第8話 俺は強くなる

 “冒険したいならもっと強くなりなさい” 


 リンゼさんに言われた事だ。


 本当に俺は浅はかだった。魂を探す方法があったとして、探すには色々な場所を巡らなければならない。

 なのに俺は、今すぐ行けば見つけられるかもなんて憶測で動いた。いや魂を探す事が可能なのかどうかも憶測に過ぎないが、行動しなければ始まらない。


 すぐに追い掛けたところで、リンゼさんに話を聞いたり色々としていれば結局離されてしまうだろう。それに魂の移動速度が俺よりずっと速ければ、真っ直ぐ走って追い付くのは不可能だ。

 魔物がいるというこの世界。あんなドラゴンも存在する。俺はそんな所を、歩かなければならないんだ。


 強くなろう。堂々とこの世界を旅できるように。あのドラゴンはともかくとして、その辺の魔物くらいは自力で倒せないと話にならない。

 この村の人達は農業以外にも、魔物を狩って食べて生活している。旅が出来るほどじゃないが、それなりには戦えるみたいだ。


 この村に住むダイアスさん。昔は世界中を旅していたという。そしてリンゼさん曰く、この人もドラゴンを倒せるとか……

 この人に戦いを教われば、俺は強くなれるかもしれない。いや強くならなければならない。俺はダイアスさんに弟子入りを申し込んだ。


「ダイアスさん! 俺に剣術を教えて下さい!」

「良いぜ!」


 1秒でOKされた。


  *


 俺に続いてエルノアも弟子入りした。

 で、さっそく教えて貰う訳だが……


「ちょっと頭貸せ」


 そう言ってダイアスさんは、俺達の頭に手を置く。


「なるほど……アルフ、お前に魔法の才能はねぇ! 悪いが諦めな!」


 アルフとはもちろん俺の事で……いきなり才能無しと言われた。いやそんな事ある? しかも剣術習いに来たのに魔法の話から始まるのか。


「おっと、別に魔法が使えないって訳じゃねえよ。ただ所持してる魔力量が少ねえから、魔法を主体に戦うのは無理ってだけだ」


 ああ、そういう。

 魔力を消費して魔法を発動する、って感じかな?


「ダイアスさんは魔法使うんですか?」

「師匠と呼ぶがいい。使うぞ。ただし俺もお前と同じで魔力量は全然ねぇ。だから魔法で攻撃するんじゃなく、魔法で肉体を強化する」


 そう言ってダイアスさんは針を取り返し──自分の腕に刺した!


