第48話 ヴェゼル隊一行、お疲れ様
気がつくと私はヴェゼル隊長に抱えられて走っていた。
ヴェゼル隊長は走っているわりに心臓の音が弱い。
「隊長」
「起きたか」
「もう立てます、たぶん」
「そうか」
ヴェゼル隊長は少し焦げ臭かった。
見れば傷口を焼いて無理矢理塞いでいるようだった。
「町に火を放っておいたから追手はしばらく来ないだろう」
「それより隊長、大丈夫なんですか?」
「無理を出来なければ死ぬだけだ」
「とりあえず、みんなと連絡を取ります!」
私は亜人にだけ聴こえる音で助けを求めた。
ヴェゼル隊長をこれ以上動かしてはいけない。
すぐに返事が来て、迎えに来てくれるみたい。
私はヴェゼル隊長を茂みに隠して隠蔽魔法を掛けて存在を隠した。
そして限界まで聴覚を研ぎ澄まして静かに待つ。
「もうすぐ助けが来ますからね」
「……」
ヴェゼル隊長の息は浅い。
血を流し過ぎたうえに無理矢理止血したから体力も限界に近い。
私は少しずつ冷たくなっているヴェゼル隊長に抱きついた。
「大丈夫ですから」
「……どうして、そこまでする?」
「だって、仲間ですから」
私だって完全に割り切れているわけじゃない。
クロユリ様とレビナス様たちがグレーテ大森林に続く洞窟から現れた時、私たちは殺そうと奇襲した。
ヴェゼル隊長が内乱を企てて私たち半魔を殺そうとした時、私たちは殺意を持って抵抗した。
「クロユリ様が許したのなら、私も許します。それだけです」
「……そうか」
「それに、ヴェゼル隊長だって私を抱えて逃げてくれたじゃないですか。同じだと思いますよ」
ヴェゼル隊長は小さく笑って血を吐いた。
私はヴェゼル隊長が自然に笑うところを初めて見た気がする。
「ふたりとも、おアツいわね」
「「!!……」」
樹の上にいたのはクロユリ様だった。
なんでここに?!
てかなんでニヤニヤしながら観察してるの?!
「面白いものが観れたし、わたしはそこそこ満足ね」
クロユリ様は地面に着地して薬を手渡してきた。
「エリクサーよ。ヴェゼルに飲ませてあげて」
渡されたエリクサーを瀕死のヴェゼル隊長に飲ませた。
するとヴェゼル隊長の身体が光に包まれた。
心臓の音も安定していくのが聴こえる。
「クロユリ様、ありがとうございます」
「ええ」
クロユリ様は私にもエリクサーをくれた。
有難く飲むと、同じように身体が全回復した。
「こ、これ、凄いです……」
「ついでに魔力も全回復するように作ったわ」
【瞬光烈花】で魔力が枯渇してだるかった身体が嘘のように軽い。
「あ、あのぅクロユリ様、どこから観てたんですか?」
「全部よ。任務開始から全部」
「全部ですか?!」
「ええ全部」
にっこりと笑顔のクロユリ様。
なんだろう、なんか凄く恥ずかしい。
「しかしクロユリ様、どうして……」
ヴェゼル隊長も少なからず動揺したのかそう聞いた。
しかし、クロユリ様は私とヴェゼル隊長の頭を撫でた。
「背中を預け合う仲間、家族、友達がいるっていうのは大切な事よ。辛い時、あなたの傍には誰がいる?」
わたしには居なかったけど。と笑って話を続けるクロユリ様。
「ヴェゼル。わたしはね、あなたたちは、わたしみたいになってほしくないわ。復讐に囚われるだけの人にはなってほしくないの」
悲しそうに笑うクロユリ様。
確かにクロユリ様のニンゲンに対する怨みは並大抵のものじゃない。
クロユリ様は無邪気な子供のような一面があり、同時に残虐でもある。
でも優しくて、人間味があるのか無いのか分からなくなってしまう。
前世のクロユリ様と今のクロユリ様とで何かが乖離しているのかもしれない。
「ニンゲンを怨み、ニンゲンを嫉み、転生し魔王となっても尚わたしはニンゲンの姿。皮肉よね」
「……いえ、そのようなことは」
「けれどヴェゼル、あなたはまだ大丈夫」
カトレア様を傷つけたヴェゼル隊長を優しく撫でる。
愛おしそうにそうするクロユリ様は、なぜか寂しそうに見えた。
「というわけで、みんなと合流しましょうか。捕虜の拷問とお薬の実験もしたいし」
そう言った次の瞬間にはいつものクロユリ様に戻っていた。
本当にクロユリ様はよくわからない。
「まだ近くにニンゲンいるわね」
るんるん気分のクロユリ様は自分の腕を噛みちぎって黒い血を垂れ流した。
この光景は何度見てもぞっとする。
「【影狼】、その辺のニンゲン取ってきて」
一斉に駆け出すクロユリ様の影狼たち。
クロユリ様が来てくれた事で私の警戒が緩んでいたのだろう。
それを察知できるクロユリ様は一体どうなっているのだろうかと思った。
その後はゲイルたちと合流してまたあの半透明の箱に入れられた。
もう1つクロユリ様は同じ箱を創り出してニンゲンたちを入れた。
ニンゲンたちは雑に放り込まれていて呻いている。
可哀想に。これからさらに辛い空の旅にご案内されるのだから。
「準備はおーけーね」
クロユリ様は背中から黒い翼を生やして私たちを持ち上げて軽々と飛んだ。
森を見上げる状態になり、ニンゲンたちが住んでいた王都はかなり遠く見える。
「あ、そうだ」
するとクロユリ様は急に自分の左眼を抉り取った。
「これから戦争をするのだから、ニンゲンたちに置き土産」
そう言って抉り取った眼球を王都に向かって投げた。
爆発でもするのかと思ったけど、何も起こらない。
「成長が楽しみね」
クロユリ様はそう言って笑い、魔王城へ向かって猛スピードで飛んだ。
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