第8話 夕暮れ襲撃

ぽちを森に放ってから、魔王城までの道のりはかなりスムーズになった。

そのまま1日で森を囲う山脈をすり抜ける洞窟を抜けた。


「陽も暮れ始めてきたし、そろそろどこかで休みたいわね」

「そうね」


辺りは草原が広がっている。

魔物が集まってきてもすぐにわかるくらいには何もない。


「屋根が無いのは困るわね」

「じゃあわたしが土魔法で屋根を……」


わたしの背後から殺気を感じた。

しかしレビナスが敵の攻撃を受け止めた。

まあ、多分喉をかっ切られても死なないんだけどね。


「見えないわね。でも複数いる?」


透明人間みたいに姿は見えない。

足音もしないから、暗殺者みたいにどこから来るかわからない。


レビナスの部下たちも一応攻撃を防いでいるけど、かなり厄介みたい。


「……休みたいって言ったばかりなのだけど」


夕日を背にして攻撃を仕掛けてくる見えない敵。

仕方がないので、わたしは大鎌を召喚した。


「わたしの体はまだ子供だから、そろそろお眠の時間なの」


敵がどこにいるかわからないから雑になってしまうけど、ごめんなさいね。


「レビナス、下がってて」

「は、はいッ!」


敵を脅えさせるはずだったのに、レビナスたちが先に怯えてさせてしまった。


「邪魔」


わたしは大鎌に魔力を流し込んで、大鎌の柄の先っぽを地面にノックした。


わたしの体はまだ幼いからか、前世のときより感情抑制のコントロールが難しい。


なので抑えずに流れをコントロール。


わたしから広がる憎悪の波紋に当てられた暗殺者たちの動きが止まり、姿を現した。


敵は5名。

若い男女2名ずつと老師って感じの雰囲気の人の5名。


「……可愛い」


前世ではメイドカフェなるものやアニメや漫画でしか見ることのなかったもの。

そう、ケモ耳。


「……じゅるり……」


空気を揉みしだいて近寄るわたしを見てさらに怯えるケモ耳たち。


「クロユリ様、この者たちに不用意に触れてはいけません」

「それはなぜ?半魔だから?」


見た目はイメージ通りの亜人。

しっぽやケモ耳、所々の毛並み。


けれど、女騎士たちと戦った時となにかが違うのは感じた。

たぶん、わたしの魔力に対しての怯え方だ。

獣に近いからより敏感なだけなのかと思ったけど、反応はレビナスの部下たちと大差ない。


「そう」


カトレアも半魔だ。

見た目は人間と変わらないし、カトレアとのお風呂だってなにも違和感はなかった。

お風呂と言っても水浴びだけど。


「ならわたしはニンゲンも魔族も滅ぼす事にするわ」


レビナスたちはおろか、その場にいた全員が怯えた。


「わたしは次期魔王だけど、一応ニンゲンなのよ?わたしがどっちを滅ぼしても、どっちも滅ぼしてもいいわよね?」

「で、ですが!!」


レビナスの部下が食い下がろうとしたけど、レビナスがそれを止めた。

怯えているのに、それでも訴えを止めないレビナスの部下。


わたしに向かって吠え続けるレビナスの部下は悲しげに泣き崩れた。


憎悪も嫌悪も恨みも悲しみも全部全部叫び散らして、何を言っているかわからなかった。


「貴方は、いいわね……」


わたしもそうして、もがいていればもう少し違う何かがあったかもしれない。


「名前は?まだちゃんと聞いてなかったわ。教えてくれるかしら」

「……ヴェゼル……です」

「ヴェゼル、貴方のその感情は全部わたしが受け止めるわ」


ゆっくりと顔を上げるヴェゼル。

大人だろうに、そんなくしゃくしゃな顔して。


「その上で、わたしを信じてくれると有難いわ。それが出来なければ、わたしを殺してもいいわ」


ヴェゼルがわたしを殺したところで何かが解決する訳はない。

そもそもヴェゼルはわたしを殺せない。

わたしに怯えて震えていた彼にはわたしを殺す能力はない。

その能力があるならわたしではなく彼が魔王になっているはずだもの。


「レビナス、あなたたちもよ。あなたたちが半魔に何を思って憎んでいるかは知らない。不満があるなら言ってもいいし、わたしを殺しにきてもいい」


……魔族全員とか勝てる気はしないけど。


「わたしはわたしの観たもので全てを判断するわ」


今度は、閉じこもってないでもっとふれていたい。

今度は、もっと自由でいたい。


「というわけでケモ耳さんたち、わたしたち、今日泊まる所を探してるのだけど、泊めてくれないかしら?」


一同ぽかんとする中、わたしだけはケモ耳はぁはぁを隠すのに必死だった。


「わざわざ夕暮れ前に姿を消して襲いかかってきたのはなにか事情あっての事だと思うけど、わたしはもう眠いわ」


わたし、こう見えてまだ幼女だし。


「お願いできるかしら?」


襲いかかってきた者たちに泊めろというのは頭がおかしいと思われるだろう。


けど、襲撃者や野盗の類いなら夕暮れ時なんかに来ないだろう。

少なくとも洞窟を抜けてから認識されたと過程する段階なら、だけどね。


「たぶんだけど、近くにあなた達の住処があるんじゃない?」


わたしはケモ耳たちの中の年長者にニッコリと笑顔を向けて聞いた。


「……わかりました」


観念したかのような物言いは腑に落ちないけど、了承してもらえた。


……もふもふ。

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