第23話 狂人(ある意味)

 俺はガキの頃、剣という物を見て感動した。──なんて格好良いんだと。


 長く、鋭く、それでいて美しい。鮮麗に磨き上げられた剣は、鏡のように映し出す。


 ──そして、それを振るって颯爽と魔物を倒す剣士は、もっと格好良いと思った。


 俺は直感した。男は、剣を握る為に生まれてきた生き物だと。


 だから俺は最初、剣士を目指していた。毎日毎日、手に肉刺ができるほど剣を振り続け、体も鍛えて、大人達の魔物狩りを俺一人で出来るぐらいに強くなった。


 そしてその力を試すべく、俺は旅に出た。


 ──その途中、ダイアスとリンゼと出会ったんだ。


 2人共、すげぇ奴だよ。だが俺は、特にダイアスに憧れた。ありゃ剣才の塊だ。


 ダイアスに技を教わって俺も更に強くなり、いつかダイアスみてぇな剣士になりたいと思った。


 ──だが、俺の剣才は伸び悩んだ。遭遇する魔物が強くなってくると、俺はまともに戦えず2人に助けられっ放しになる事が多くなった。


 それに比べて……ダイアスは剣豪と、リンゼは大魔女と呼ばれ、もはや敵は無かった。俺は完全に足手まといになったんだ。


 俺は旅を止めた。だがそれでも、俺の剣への情熱が消える事はない。


 俺は剣を作る鍛冶職人になり、世の剣士を助ける存在になろうと思った。特に、今まで世話になったダイアスの為に、俺が至高の剣を作ってやると決意したんだ。


 毎日毎日、旅を止めた悔しさも込めて、ひたすら剣を打ち続けた。


 ──そして30という若さにして、俺は世界に名を轟かす鍛冶職人となった。俺って凄いだろう?


 その頃にデトラを弟子にして、5年間ずっと鍛えてやった。


 しかし、それでも俺は満足できない。打っても打っても、至高の剣というのが分からなかったんだ。


 お前も習っただろうが、魔物との戦いにおいて、普通に剣を振ればすぐ折れる。だから魔力を込めて頑丈にするんだ。


 ──そこで俺は思い付いた。そうだ、俺が剣になろう! と。


  *


 ……“開いた口が塞がらない”って、こういう時になるんだな。


 なるほど、感動した。──目の前でペラペラと喋っているのが、無機物じゃなければ。


 控えめに言って、頭おかしい人だ……なんで自ら剣になった?


「ちょっと頭おかしいっすね♪」

「言うなエルノア!」


 だからってそれを本人前にして堂々と言うのもどうかと思う。本人ってか剣だけども。


「な、なんだとぉ〜ッ!?」


 案の定、ガルシオンさんは怒って暴れる。まあ埋まってるから安全だが。


「ほら見て、文字通り手も足も出ないじゃんね。剣に口無しだよ」


 動いて喋りはするけどな。それを剣と呼んで良いものか。


「……で、剣になる事で、どんな恩恵が?」

「察しの悪い奴だな。つまり、常に魔力が込められた剣なら、世界が滅びでもしない限り折れはしない。そこで俺は、ずっと魔力を込め続けられる方法を考えた」


 ……なるほど、理解した。魔力は生き物に宿る物だし、それを込めるには。


「魂ごと魔力を宿した……と」

「その通り! ついに完成したのだ至高の剣が! 俺一人じゃ無理だから、リンゼの力を借りてな」


 へぇ〜、リンゼさんが……


「……で、何でわざわざこんな所に?」

「そりゃあお前、普通に家で剣になって『これが至高の剣です』と言って渡しても、風情が無いだろう。どうせならこう、いかにも凄いみたいな雰囲気を漂わせて、選ばれし者にしか抜けない……ってすれば格好良いだろうが」


 俺が想像してたRPGの伝説の剣と同じだ……やっぱり異世界にも居るんだな、同じ感性を持った人。


 ていうかこの人、思考が幼稚だなぁ……残された弟子はどうするんだよ。


「と、いう訳で。俺を扱って良いのはダイアスだけだ。弟子とはいえ、お前のような青二才には使わせん」

「そーですか……」


 まあ……俺もこんな勝手に動いて喋る剣は使いたくないな。


 ……待てよ? この人、魂だけになって生きても、魔力を持ってるのか?


「あの……魂も魔力を持てるんですか?」

「ああ、そうらしいぞ」


 それなら……俺が探している魂も魔力を持っているかもしれない。その魔力を探れば、魂の居場所が分かるかも!


 というかリンゼさん、魂を移動させる方法を既に実行してたのか。


 しかしそれを友人にやるか……いや他人はもっとダメだけど。


「……ところで小僧」

「あどうもアルフと申します」

「小僧、俺はずっとここに居て暇が過ぎる。剣である故に腹は空かないし、魂だから死にはしないが、とにかく暇だ」


 自己紹介したが無視された。やだなープライド高いおじさん。


 ていうかどんだけ前からここに居るんだ。リンゼさんが亡くなったのが約3ヶ月前……最低でも3ヶ月はここに?


「働いてないんすね♪」

「言うなエルノア!」


 剣に言葉のナイフが突き刺さる。


「きッ、貴様ああぁ!!」


 剣が必死に抵抗する。面白いなこの光景。


「……で、用件は何すか」

「ああ、そうだ。小僧、俺を村まで運んでくれ。剣を地面に刺したばかりに、動けなくて困っていたんだ」


 バカだな……


「もしかしておバカですか?」

「だから言うなって!」


 エルノアの煽りが止まらない。


 今さっきに俺の手を斬った剣を運んでやるとか、なんか癪だな。


 まあ……何ヶ月も孤独なのは流石に可哀想だし、師匠の生存……いや生きてはないか。とにかくデトラさんも喜ぶと思うし、連れて行ってやるか。


「んじゃあ運びますよっと」


 俺は再び剣を引き抜いた。


「え、でもさ。村に運んでからどうすんの? 剣の姿のまま動き回んの?」

「……みんな、ビックリする」


 2人がそう聞くと、ガルシオンさんは答える。


「んな訳あるか。しかも剣が動き回って喋ってたら、神々しさが薄れるだろ」


 動いて喋ると奇っ怪なの自覚してるのか。


「まあ……デトラに運んで貰うか」


 弟子に世話されたら、いよいよ介護みたくなるな。そう思いつつも黙っておき、俺達は村へと戻って行った。

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