も順調に狩りをしているらしく、魔物の1匹も現れない。
ヴェゼルの指示の元、音を殺して魔物を排除するように言いつけてある。
野生の魔物は警戒心が強い分、訓練には丁度いい。
この辺りは群れで行動する魔物が多い。
透明化だけでは暗殺はできない。
気配を消したり光と闇の魔法を組み合わせて暗殺する訓練だ。
光で見せたいものを、闇で隠したいものを。
あるいはその逆を。
ちなみに、任務以外の時間ならいつでもわたしを殺しに来ていいと伝えてある。
まあ、死なないし死ねなさそうだし、ニンゲンたちに暗殺される時の予行練習も兼ねている。
「着きました」
「綺麗な湖ね」
「この辺りは水が綺麗ですので、拠点にも最適です」
レビナスたちはわたしを迎えに来る時もここを拠点としていたらしい。
みんなにも、今日は早いがここで1晩過ごす事にした。
女の子たちが料理を作り始める時、仮設テントにいると背後から殺気を感じた。
「ミーシャ、殺気が丸わかりよ?暗殺とは言えないわ。これじゃ怨恨よ?」
「ッ!!」
武術とかに関してわたしは全くの素人。
受け身とかだって取り方を知らないし、正拳突きとか股割りとか居合いとかもできない。
ただ大鎌を魔力補正で力任せに振り回しているだけ。
腕だって斬り落とされても生えてくるし。
「なんで首を刺されても死なないんですか?!」
「死ねないもの」
殺気は丸出しだったけど、躊躇なくわたしの首をダガーで突き刺した。
普通の人間なら致命傷で回復魔法を使う間もなく出血多量で死にそうなくらいにしっかりした殺しではある。
「暗殺は殺しとは違うわ。1秒前まで自分が死ぬなんて思ってないと思わせないとダメよ。熟練した戦士ならその1秒で対処できるわ」
まあ、フィクションの話だけど。
剣と魔法のファンタジーなこの異世界なら有り得なくはない。
「ちなみに言うけれど、ちゃんと痛かったわよ?」
痛覚は一応ある。
痛いと感じた側から傷が治っていくから頭がバグる。
「吸血鬼だって首を刺されてすぐには治らないです」
「ならわたしは吸血鬼より化け物ね」
ダガーをミーシャから借りて、わたしは自分の手首を斬った。
「わたしは魔王の能力で無尽蔵に近い魔力があるわ。だから……」
手首から垂れ落ちた血が真っ黒く、邪悪な気配が膨れ上がっていくなにか。
「ッ!」
咄嗟に魔力を込めて踏み潰すと邪悪な気配は霧散した。
「ク、クロユリ様……今のは……?」
「クロユリ様ッ!一体何が?!」
レビナスたちも駆け付けていた。
わたし自身も突如起きたなにかに頭がフリーズした。
何が起きた?アレは何?
恐怖にも鈍くなったわたしですら恐怖したなにか。
それが、わたしから出てきたなにか。
ゆっくりと手首を見ると、傷はやはり消えていた。
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