第13話 王国side 勇者たちの現状
「妾はグランドル王国女王、バーメル・シルーバ・グランドルじゃ」
映画で見るような王様の玉座に広間。
真っ赤なカーペットの両サイドの兵士たちも歴戦の猛者を思わせる風格だった。
「女王だとかどうでもいい。魔王を殺せなんて言われてもな、はいそうですかってなるわけねーだろ?」
「ちょっ!智樹!女王様だから!偉い人だから!」
「うっさい佳奈。勝手に呼ばれて魔王だかなんだか殺せって言われてんだぞ?ノートの貸し借りとは訳が違う」
「勇者様とは言え、女王様への侮辱は許容し兼ねる」
「うるせぇモブ兵士。じゃあお前、今から俺たちの世界に行って政治家殺せって頼まれて即答すんのか?なぁ?」
険悪な空気が漂っている。
ここに来る前の俺たちは黒崎の自殺の件でクラス崩壊しかけていてた。
高1で既に進路を真面目に考えていた智樹からすれば他人どころか異世界を助ける余裕なんてない。
異世界の兵士相手にあんな態度をとるのは仕方ない気もするが、話が進まない。
「智樹、気持ちはわかるけど、まずは話を聞こう」
「光也の言う通りよ。なにか決めるにしても、情報が無さすぎるし」
口々に言われるのは、勇者として魔王を殺せ。
つい昨日まではペンを握っていたのに、これから剣を握れと言われるのだ。
あまりにも勝手すぎる。
だが俺たちがやらなければならない事はまず魔王討伐。
次は元の世界に帰る。
正直元の世界に帰る事を最優先にしたい。
「妾の部下が失礼致しました。勇者様方の意見も最もです。ですがどうか、この世界の為、どうかお力をお貸しください」
そう言って女王は頭を下げた。
慌てふためく兵士や大臣、メイドまでもが狼狽している。
それでも女王は頭を下げ続ける。
「魔王が復活した今、我々は人類存続の危機でございます。もはや我々は勇者様方に頼る他ありません。どうかお力添えを」
智樹はやるせない表情と苛立ちをあらわにしたが、それでも飲み込んでいるようだった。
一国の女王から頭を下げられる状況なんて俺らの誰も経験なんてしたことない。
頼まれたからと言って、できるのかもわからない。
「あ、あの……」
怯えながらも小さく手を上げたのは阿水静だった。
か細くて小柄でいつも自信なさげな阿水が自分から何を言うのは珍しい。
「わ、私たちは、ここに来るまでただの学生でした。……そ、そのぉ、急に武器を持って戦えって言われても……」
阿水は既に半泣きである。
魔王を殺す。
生きている何かを殺すという事だけでも罪の意識に苛まれそうなのに、人型の魔王だ。
学生だった俺らからすれば、人間を殺すとの意識的には大差ない。
「その点につきましてはご安心下さい。勇者のみ使用ことの出来る武具を保管してあります」
「そもそも聞くが、俺たちが勇者って根拠は何なんだ?てか俺ら10人がみんなそれぞれ勇者なのか?多すぎだろ」
確かに。
小説だとかの創作物では大抵勇者って1人じゃないか?
「私の弟の話だけど、4人の勇者がそれぞれ召喚される創作とかもあるって言ってたし、創作の話になっちゃうけど、1人だけじゃない場合もあるかも……も?」
彩希自身も自信なさげに智樹に言った。
彩希が詳しい訳では無いし、そもそも現実と創作とではやはり違う。
だが、1人と決めつけるのも固定概念に囚われすぎだと思った。
ここは異世界。魔王なんてのがいる世界だ。
なるべく固定概念は捨てなければ。
「ではまずトモキ様の質問から答えさせて頂きます。と言っても、我々も過去の文献を元にしかお話できる情報はありませんが」
古びた石版を取り出した女王。
「皆様の首には勇者の紋章が刻まれています。その紋章が勇者の証になります。そして今回皆様10名が召喚されたのは、その数が居なければ今回現れた魔王を倒すことが出来ないという可能性です」
石版に加え、黄ばんだ羊皮紙の束も取り出して女王はさらに話を続けた。
「古の記録の魔王との戦いでは、その時々の魔王の戦闘力や力に応じて勇者は現れるとされています。異世界から来た転生者、あるいは転移者が魔王となる事もあり、魔王が異世界から来た場合は勇者も同じ世界から召喚しているという歴史です」
「って事は、今回の魔王は異世界から来たって事か」
「さらに言えば、その魔王と勇者は因縁や同じ世界から来た傾向にあるようです」
「同じ世界って?」
「皆様がいた世界とはまた違う世界、としか分かりません。文化が根本的に違う、などの情報しかありませんのでいくつも異世界があるという根拠ではありませんが」
俺たちのいた世界のパラレルワールド?
根本的に文化が違うとかはイメージが湧かない。
宇宙人って言われた方がまだわかる気もする。
「石版や羊皮紙などで遺されている情報ではこれまでに魔王は最初の吸血鬼の魔王、世界を枯らした植物型の魔王、獣の群れを統率する獣の魔王です。そのうちの魔大樹の魔王と対峙した勇者は異世界人だったとされております」
「じゃあ、今までの魔王は3体で、今回が4体目?」
「いいえ、吸血鬼の魔王の詳しい記述が最も古い情報ですが、それまでにもそれらしい存在はいたような文献も石版などにわずかながら残っています」
異世界から来た魔王と勇者。
そこは別に問題じゃない。
「魔大樹の魔王と戦った勇者はその後どうなったんだ?魔王倒して元の世界にちゃんと帰れたのか?」
当然智樹がそこに食い付いた。
俺らにとってはそれが1番重要だ。
「この世界に留まったと記されています。その後勇者様は貴族令嬢と結婚し、その子孫が獣の魔王と対峙した勇者に選ばれている、という流れになります」
「俺らは帰れるのか?」
「おそらく。勇者様の子孫が代々『ゲートの番人』をしております。ですが、帰るには魔王の魔力が必要との事です」
「具体的には?」
「魔王の心臓、とだけ。なにかしら核のような物を魔王を倒し入手しなければいけないのかと思われます」
結局、俺らは魔王を倒さなければ帰れない。
女王の話しぶりからして、その核の情報などもあやふやな状況で確実に帰れるかもわからない。
イラつく智樹を始め、俺ら10名はこれから人型の魔王、もといヒトを殺さなければいけない。
分かったのは、それだけだった。
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