第五章 銀狼の咆哮

第43話 蒼き眼光

 王都の外に出て、自然の新鮮な空気を吸うと、戻って来たなぁという感じがした。


「ん〜……久々に外出たよね。なんか慣れが消えちゃったよ」


 そうエルノアが呟いた。


 この王都では、聞き込みをして少し休んで、準備を整えてすぐ出るつもりだった。

 それが色々あった事で、一月も滞在してしまった。


 その間、旅の費用を浮かす為に、多少は今まで通りサバイバルをしたが、都内で過ごす時間も長かった。それに、困ったら戻れば良いという気持ちもあった。

 久々に旅が再開し、また完全サバイバルが始まる。気を引き締めないとな。


「……」


 ミルフィは魂探しの魔法(仮称)を練習してくれた。

 だが難易度はかなり高いらしく、今のところ全く出来ていない。


 これからも様々な場所を巡って聞き込みを続ける。そうすればその魔法を使える人に出会えたり、魔法を上手く使えるようアドバイスして貰えるかもしれない。


「さてと……次の目的地はドラグニスだな」


 地図を見ると、王都から結構離れた所にドラグニスという村がある。

 そこまで行くと隣の国が近い。ドラグニスに着いたら、次は国境を越えるか。


「結構遠いね〜」

「ああ。何日も掛かるだろうから、魔物との戦いも多い。気を付けろよ」

「……ん」


 俺も周囲の気配や魔力へ気を配る。

 何体か、魔物が居るな。


「向こうに二体と、あっちに三体いるからな」

「え、マジ? 分かんないんだけど」


 俺も気配では分からないが、かすかに魔力が動くのを感じた。


「ふむ……相当離れた所の魔力も分かるようになったか。三龍剣との修行で、確実に腕は上がったようだな」


 ガルシオンさんがそう言ってくれた。この2週間、レインさんと剣を打ち合い、得られるものはやはり多かったらしい。

 俺よりもずっと速い動き。それを受け続ける事で、少しずつ慣れていった。


 最初は“空縮眼”で視力を強化して見切っていたが、次第に使う必要が減っていった。

 そして目だけでなく、魔力の動きも察知する。レインさんは空中で剣から魔力を撃ち出す技も使うし、剣先の魔力まで警戒していた。


 そして今──かなり遠くにいる魔物の魔力も感じ取れている。


「所持している魔力が少ないと困る事も多いが、少なければ少ないほど、感じ取れた時に魔力に対して敏感になる。お前がダイアスよりも所持魔力が少なかったのなら、魔力感知に関してはダイアスより優れているかもしれんな」


 そう言われて、嬉しくなった。

 師匠みたいな強い剣士にも憧れているし、何か俺なりの長所があるのなら、もっと伸ばしていきたい。


 ……この体はアルフの物だ。これから俺が凄い人間になれたのなら、アルフも同じくらいの活躍が出来たのかもしれないな。


「よし、んじゃあ行こう! 魔物を探知するのは任せてくれ」


  *


 ──2日ほど歩いた。

 今までは草木の生い茂る道だったが、だんだんと減っていく。


「……この辺って魔物とか動物とか居るのかね?」

「最近は気配も減ってるし、遭遇も少ないな。あんまり居ないのかも」


 一応、食料は少し買い溜めてエルノアが収納してくれている。


「2日でこれだけ進んだとして……ドラグニスまで行けそうかな」


 地図を見て大体の距離を測った。

 地形によって状況は変わるが、この調子なら食料が尽きる前に着きそうだ。

 出来れば魔物と戦う危険は冒したくないし、殺したくもない。けど肉を食べないと生きていけないからな。












 ──それからしばらく歩き、いよいよ荒野っぽくなってきた。


「魔物の気配は……しないな」


 草木が無く、広々とした場所に出た。

 ここだけ道が整備されてなく、油断すると迷いそうだ。


「地中に潜んでたりしてな」

「あー……鉱山に居た奴みたいな?」


 あの時は苦戦したな。あれから時間経ったけど、今だとどうなるやら。

 そんな話をしながら、荒野を進んで行った。















「────うん?」

「どうしたアルフ?」


 遠くの方に、魔力を感じた。動きは速い。


「多分……魔物がいる」

「数は?」

「1……だな」

「そうか、気を付けろよ」


 こんな所にも居るのか。餌を探してんのかな。


 それから更に歩いて行くと、魔物が近付いて正確な動きが分かるようになった。

 数は1体……にしては、やたらと速い。それも一方向へ走るんじゃなく、様々な方向へ動いては切り返している。


 俺は気になって、“空縮眼”で遠くを見てみた。


「……ッ! 誰か戦ってるぞ!」


 魔力だけで探ると魔物しか分からなかったが、実際には人も居た。

 所持している魔力が少なくて、感じ取れなかったんだ。


「助けに行こう!」


 武器も持たず、取っ組み合いのようになっている。あれは危険だ。

 俺達は走って向かい、戦っている2つのもとへ着いた。


「今助け──」


 俺は剣を抜き、魔物へ向けて突っ込んだ。

 その際に確認した戦っている人に、俺は言葉を失った。












 ────蒼い瞳をこちらへ輝かせた彼女には、狼のような耳と尻尾が生えていた。


 武器は無いが鋭い爪があり、血がしたたり落ちている。

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