第49話 王国side 魔大樹の聳える王都

オレたちが眠っていた間に大臣が誘拐され、そして町に火を放たれ王都は騒ぎになっていた。


実行犯は不明。

火を放たれた町では大量の死者が出た。


「包帯をもっと持ってきてくれ!」

「おいこっちの患者をさきに治癒してくれ!」

「こ、この子を助けて!お願いです先生!」


深夜に火を放たれたため、多くの者が逃げ遅れて被害が拡大していた。


オレたち勇者は、こんな光景を今まで見た事はなかった。


昼間になっても死者は増え続けた。

老若男女構わず死んだ。

真っ黒く焦げた小さな手を見て吐きそうになった。


「バーメル女王!オレたちを魔王討伐に今すぐ行かせて下さい!」


勇者として召喚されて、町の住人を殺させて、大臣とメイドさんたちを攫われて、一体何が勇者だ。


「今すぐにはできません」


バーメル女王は首を横に振った。


「もうすぐ他国との連合軍が結成されます。魔王討伐はその時でなければなりません。魔王城までの戦闘で勇者様方を疲弊させる訳にはいかないのです」

「だけどっ」

「耐えるのです。今私たちは耐える事しかできないのです。唯一の希望である勇者様方を失えば、我々ニンゲンはもう為す術はないのです」


ご理解下さい、と頭を下げるバーメル女王。


「光也、これはドラ○エとは違うんだ。判断を間違えば、俺たちは死ぬ。俺たちも死ぬんだよ、ここじゃ」


智樹に肩を叩かれて落ち着けと止められた。


「オレだってわかってるよ……でも、じゃあどうしたらいいんだよ?剣を振ってる間に襲撃されて、寝てる間に誘拐に火事、オレたちは何のために……」


訓練して充実した疲れが、こんなにも自分の無能を自分に教えてくれるなんて思ってもなかった。


「魔王クロユリはとても狡猾なのです。この騒動すらも罠である可能」

「……クロユリ……」


オレたちはその名を聞いて絶句した。

嫌な予感はゴーレム戦でしていた。


「え、ちょっと待って、魔王はクロユリって名前なの?本当なの?」


佳奈は冷や汗を流しながら聞いた。

全員が落ち着きが無い中でも佳奈はとくに動揺していた。


炎の勇者である佳奈はいつも堂々としていたが、ここに来て自殺したクラスメイトのあだ名を聞いてしまっては仕方ないだろう。


「はい。首脳会議に乱入して来た時に確かに魔王クロユリと……」


会議に魔王が来たのは知っていた。

他でもないバーメル女王から聞いたんだ。

しかし、「魔王」が来てエルフの王女とドワーフの戦士を解放し、その二種族の撤退を促したと。


だけどどう名乗ったのかは聞いてない。


「……復讐しに来たんだ」


佳奈は頭を抱えて怯え、彩希は吐き気を催していた。

阿水さんは後ろめたそうに視線を地面に落とした。


他のみんなも似たような反応だった。


自殺する前に黒板に血で書かれた「ごめんなさい」という文字。


オレには原因がわからないが、病んでいたんであろう黒崎がオレたちに恨みを抱いていた事もありうる。


「……なあ、なんで魔族が忍び込んで攫って行ったってわかるんだ?」


智樹が話を逸らそうとその話をバーメル女王に振った。


オレたちの中で暗黙の了解となりつつあった黒崎の話。

それから今は少しでも離れたかったが故だろう。


「襲撃者、戦闘した者は全員死んだんだろ?」


与一もその話を深堀しようとした。


魔族の話では結局黒崎に繋がりそうな気がしたが、この場のみんなはバーメル女王を覗いてパニックだ。


「報告ではニンゲンの姿をした何者かが大臣、そしてメイドを攫ったという報告、その後追跡し戦闘になり死亡。見つかった血痕からは、王国兵士と魔族の血が残っていたのです。半魔の血もあったらしいですが……」

「そ、それってさ、他国のニンゲンが魔族に見せかけてこの国を攻撃したって解釈もできるよな?」


智樹がニンゲン側を疑うように言った。


「死体が無い。魔族の血や他種族の血を持っていればそれらしく偽装は出来なくもない。魔族がニンゲンの姿に化けたのか、ニンゲンが他国のニンゲンの姿をして魔族の血を残して目的を分からなくしているのか……」


オレもその可能性を考えて言った。

魔王はわざわざグランドル王国に来てエルフとドワーフの撤退を促した。


目的がニンゲン側だけを殺す為か、それとも、オレたち勇者、もといクラスメイトであるオレたちだけを狙う為に孤立させようとしている可能性……


「……他国に我らグランドルを裏切らせて自国を攻めてないように交渉……」


他国が持ち掛けたか、あるいは魔王クロユリからか。


考えればキリがない。


「女王様!中央広場が!!」


駐屯兵が緊急の連絡でドアを勢いよく開いて叫んだ。

そしてその兵士はさらに驚いた顔をで窓を指さした。


その光景を見てオレたちは声を失った。


町から、巨大な樹が蠢くようにして伸び続けていた。


「……な、なんなんだ……」


急激に伸び続けているその樹は王城を見下ろす前高く伸びている。


「……あ、あれは、魔大樹……」


バーメル女王は膝を着いてその樹を見た。


太陽の光は王都を照らしてはくれなくなった。


「……どうなってんだよ……」


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