「見ろ。当然こんな事すれば、誰だって怪我する。けどな……」


 ダイアスさんは俺にナイフを渡した。


「ほら、それで俺を刺してみろ」

「うぇ!?」

「大丈夫だ、ほら来い!」


 伝えたい事は察した。

 けど人をナイフで刺すとか、抵抗あるぞ……

 俺は恐る恐る、ダイアスさんの腕にナイフを突き立てた。


「……ッッ!!」

「こういう事だ」


 さっき針の刺さったダイアスさんの腕は、まるで鋼鉄のようで……ナイフは全く刺さらず傷一つ付かなかった。


「これがダイアス流“魔鎧まがい”。魔力で肉体を守る技だ!」


 ダイアス流……自分の名前を付けるのか。なんか、その、うん……


 いやそれより、凄い! 刃物でも傷付かないほど頑丈になれば、魔物とも戦えそうだ! ただ俺、魔力とか感じた事もないんだが……


「魔物を相手に、生身の人間が素の状態で戦うのは難しい。だから技を使うんだ。俺がお前達に“武”を教えてやるよ!」


 魔法を使って“武”と呼べるのか分からないが、この世界と俺の世界では価値観が違うのかもな。細かい事はどうでも良いか。


 こうして俺とエルノアは、ダイアスさん……師匠のもとで修行を始めた。


  *


 剣術の前に、まずは体作りと魔力を感じる修行だ。


 当然の事だが、肉体が強ければ技術によるパワーアップが大きい。

 腕立て伏せ、腹筋、スクワット、ランニング……とにかく色々な運動をした。

 筋トレとか、少しやってみようとした事があったな。結局すぐにやらなくなって、ムキムキには程遠い体だった。


 けど、今回は本気でやると決めたんだ。体が動かなくなるまで、汗水垂らして毎日毎日やり続けた。


 そして魔力。

 俺の体にも、微量だが魔力が存在するらしい。

 魔力は身体機能の一部。使おうという意思があれば、自然と感じ取ってコントロール出来るようになるらしい。


「ふぅ〜ッ……」


 息を吐いて集中する。

 多量の魔力を持っていれば簡単に感じ取れるそうだが、微量だとなかなか難しい。師匠も最初は苦労したそうだ。


 けど、無理ではない。飽きるな、きっと出来るようになる。俺は今まで、簡単に飽きたから出来なかったんだ。


 ──体の内で何かが回っている。それに気が付いたのは、修行を始めて2ヶ月後だった。

 その頃には筋肉がなかなかに固くなり、日々の運動も最初より楽になり、ノルマをどんどん増やしていった。


「よし、魔力を感じられたな。んじゃあ“魔鎧まがい”の練習だ。俺が教える魔法の中で、“魔鎧まがい”が一番簡単だからな」


 “魔鎧まがい”。体内の魔力を外側に集め、肉体を硬化する。防御力はもちろん、その状態で殴れば攻撃力もある。

 これを覚えてようやくスタートラインだ。


「さあ、魔力で固めろ!」

「はい!」

「喰らえッッ!!」


 魔力で体を固め……師匠に腹をぶん殴られた。


「うぐえぇッッ!!」

「ダ〜メだ。全っ然固まってねぇ。やり直し」


 俺もエルノアも、めちゃくちゃ殴られた。

 そりゃ、ドラゴンに裂かれた時に比べれば可愛いもんだ。けど出来るようになるまで何度も何度もやられて、つらい。


「お、出来たっぽい」

「なに!?」


 俺よりエルノアの方が先に修得した。


「よし、合格だ。エルノアは魔力をそこそこ持ってるみたいだし、色んな魔法も使えそうだな。ただ俺は教えられねぇが……」


 置いて行かれた感。

 今まで頑張った事がないから他人に負けても悔しくなかったけど、こうして頑張っているとめっちゃ悔しい。

 一緒に旅をするんだ。足を引っ張らない為にも、俺も負けていられない。


  *


 2週間が経過し、俺は“魔鎧まがい”を修得した。


「よし、じゃあもう一つ。これを覚えればようやく剣術に進めるぞ」


 魔物と戦う為に必要な修行。

 一つは体。体を鍛え、“魔鎧まがい”によって更に強化する。

 もう一つは技術。だから剣術を習う訳だが……その為にまた基礎の技が必要らしい。


「剣術を極めても、剣が折れちまったらヤバい。だから折れないようにする」


 そう言って師匠は剣を持ち、ハンマーでぶっ叩いた。

 しかし剣は折れも曲がりもせず、傷一つ付かない。


「肉体強化の次は、剣の強化だ。これがダイアス流“剛剣ごうけん”。剣に魔力を流し込み、剣を頑丈にする技だ」


 これを覚えれば、やっと剣術を教えて貰える。

 剣道はやった事ないが、剣を振るのには興味がある。ゲームでは剣がよく出て来るし、正直ちょっと楽しみにしていた。

 魔法にも興味はあったが、戦闘ではほぼ使えないというから仕方ない。

 強くなって旅に出る為、ついでに剣術をやってみたかったから、そう考えると、修行にも身が入った。


 ──1か月後、俺もエルノアも“剛剣ごうけん”を修得。

 ようやく剣術の指南が始まった。


 本物の剣を振るうんだ。魔物を斬る事も避けられないだろう。

 この凶器を持ち、途端に不安が湧いてきた。


 それでも俺は、やらなければならない。

 剣術を習い始めて1か月後、エルノアのある特徴に師匠が気付く。


「お前、短剣の方が向いてるな」


 急遽としてエルノアは短剣に切り替えた。

 魔法も独学で頑張ってるし、色々な事が出来るようになりそうだな。


 そして剣術だけじゃない。殴る、蹴る、投擲……戦いに役立つ技術を、とにかくたくさん叩き込まれた。

 毎日毎日、技術を磨いた。


 めちゃくちゃツラい。こんな事を続けられるのも、目標があるから。

 アルフの魂を探す為、旅に出るという目標の為……


 けど、俺は気付いた。剣術って凄く楽しいって。

 剣術に限った事じゃなく、技術を一つ一つ覚えるのが、達成感を得られて嬉しいんだ。

 今まで、まともに頑張った事がない俺。

 一つの事をやり続けるって、こんなにも楽しい事なのか。


「よくやったな、アルフ! エルノア!」


 ──そして、師匠が褒めてくれる。

 褒められると、もっと頑張ろうって思える。


 罪悪感、使命感に駆られて始めたこの修行は、いつの間にか、習い事のように楽しくなっていた。


 ──楽しい事は、あっという間に過ぎて行く。

 師匠に弟子入りして、3年が経過した。

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