第44話 付き添い

 彼女の姿に驚きつつも、目の前の魔物を斬りつけた。

 そして怯んだ隙に、ミルフィが魔力で魔物をふっ飛ばす。


「……大丈夫?」


 彼女は俺より背丈が低く、少し幼気な顔立ちをしていた。

 突然現れた俺達に驚いているようで、ぽかんとしている。


「え、あ、そのっ、ありがとうございます!」


 彼女はハッとして、ペコリと頭を下げた。

 フサフサしたリアルな耳が向けられ、尻尾がひとりでに動く。


「……獣人?」


 思わず呟いた。

 そう言えばカストロさんが言っていた。この国には、獣人の里があるって。


 獣人……人と動物が混じったような見た目らしい。彼女こそほぼ人間みたいだが、その耳と尻尾が本物なら獣人に違いない。


「はい、私、獣人です。この通り、狼の特徴が出ています」


 そう言って耳をピコピコと動かしてみせる彼女。その様子を可愛いと思った。

 ふっ飛ばした魔物を見ると、もう戦意を失って向かって来ようとしない。


「えっと……どうしてこんな所に?」


 人の事は言えないが、彼女は今一人のようだし、この辺りには人里が無い。心配だ。


「……それは、その……ちょっと迷ってしまいまして」


 彼女は何だかバツが悪そうに答えた。


「あ、そうだ荷物!」


 そしてハッとしてスタスタと走り、この荒野にポツンと置かれたリュックを拾った。


「結構大きい荷物だね。遠出なのかな?」


 エルノアが言った。確かに、というかどこから来たんだろう。

 地図を見ると、獣人の里というのは載っていない。


 彼女はリュックを背負うと、またこちらへ戻って来た。


「あの、助けて頂きありがとうござ──」


グウウウゥ〜……


 ──と、お礼の言葉を遮り、彼女のお腹が大きな音を立てて鳴った。


「……います。す、すみませ……しばらく何も食べてなくて、あうぅ……」


 彼女は顔を真っ赤にして小声になった。よっぽど恥ずかしかったんだろう。

 だから魔物を倒して食べようとしてたのかな。


「あー……俺達もお腹空いてるから、一緒に食べない?」

「……はい……」


  *


 魔物の肉を焼いて、彼女と共に座って食べ始める。

 かなり空腹だったようで、女の子らしからぬ感じでガツガツと頬張る。さっきまでの礼儀正しい感じとは全然違うな。


 魔物を素手で倒そうとしていたし、やっぱり獣人なんだなと思う。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 いやほんとめちゃくちゃ食べたな。胃に入り切らないだろってくらい食べたぞこの子。


「あ、申し遅れました! 私、シーエって言います」


 シーエ──そう名乗った彼女は、膝に手を置いて尻尾を左右に振る。


「俺はアルフ」

「エルノアで〜す。よろしくー」

「……ミルフィ」


 俺達も自己紹介をした。ミルフィは何だかぎこちなさそうだな。


「シーエは、どこに行こうとしてたんだ?」

「え〜と、特に目的は無いというか、放浪中です」


 一人旅か、危ないな……


「ていうか獣人の里ってどこにあんの?」


 エルノアがそう聞くと、シーエは地図を使って説明してくれた。


「この辺りですね。地図には載ってないんです」


 見ると、ここから2,3日ほどの所に里があるらしい。多分、王都とドラグニスの中間辺りだ。

 しかし何で地図に載ってないんだろう。


「へぇ〜、じゃあついこないだ出て来たんだ?」

「はい」


 ……カストロさんは、獣人は迫害されていると言っていた。

 これからシーエが進んで行って、問題なく過ごせるのか?


「王都は今、検問がかなり厳しくなってるんだ。この前、色々あってさ」

「そうなんですか?」


 今、王都は見張りを強化している。他国からの侵入を警戒しているそうだ。


 獣人とは初めて会ったが、やはり人間とは種が違うし、毛嫌いする人も多いんだろう。

 シーエは見た目がほぼ人間に近いし、物腰柔らかいから全く変な感じはしないが。


「……一人は、危ない」


 会話に入って来られていなかったミルフィが、そう呟いた。

 ミルフィも一人だと、外へ出る勇気はなかなか出なかっただろう。


「……確かにそうですよね。でももう、後には引けないと言いますか」


 シーエは少し俯いて言った。……何か事情がありそうだ。


「とりあえず、王都までなら付き添うよ」

「え? でも皆さん、そちらから来たんじゃ……」


 俺達もまあ急ぐ旅ではあるが、こんな自然の中を一人で歩く女の子は放って置けない。


「まあ気にしなさんなって。あ〜、ほら、アルフ君もさ、可愛い女の子は放って置けないじゃんね?」

「……」


 遠慮するシーエにエルノアが補足した。

 そしてミルフィが俺をジッと睨んでくる。何故だ。


「ええと、その、じゃあ……お願い、します?」


 やはり遠慮というか申し訳なさがあるのか、疑問形で頼まれた。


 ──そんな感じに話し終わり、後片付けをした。


「のど乾いちゃった……お水お水」


 たくさん肉を食べまくったシーエは、自分のリュックを漁る。


「あれ、あれ……? ぐちゃぐちゃだ〜……」


 多分、魔物を見付けてリュックを投げ出したんだろう。中身が乱れたのか、水を見付けるのに苦労している。


「…………え、何だろこれ……?」


 ──その時、リュックの持ち主であるシーエが、自分の知らない物を発見した。


 どうやらそれは、手紙のようだ。

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