第24話 非常事態

 ノアーツ村へ戻る最中、ガルシオンさんと話をした。


「おい小僧、生まれはどこだ?」

「アステア村だよ」


 俺とエルノアと、師匠の住んでいた村だ。


「ほう、確かにダイアスの住む村だな。お前、“波動はどう”は使えるか?」

「魔力を、威力が落ちづらいように撃つ技だな。使えるぞ。俺は魔力量が少ないから、連発は出来ないけど」


 剣に向かって話し掛けるのも、新鮮な気分だな。


「というか小僧、弟子だと言うのなら、ダイアスの所に行って俺を渡せ。そうすりゃ最強最高のコンビが完成するぜ」

「師匠なら療養中だよ」

「療養? ちょっとやそっとの怪我なら魔法ですぐ治るだろう」


 師匠はドラゴンでも倒せる、この世界で恐らくは最強クラスの人だ。そんな人が重体になるとは思いもしないんだろう。


「……ちょっとやそっとの魔法じゃ、治り切らないくらいの大怪我だよ。隣国から有名な魔法使いを呼んで、治して貰おうって話だ」

「なっ……そんなにか!? あいつがそんな状態になるなんて、一体どんな事が……」


 晃との戦いを、ガルシオンさんに話した。


 晃はこの世界でレオンという名前らしい。あいつの体の、元々の持ち主の名前かもしれないし、一応ここではレオンと伝えた。


「ほう……そんな強敵がいたのか。あいつが“時空斬じくうざん”を使わされるとは」

「しかも、倒せてはいないしな」


 剣だから顔色はうかがえないが、酷く驚いているようだ。


「“時空斬じくうざん”は、ダイアスが昔、技を考案する過程でひたすらに鋭く剣を振り続け、偶然にも発生したものだ。魔力その物を破壊し、エネルギーが溢れ出す」


 師匠からは、数多くの技を教わった。

 だがその中に“時空斬じくうざん”は無く、先の戦いの後に初めて教えてくれた。


「あれを使うと、大規模な爆発が起こる。わざわざそんな事をする必要も無いし、周囲への被害が大きいから、決して使わなかったが……なるほど、それで大怪我を……」


 あの戦いで、広範囲の自然が消し飛んだ。

 ……もう、あんな事は起こらないようにしたいな。


「あ、じゃあリンゼに治して貰えよ。あの2人しばらく会ってないと思うが、昔はよく怪我したダイアスを治してやってたんだ」


 ……そうか、リンゼさんの最期は知らないのか。


「……ししょ、リンゼさんは、亡くなった」


 ミルフィが居る手前、どう話そうか迷っていると、彼女が自分で伝えた。


「……何?」

「今話した、レオンって奴にやられたんだ。その子は、リンゼさんの弟子だよ」


 するとガルシオンさんは黙ってしまった。親友……だもんな。


  *


 村へ戻り、鍛冶屋へ向かう。


「ほぉ〜……久し振りだな村を見るの」


 ガルシオンさんは懐かしそうに呟く。


「よし小僧、村を一周だ!」

「ツアーじゃないんだよ! 鍛冶屋に置いておくからな!」


 俺は真っ直ぐ鍛冶屋へ行き、とりあえず剣を壁に立て掛けた。あ〜疲れた。ずっと手で持ってたから疲れたな。


「おいコラー! 雑に置くな雑に! んな傘みたいな!」


 うるさく叫ぶ剣を放って、俺はデトラさんを呼びに行く。


「……ぷは~。やっぱさ、俺って重たい空気ダメみたい」


 エルノアがヘラっと笑ってそう言った。

 ミルフィの時もそうだが、普段が軽々しい反面、深刻な場面では黙ってしまう。まあ空気が読めているって事だな。


「んじゃあ、デトラさんにあの妙ちきりんな剣を渡して、俺らはサッサと出発しようよ。あ、秋……アルフくんの剣も買ってさ」

「ああ。まだ明るいしな」


 さっそくデトラさんを呼んでみた。


「デトラさ〜ん!」

「…………」


 だが、返事は無い。


「……居ないのか?」

「どっか行ってんのかな。仕入れとか?」


 すると、後ろからカツンカツンと音がした。

 振り返ると──剣が歩いて来ていた。いや歩くとは言わないか。


「どうした?」

