第45話 獣人の能力

 獣人の少女、シーエ。

 彼女のリュックに入っていたのは、一通の手紙だった。


「────ッ……」


 シーエはそれを読み、何かを思った。


「……シーエ? どうしたんだ?」


 頃合いを見て、秋人が話し掛ける。


「……えと。その、何と言いますか」


 シーエはきまり悪そうに答えた。


「やっぱり、帰った方が良いかな〜……なんて。実は挨拶とかしてないんです」


 それを聞いて、秋人達は安心する。


「そっか。って事は、俺達の行く方向と同じだな」

「んじゃ一緒に行ってさ、ついでにその里見てって良い?」

「はい、大丈夫ですよ。みんな良い人なので♪」


 シーエの行き先が変わり、秋人達は再びドラグニスの方へ歩き出した。


  *


 色々あったが、結局は戻らず進む事に。


 シーエはどうしたのか。まあ一人で旅をするのは危ないし、一度戻ってくれるなら少し安心するな。

 せめて彼女が無事に里へ帰るまでは、俺達も見届けよう。


「シーエの事、もっと聞いても良いかな?」

「ふぇ、良いですけど……」


 黙って歩くのも何だし、彼女に話を聞こうと思った。

 するとシーエは何故か、尻尾をピンと立てて動揺した。


「獣人の里って、どんな感じに暮らしてるんだ?」

「え? あ、そういう……。えっと、自給自足です。人と関わったりしないので、獣人の間で協力し合って……。あ、でもみんな優しいので、人でも歓迎してくれますよ」


 獣人と聞いて野性的なものを思い浮かべていたが、まあ自給自足なのか。

 そう思っていると、エルノアがいきなり肩を組んできた。


「……秋人くん。シーエちゃんは君の言い方的に、自分のプライベートを聞かれると思ったんだよ多分」


 そう耳打ちされた。ああ、だから動揺して……


 人を人間と呼ぶのって、何というかこう、概念的な話だし。獣人の彼女に向かって獣人の話を聞くの、ちょっと迷ったな〜……

 何しろ人間以外と会話するの初めてだから、感覚がよく分からない。


「シーエちゃんさ、放浪中って言ってたけど、どうしたの? 喧嘩でもした?」


 ……と、エルノアが結構踏み込んだ質問をした。

 確かに気になってはいたが、初対面でそれを聞くのはハードル高いだろ。


「喧嘩はしてないです。何でしょうね……自分探し?」


 自分探しとはベタな……でもまだ何か、本人も分かってない感じだな。


 シーエは里のみんなを優しいと言っているし、仲が悪いという訳でもなさそうだ。それならちゃんと挨拶して出て来れば良かったのに、こっそり来たっぽいよな。


 さっきの手紙、誰からだろう……親か?


「皆さんは、どうして旅を?」

「うむ、最強の剣士を目指す為だ!」

「ぎゃあぁ剣が喋ったあぁ!?」


 さやから半身ほど飛び出すガルシオンさん。

 やっぱりこのくだり、人と出会う度にあるのか……疲れるなぁ。


「ごめんこの剣喋るんだ。それはさて置き、俺達は探し物があって旅してるんだ。ミルフィはその途中で出会って、色々あって一緒に来る事になったんだけど」

「は、はぁ……」

「宜しくな獣人の嬢ちゃん」


 どうすれば自然な流れで、相手を驚かせずに喋る剣を紹介できるのか、これから考えておこう。


  *


 歩き始めてしばらく経ち、ちらほらと草木が見えてきた。

 それと同時に、魔物の存在が増えてきたようだ。


「この辺りは魔物が多いので、気を付けて下さいね」


 そう案内しながら先頭を歩くシーエ。


 ──突然、彼女は立ち止まって空を見上げた。


「シーエ? どうした?」

「クンクン……あ、来ます!」


 すると、空から大きな鳥の魔物が急降下して来た!


ドンッッ!!


 凄まじい速度で、魔物の脚が地面へ打ち込まれる。

 俺達は大丈夫だが、その攻撃はシーエに向かっていた。


「シーエ、大丈夫か──」


 砂煙が晴れると……シーエは平然と立っていた。

 急降下して来た魔物を眼前でかわし、全くの無傷でいる。


「クワアァ!!」


 更に魔物は鳴き声を上げてくちばしを振るった。


バシッ!!


 ……それをシーエは、両手で掴んで受け止める。


「もう、どこか行って下さい!」


 絶えず攻撃してくる魔物にシーエはムッと怒り、掴んだくちばしを持ち上げ、魔物の体を宙に浮かせた。

 そしてくちばしを引き下ろすと同時に跳んで、魔物の腹へ膝蹴りを打ち込んだ。


「ク、エェ……!」


 魔物は苦しそうな声を出した後、気を失った。


 …………シーエ、めっちゃくちゃ強いな!?


「おー、流石だな。獣人は人間よりもずっと筋力が強い。その代わり魔力を持たないがな」


 ガルシオンさんが説明した。

 いやしかし、シーエは筋肉質って感じでもなく細身の女の子だ。魔力も無いのに、あのどこにそんなパワーが詰まっているんだ……


「皆さん、ご無事ですか?」

「ああ、大丈夫……ありがとう」


 驚いて反応が薄くなる俺達。それを他所よそにシーエは、気絶した魔物をどける。


「……あのさシーエ」

「はい?」


「ちょっと腕貸してくれる?」

「え、良いですけど……」


 俺はシーエの前腕を握らせて貰った。


「どうだったよ?」


 彼女から距離を取ってエルノアに聞かれ、俺は答えた。


「……柔らけー」

「マジ?」


 うん、女の子の腕だ。

 あれか、犬や猫みたく皮膚は柔らかいのか。シーエは狼らしいが、俺は狼を触った事が無いから分からないな。


「ま、人間とは筋肉の作りが違うからな。そんでもって視力や嗅覚が鋭いから、あの魔物の接近に気が付き、当たらないギリギリでかわせたんだろう」


 凄いな……魔物との遭遇にも慣れてるようだし、普段から狩りとかしてたんだろうな。


 シーエの強さが分かり、俺達は再び進んだ。

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