第19話 犬猿の仲よし
「どのくらいで魔王城に着くかしら?」
「あと4日程です」
倒れた後、レビナスの部下たちが血相変えて応援に来たらしい。
気絶したわたし、抉れた山の残骸、怯えたレビナスを見て呆然としてたらしい。
キャンプ地からでもわかるくらいの戦いだったらしい。
「それにしてもこの包帯、重たいし動きにくいわ」
「仕方ないでしょクロユリ。下手に自傷行為なんてされてアレがまた暴走したら大変な事になるんだから!」
金属と魔力を練りこんだ金属繊維の糸で作られた包帯で首から下の全身に巻かれている。
ゴシックドレスの所々の露出部分から見える包帯は完全に厨二病を拗らせた痛々しい少女だ。
……せっかくなら眼帯とカラーコンタクトも付けてしまおうかしら……
「別にわたし、料理中にうっかり包丁で指を切っちゃうようなドジッ子ではないのだけど……」
ご丁寧に指先までである。
「これからクロユリには刃物は一切持たせません!」
「……ミーシャ、仕込み刀とか作れるかしら……」
「クロユリ〜顔面もぐるぐる巻きにしてあげるわ〜おいで〜」
「助けてミーシャ!」
「ちょ!クロユリ様!おやめ下さい!」
ミーシャの後ろに隠れながらわたしは華麗にカトレアの攻撃を躱す。
……ミーシャ、いい匂い。ぐへへ。
「クロユリ様……」
「どうしたのミーシャ」
ミーシャが他の暗殺部隊からの連絡を受け取ったらしい。
どさくさに紛れて身体をまさぐっていて顔を赤らめていたのに急に真剣な顔つきだ。
ちなみに現在はミーシャをわたしの傍に置いてその周りに暗殺部隊が警戒する布陣に変更した。
ミーシャは暗殺部隊の中でも耳が特にいい。
モールス信号のような舌打ちを器用に使って通信をしている。
「周りから魔物が1匹もいないそうです。あまりにも不自然だとの報告です」
「……静か過ぎるわね」
気配感知にも何も引っかかっていないらしいし、暗殺部隊もなにかが何かを見つけたわけでもない。
「各自警戒態勢、レビナス隊は非戦闘員をま」
「なにか来るよ!」
進行方向から岩石、真上から大量の弓矢。
岩石に至っては木々を抉り倒してわたしたちへ向かって飛んできている。
威力が半端ないわね。
「カトレア」
カトレアに目だけで結界を張らせ、わたしは飛んでくる岩石を無効化するべく大鎌に魔力を纏わせて薙ぎ払う。
「どちらも警戒範囲外からの攻撃ね。的確な攻撃ね」
「弓矢に風魔法をされています!弓矢はエルフ!岩石はドワーフの得意属性です!」
エルフとドワーフって仲いいのね。
「ミーシャ、暗殺部隊を戻して貰えるかしら。多分エルフに森では勝てそうにないわ」
聞きかじった知識でしかないけど、わたしの暗殺部隊の敵索が通用しないなら無理。
ましてやまだ研修中。初心者マークでも貼っておけば良かったわ。
「レビナス、ドワーフはわたしが相手するから、あなた達はエルフをお願いね。非戦闘員優先よ」
「魔王が幼女と聞いておったが、どちらかと言えば少女じゃの」
「最悪だわ。醜く力ゴリラのドワーフと鉢合わせるなんて」
進行方向のドワーフは歴戦の猛者感溢れる大斧を振り回しながら歩いてきた。
後ろの女エルフは煌びやかな民族衣装に弓矢と細剣を携えている。
「わたしたち、歓迎されているみたいね」
「どこがですか?!」
ドワーフはでかいヤツの後ろにも何人もいる。
パッと見20人。
エルフは悪態を付いた女エルフ以外はいない。
だけど、あの弓矢の数からして相当数が身を潜めているだろう。
「ガキの女魔王に穢らしい半魔の亜人か」
「レビナス、やっぱりわたしもすぐエルフの所に行くわね」
大鎌に魔力を注いでドワーフたちへ振りかざした。
「グゥわァァァァァァ!」
「どのみち進行方向だし、見晴らしがいい方がいいわ。さて、エルフちゃん」
ドワーフたちは大柄のリーダーの背に身を隠してなんとか息をしているが、それでも虫の息だった。
「……はぁはぁはぁ……化け物か」
あとは暗殺部隊が処理してくれそうだし、放っておいてよさそう。
「ごめんなさいね長耳さん。せっかくの同窓会だったのに」
「フッ。力を振り回すだけの魔王なぞ……っ!」
「意外と速いのね」
わたしも重りが付いていて多少スピードは落ちたけど、それでも女エルフは速い。
「ッ!」
両サイドからおびただしい数の弓矢がわたし目掛けて飛んできた。
真上から飛んできた時のより断然速い!
「クロユリ様!」
数が多すぎて避けるのも薙ぎ払うのも無理。
出来ても片側だけ。
別に死ぬわけじゃない。でも痛そう。
不意に一つ一つの弓矢と目が合った。
スローモーションに見える矢の横雨に、わたしの頭の中でなにかがフラッシュバックした。
浮かんできたのは、藁人形だった。
ただ藁人形だけ。
そうして、その次の瞬間には女エルフの背後にわたしはいた。
さっまでいた所には藁人形がサボテンみたいに弓矢が刺さっている。
「なにが?!」
そしてさらに飛んできていた両サイドから悲鳴が響いた。
悲鳴すら綺麗な声で、それがエルフの悲鳴だと気づくのに一瞬遅れた。
「お仲間さんが歌ってるわよ?」
目の前の女エルフの首に大鎌の刃を向け背後から抱き着いた。
「や、やめろ……」
「襲ってきたのはそっちじゃない」
わたしの身代わりになった藁人形からは血が滲んでいた。
わたしはそれを見ながら話を続けた。
「さ、触るな、穢れる……」
「お仲間が泣いて歌っていると言うのに、自分の穢れの心配なの?」
グサッ。
わたしのお腹に細剣を突き刺して来た女エルフ。
「痛いわね」
「あ、あの藁の人形は、なんだ……」
「質問していい立場にあると思っているの?」
わたしはエルフの態度が気に入らなかったので、その長い耳を噛みちぎった。
鈍く呻いたけど、悲鳴はあげなかった。
流石リーダー各なだけあるわね。
しかし痛いらしく、もがかれて密着出来なくったので刺さっている細剣を抜いた。
「わたし、傷がすぐに治るのよね」
わたしの血がべっとりと付いた細剣で女エルフの脚を斬った。
的確に脚の腱を斬ったためか、立てなくなったエルフを踏み付けた。
「貴女、よく見ると瞳も綺麗ね」
細剣で眼を抉ろうとしていると、レビナスに止められた。
「クロユリ様、生かしておかねば情報を聞き出せません」
「……邪魔ね。死にたいの?」
レビナスがわたしの邪魔をする。
ああ、もういらない。
全部消して……
「……ごめんなさい、取り乱したわ」
わたしの中で黒い何かが蠢いていた。
それが酷く気持ち悪かった。
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