第72話 わたしのペット

「モモ。頼んだわよ?」

「はい。クロユリ様」


モモはいかがわしく胸元の開いた黒のボンテージドレスに黒網のタイツ、凶悪な踵のついたニーハイブーツを身に付けてタルタエズ王国の王都に立っていた。


わたしが合成樹脂魔法で作った衣装は変態性はともかく機動力はある。

魔力操作の補助を組み込んである。


さすがに露出した肌は防御のしようもないが、並の刃くらいなら斬殺されたりはしない強度はある。


暴力的なモモの胸はしっかりと谷間を晒している。

胸元には黒百合の刺青を個人的にしたらしい。


「まだ勇者たちは使ってないけれど、余裕ね」


5万の屍兵で一気に王都まで侵攻し、王都を落として終了である。


「使うまでもありませんでしたわ」


キャンベルの死霊術によって操られた兵は脳のリミッターを外されており、並の人間でも化け物級の破壊力を持っている。


そしてわたしが施した術、【黒翼果クロノ・ショレア】で樹根神経繊維を身体に這わせて脆い身体を強化。


モモ曰く、一体一体がAランク相当の冒険者並の力を持っているという。


個体差によってはSランクにも相当するらしい。


そんなのが5万もいるから王都を除く街や村は一瞬で片付いてしまった。


「それでは催しといきましょう」


トゲのついた杖を持ち、夜空に向かって魔法を放った。


勇者召喚で術者のバックアップをこなしたらしいモモの魔力量や魔力操作はかなりのもの。


「始まるわね」


杖を真横に振り、タルタエズを囲うように真っ白い魔法の弾幕が架かった。


そして今度は杖を下から上に勢いよく上げた。

真っ白い弾幕が下から解けて煌めきながら弾幕が上がる。


「クロユリ様、見ていて下さいませ」


タルタエズの夜空には真っピンクなハートの花火が打ち上がった。


いくつものハートが炸裂しており、百合の花も描いてみせた。


戦争中にはあまりにも場違いな程にいやらしい空気になった。


ピンク一色。

盛大な魔力の無駄使い。


なぜか内股を擦り合わせて悶えているモモ。


「これは……クロユリ様への愛の証明……んっ……これからなの、です……」


ハート打ち上げ過ぎて果てたのね……

たくましい性欲をお持ちで。


「モモ〜可愛い演出だったわよ〜」

「ありがとうございます。クロユリ様」


モモの頭の中がピンクだらけだという事がよく分かったわ。

心の中で「淫乱姫のモモ」という二つ名を与えた。


「ここからが本番でございます」


照明弾を打ち上げて照らされるタルタエズの城壁。


「第1から第4部隊、蹂躙せよ」


4万の屍兵が一斉に翔ける。


熟練した戦士のような無駄のない走りは一瞬でタルタエズ兵との距離を詰める。


勢いに圧倒されてタルタエズ兵の防衛線は早くも穴だらけになっている。


賢王はなにを思うのだろうか。

魔族とニンゲンの戦いだったはず。

それが今、朽ちたニンゲンと刃を交わせている。


それも、ついこの間連合軍の兵士として送り出した自国の兵士の死体を弄ばれている。


「モモ」


わたしはモモの隣に来た。


「わたしを守ってね?」

「はい。命に代えても」


モモがわたしの腕を掴んで豊満な胸を押し当てながら王都へ歩く。


穴の開いた敵の防衛戦線を優雅に歩いていく。


周りには1万の屍兵が整列している。


城壁の上から飛んできた魔法や弓矢を屍兵が斬り落としていく。


隙間を縫って襲いかかってきた手強そうな冒険者を屍兵が串刺しにして腹を裂いた。


「賢王というわりには結構呆気ないわね」

「クロユリ様のお力が圧倒的なのです」

「わたしじゃないわ。今日はモモが主役よ?」


モモとわざとらしくイチャイチャしながら城壁近くまで進むと、タルタエズの王カンデラが現れた。


屈強な近衛兵が制止するもカンデラ王は無視して歩き出した。


「グランドルの女王バーメル、堕ちたか」

「ええ。恋に落ちましたもので」

「世も末だ」

「ニンゲンの世などわたくしにはもうどうでもいい。クロユリ様さえいればそれでいいのです」


モモがわたしを抱きしめて胸で溺れそうになった。

危うく女体の肉海で溺死するところだった。


「それで本日はどのようなご要件で? 下品な花火に息のないお友達を5万も引き連れてピクニックですかな?」

「観光ね」


カンデラ王は捻くれた言い回しが大変お好きなようなのでわたしもそう答えた。


「生憎とタルタエズは観光業はあまりさかんではない故、お恥ずかしい所を多々お見せしてしまうかもしれん」

「問題ないわ。ニンゲンという生物の生態を観に来ただけだもの」

「いやはやそれこそ見せられませんな。タルタエズの恥をお嬢様方にお見せするわけにはいきませんな」


突如、両サイドから弓矢がいくつもの飛んできた。

弾道の読めない矢は風の加護か何かを受けているようだ。


エルフの矢だとすぐに思った。


「モモ」

「はい」


わたしは棒立ちのままモモに任せた。


ちなみに、モモが気付いているかわからないけど、頭上から大きな岩石も落ちてきている。


あれで潰されたら流石にわたしでも死ぬかもしれない。あ〜どーしよー。


しかしそんな杞憂も意味はなく、その場に鈴が鳴った。


「ま、まさか……!!」


大量の矢を斬り飛ばし、落ちてくる巨大な岩石を真っ二つに切断したのは勇者たちだった。


「わたしのペットたち。勇者改めニクイ兵♪」


ニクイ兵9名はほぼ全裸のような奴隷服。首には鈴が付けられている。


ぱっくりと背中の開いたデザインで、背中に「日本語」で雌豚とか3穴◎、メス堕ちなどの卑猥な文字から漢字で名前を刺青にしたり本人の好きな人の名前とかめちゃくちゃになっている。


全員薬漬けにしてあるが、かろうじてというかギリギリ理性が有りはするらしく、服装や貞操、尊厳などがズタボロにされている事を認識しているのか泣いている。


手にはしっかりと『勇者の剣』を握らせてある。


ちなみに、ニクイ兵の「ニクイ」は醜い、憎い、身喰いなど様々な意味を丹精込めて名付けてある。


「エルフとドワーフたちにもおしおきが必要みたいね。モモ」

「はい。クロユリ様の厚意を無駄にしてしまったのですから」

「己が身をエサにして自滅覚悟の攻撃だったみたいだけど、残念ね?」


タルタエズの賢王カンデラの顔は絶望に歪んだ。


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