第17話 諸刃の剣
真っ白な世界。
地面には相変わらずいくつもの黒百合が咲いては枯れる。
「髪も真っ白。……なんで髪まで白いのかしら?」
というかなんでわたしは全裸で玉座に座っているのかしら。
とりあえずここに来れたし、アレが何なのか問いたださないと。
「死神、はやく出てきてもらえるかしら?」
『ここにいるわ』
玉座の背もたれの上に座っているわたしの前世の姿にそっくりな死神。
「貴女、見えそうよ?」
『キミだって全裸じゃないか?なんで全裸なの?』
「いや、わたしが聞きたいわよ」
なんで前回同様わたしは全裸なのか。
わたしと死神以外の誰も居ないとはいえ、全裸なのは心もとない。
わたしは裸族ではないの。
『創ればいいじゃない?』
「どうやって?」
『そもそもここは貴女の精神世界のようなもの。貴女の創造ひとつでどうとでもなるわ』
「明晰夢みたいなことかしら?」
『それに近いわね』
明晰夢って確か、夢を夢と自覚して想うように見たい夢を見たり行動出来たりすることよね。
これを夢、と捉えていいのかわからないけど、要領は同じのようなので、試しにリンゴを創造してみる。
「……わ。すごい。ほんとにできたわ」
『食べれるわよ。食べてみたら?』
齧ってみると、ちゃんとリンゴだった。
記憶の中のリンゴだった。
『体験した記憶の中のものならなんでも創造できるわ』
「自分にとても都合のいい世界って感じね」
とりあえず皮肉を言いつついつものゴシックドレスを創造した。
今やこの服が1番落ち着く服だ。
前世では落ち着く服という概念は特になかった。
「お洋服も着たし、本題といくわ」
『ええどうぞ』
「まずアレは何?全く聞いてないわ」
『死ねない呪い』
「がっつり襲ってきたわ。身体よこせと言いながらわたしの部下まで襲ったわ?」
その辺のホラーより怖かったわ。
この世の者じゃない。
『アレが出てくるのは貴女が自分を傷付けた時、正確に言うなら自殺しない為のセーフティ。そしてそのセーフティの役割は貴女の無意識の深淵が快く引き受けてくれているの』
「死のうとするくらいならワタシに身体を寄越せって話ね。死ぬ気は別になかったのだけど」
わたしが死のうとしたのは前世の飛び降りの時だけ。
『死ぬ気かどうかは関係ないよ。自分で自分を傷付けるという行為そのものがトリガー。その後に襲いかかってくるかはまた別』
「あんな邪悪なのに襲ってこないとかあるの?漏らしそうなくらい怖かったのに?」
『根本的に貴女と同じ存在よ。貴女が恐れて警戒していれば同じように恐れて襲うわよ』
わたしから生まれた存在。
それがらあれほどの邪気を纏ってわたしと同じ形を成してしまうのを見て怯えない方がおかしいわ。
『貴女が自分を信じてあの深淵を頼れば、力になってくれるわ。けど、貴女が恐れれば己に牙を向く。それだけのことよ』
自分を信じる、ね……
信じたいと思った相手に騙されてたりしてれば、そもそも自分の判断とか信じたい事なんて信じられない。
死神の言うその諸刃の剣は、今のわたしにとってはただ自分の肉を削ぐだけの剣でしかない。
「まあ、アレの件に関してはもう分かったわ。で、なんであの心臓トントンはちゃんと説明してくれなかったのかしら?」
わたしは笑顔で死神に聞いた。
胸ぐらを掴みながら相手の目をよく見られるように額を擦りつけながら聞いた。
『凄いでしょ、アレ』
「心臓を軽く叩いただけで吐血するという素晴らしい効果よね?」
『科学的に考えられる人間の性能を引き上げる最高の技と言っていいわね』
「内蔵ぐちゃぐちゃ、右手は粉砕骨折、頭が沸騰しそうだったわ」
『頭が沸騰しそう、じゃなくて沸騰してたわよ?』
「訂正どうもありがと?」
治るって言っても生き地獄だったわ。
『あれはね、心拍数を魔力で強制的に引き上げて人間の身体の能力値を上げる事ができるの。時間感覚も速くなるから動きも速くなれるし魔力を引き出す力の幅も格段に上がるわ』
「死ねないわたしだから死ななかっただけで、普通の人間は一瞬で死んでたわ」
普通の人間はともかく、鍛え抜かれた戦士でも死ぬわよ。
『それはそうよ。普通の人間は再生なんてしないし、寿命だって縮むもの』
「縮むどころか死ぬわ」
『原理的に言えば、走ったら息が切れて身体が熱くて苦しい、それと一緒よ?』
何段階上の上位互換よそれ。
走って苦しくて吐血したら病気よ。
『ちなみにあんまり使いすぎると回復が間に合わなくて倒れるから気を付けて。死なないけど、戦闘復帰するまで時間掛かったりもするわ』
「そんな大事な注意事項を今更ありがとう」
『ええ。どういたしまして』
……殴りたいわ。
『そろそろいいかしら?わたしは眠たいわ』
「まだ聞きたい事はあるわ」
『なにかしら?』
「まだわたしにはあんな感じの呪いはある?」
『あるかもしれないからわね』
いちいち癪に障る躱し方ね。
「知ってるんでしょ?言いなさい」
『残念だけど本当にわたしは知らないわ。貴女が自分に掛けた呪いで自分が知らないのなら、知らないわ』
そう言ってあくびをしながらわたしの前から消えた。
わたしが自分に掛けた呪い。
掛けた覚えなんてない。
けれどこうして、黒い影がまとわりつく程の闇がわたしから出てくる。
わたしはきっと、どこまでも呪われているのだろう。
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