「いや、デトラさん居ないんだよ」


 ガルシオンさんは、奥の部屋へと入って行った。

 俺達も付いて行く。


「……う〜む」


 ぴょんぴょんと跳んで回転し、ガルシオンさんは周りを確認した。あの、さっきから床に刺さりまくってますが。


「もしかすると、鉱山へ行ったのかもな」

「鉱山?」

「いつもの場所に置いていた採掘用具がねぇ。作業着もだ。素材が減ってきたから、補給しに行ったんだろう」


 そうか……帰って来るまで待つか?


「ここで待ってちゃ暇だろう。せっかくだし鉱山を見に行かねぇか? 俺も久々に様子を見たいんだ」


 ガルシオンさんがそう言うので、行ってみる事にした。鉱山とか見た事ないし、試しに見学してみたい。


「俺は行くけど、2人も来るか?」

「まあ暇だし、行こっかな」

「……ん」


 俺は再び剣を持ち、みんなで鉱山へ向かった。この村のすぐ近くにあるそうだ。


  *


 鉱山へ着き、ガルシオンさんの案内で坑道を通って行く。


「この鉱山では、剣の素材になる良い鉱石が採れる。そして俺の宿ったこの剣は、その中でも希少なクォトリアライトを使用しているんだ」


 聞いた事のない鉱石だ。俺も鉱石には全く詳しくないが、多分この世界での物かな。


「頑丈かつ軟性があり、非常に壊れにくい。滅多にお目に懸かれる代物じゃなく、この鉱山にも少量しか無いはずだ」


 確か、ダイヤモンドは硬いが砕けやすく、金は柔らかくて砕けづらいんだっけ。その両方の特性を持っているとは、確かに凄いな。


「至高の剣を作るべく、その希少な素材をいよいよ使った。加工が難しく、世界中でもクォトリアライトの剣は聞いた事がない。つまり俺が世界で初めて作った男なのだ!」


 きっと凄いんだろうけど、いかんせん自慢気な態度のせいで小者っぽい。


「そしてそれに俺が宿り、魔力を纏って強化すれば、至高の剣となる!」

「さっきも聞いたって!」

「しつこいよ~あんた」

「……うるさい」


 なんだろう。ただ人がうるさくするだけなら良いのだが、うるさくないはずの剣がうるさくすると、同じうるさいでも腹立つな。


 あとミルフィが思いっ切り毒を吐いた件。


 ──そんなこんなで歩き続け、主に採掘するという広間が近くなってきた。


ズウゥン……


 ん、この音は?


「なあ、今の音は……」

「採掘の音じゃないよね?」


 崩落でもしたか? デトラさんが危ないかもしれない。


 するとミルフィが地面に手を突き、魔力を張り巡らせた。


「……何か、変なの、いる」


 変なの……まさか魔物か!?


「急ぐぞ!」

「ああ!」


 俺達は走って行った。


 広間へ着くと──デトラさんが腰を抜かしていた。

 そしてその近くに──巨大な岩が。


 いや、岩じゃない。あれは……


「ギュオオオォ!!」

「うわああぁ!!」


 魔物だ! 皮膚がまるで岩のように見える、体長10メートルは有りそうな巨体。


「デトラッッ!!」


 ガルシオンさんが叫び、掴んでいる俺を引っ張って駆け付けようとした。


 エルノアは自分をデトラさんの近くへ召喚し、彼を守る。


 ミルフィは魔力を飛ばし、魔物の攻撃を弾いた。


「小僧、俺を使え!」


 弟子を守る為、武器を持たない俺に呼び掛ける。

 俺は剣を構え、魔物と対峙した。


 ──直感した。こいつは強い。


 旅に出る前、俺が戦った巨体の魔物に、エルノアが戦ったサルのような魔物。晃と出会う前に戦った、四足の魔物。

 岩のようなこいつは……今までのよりも強い。俺より格上か……


「ミルフィ、サポート頼む!」

「……任せて」


 ミルフィの強力な魔法も、下手に使えば坑道を崩落させてしまう。


 エルノアにはデトラさんを守って貰う。


 さあ──どう戦うか。

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