第10話 ゴブリンキング

「どう思う?ヴェゼル」

「お言葉ですが、な、なぜ私に?」

「どう思うかと聞いてるわ」


村に来る前にわたしに歯向かったヴェゼル。

彼の実力はレビナスの次くらいには強い。

でも、まだ若い。


わたしが言うのはおかしいけどね。


「先程の奇襲での戦闘力を考慮しますと、総力戦はやはり厳しいかと。ゴブリンと言えどあの数にこの戦場、囲まれれば群がられる。乱戦に持ち込んでも仲間同士での連携が厳しくなり全滅は必然かと」


村人たちの人口の内、戦えるのは12人。

戦えない女子供を守るとすればかなり厳しい。

ヴェゼルの考えは最もだと言えるわ。


「なら貴方ならどうする?」

「ゴブリン300匹を率いているゴブリンを殺します」

「率いているのは?」

「人海戦術を見るにおそらくは武闘派のゴブリンキングかと。ゴブリンシャーマンなどの魔術系ゴブリンも可能性は無くはないですが……」


ゴブリンキングくらいはなんとなく知っていたけど、シャーマンとかもいるのね。知らなかったわ。


わたしの知ってる情報?はちっさい。汚い。キモイ。あとは性欲魔人。


全部偏見だし、実際のこの世界の魔物と一致してるかも実はちゃんとわかってない。


「統率者を殺しても、多分ゴブリンたちは散らばって逃げると思うけど?」


四方八方バラバラに逃げて、この隠蔽してある村を接触されて位置を特定されたらゴブリンたちは正気を取り戻して襲ってくるかもしれない。


ボスを殺されても、せめて一矢報いてやろうくらいはしそうだし。

ゴブリンの眼って嫌いだわ。


「ヴェゼルの見解ではどうやっても勝てない、または全滅覚悟で統率者を殺す、と言ったところね」

「……はい」


戦力差があり過ぎる。

それは仕方がない。


「さぁヴェゼル、始まるわ」


仕掛けはもう済ませてある。


「……ゴブリンたちの足が止まった……?」


ゴブリンたちの進行方向にがっつり村を構えているわたしたちからすれば、アホ顔を晒して周りをキョロキョロしだしたようにしか見えない。


「キシェェェェェェッ!」


そうしていきなりゴブリンたちは自分達で戦い始めた。


「何が起こっているんですか……」

「幻惑魔法をばらまかせたわ。ゴブリンたちは自分達の仲間を敵と勘違いして殺しあってるの」

「……あれだけの数に、幻惑魔法を?」

「わたしたちが洞窟を出て、奇襲を喰らうまで、誰もこの村を察知できなかったでしょ?それだけ強力な魔法を使えるという事なのよ?」


同族同士で血を流し合っている最中、薄らと霧が戦場を覆っていくが、ゴブリンたちは気付けない。


響く鈍い何かを殴る音。

何かの液体が草原の草を濡らす僅かな音。

小人たちの悲鳴。


「これはひとつの平和よ。ヴェゼル」

「……へ、平和、ですか……」

「ええ。だって、わたしたちの血は流れてないわ」

「確かにそうですが……」

「平和はね、敵がいないと成立しないの。いつだってそう。敵がいなくなったら、今度は自分たちで殺し合う」


ありふれた高校のありふれたクラス。

最初はそうだった。

でもわたしは知っていた。

結局、わたしはまた虐められるって事を。


「霧の周りにいる彼らは、何を見ているんですか?」

「ゴブリンたちの動きよ。あの霧は魔力で作ってる。だから彼らには視えるの」


彼らは光であり闇。

そうして生きてきた。


「簡単な話よ。幻惑魔法掛けたりできるんだから解除もできるし、隠せるし視える」


霧から出てきたゴブリンを弓矢で射抜き、または音もなく刺殺。


「戦闘力で言えばヴェゼルたちよりは劣るわ」


それでもわたしたちに奇襲を仕掛けたのは家族の為。

己を犠牲にしてでも護りたいものがある。


「護るものがある者は強いのよ?ヴェゼル」


わたしにはなかったけど。

なかったから今ここにいるのだと思う。


ヴェゼルはこの戦いを見てなにを思うのか。

魔族が何を思い、どう生きていくのか。


「ヴヴァァァァァァァッ!!」

「あら、驚いたわ」


ゴブリン共に幻惑魔法掛けて殺し合わせると教えたけど、ゴブリン達への幻惑を強化してゴブリンキングを襲わせてるのね。


滑稽なのが、ゴブリンたち自身は頑張って敵と戦ってると思ってるのが健気で笑えるのよね。


「ゴブリンキングって、あんなに大きな棍棒を振り回せるのね。意外と筋肉質だし」


戦闘員たちもゴブリンに紛れてゴブリンキングへの攻撃をしてる。

いい性格してるわね……


「クロユリ様、なぜ半魔たちはゴブリンに紛れて攻撃しても気付かれないのですか?」

「幻惑魔法の重ね掛けじゃないかしら?もしくはそれぞれ分けて掛けてるのかしら?」

「幻惑魔法の重ね掛けではございませぬ……」


わたしの元にやってきたのは村長のヤコタだった。


「解説してくれるの?村長さん」

「あれは幻惑魔法と光魔法をそれぞれか掛けております」

「同じだと思ってたわ」

「クロユリ様は全て知っておられるのでしょう……」


買いかぶられてる気がするけど、まあいいわ。

なんかヤコタのわたしに対しての当たりが柔らかいし。


「ゴブリンキングに掛けているのは光魔法でございます。強い光は目を潰し、全てを覆う」

「キングには光を、ゴブリンたちには闇を……ね」


目の前の光景を見て、わたしはゾクゾクした。

力だけでは出来ない事が、彼らにはできる。


キングに真っ黒い光を。

民にはその真っ黒い光さえも眩しく映る闇を。


「ヤコタ村長、みんなに武器を持たせてあげて」


わたしがそう言うと、ヤコタ村長は目を見開いた。


「レビナス、転がってるゴブリンが死んでるか全部確認してくれるかしら?死んだフリとかしてたら遠慮なくね」

「かしこまりました」

「ヴェゼル、貴方はヤコタ村長たちを護るのよ。小さな子供もいるんだから」


ヴェゼルが後ろを振り返ると、涙を浮かべながらも静かな怒りを隠し持つ半魔の子供たち。

子供だけじゃない。


みんな、愛する誰かを醜いゴブリンに殺された。


「見届けにいくわよ」



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