第2話 転生

 ────ん? 眩しいな。


 ……あれ、俺はどうなった?


 確か、学校の屋上から落ちて……あの高さから落ちたら、確実に死ぬよな。


 て事は、死んだのか、俺? いやでも、死んだならそもそも意識なんて無いと思うが……


 ──明るくて目を開くのを一瞬躊躇ったが、開けて確認する事にした。


「────えっ」


 驚いて声が漏れた。


 それがどんな光景であっても驚いただろうが、一つの予想としては、俺は奇跡的に助かって病院のベッドで寝ている……とか。


 だが意識が戻った瞬間、俺には自分の足で立っている感覚があった。


 ──目の前に映し出された光景は、どこかの村のような場所。地面は草や砂、建物は木製、電柱は一本も無い。


 原始的というか、何というか……ここはどこだ? いやそれより、俺は何なんだ!?


 日差しが暖かい。体が動く。頬をつねってみると、鮮明な痛みを感じた。


 俺は生きている! ……多分。痛みは無いし、欠損もしていない。そして何故か、全く別の場所に立っている。


「〜〜〜〜」


 その時、誰かに声を掛けられた。だが、何と言われたのかは分からない。


 振り向くと大人の男性が居た……が、俺よりずっと身長が高い。少し見上げないと目が合わないくらいだ。


 俺も高校生。そんなに高くないとはいえ、相手がよっぽどの巨漢でもなければ、こんなに差がつく事は……


「〜〜〜〜」


 また何か言ってくるが、やっぱり意味が分からない。ここは外国なのか?


 ──そして気が付いた。相手が大きいんじゃなく、俺が小さい事に。


 いつもよりずっと目線が低い。自分が、自分じゃない。


「〜〜〜〜」


 俺が何も答えないから、相手が困ったような顔をする。俺も相手が何を言っているのか分からないし、どうしよう。英語なら少しは話せると思うが、英語っぽくもない。


 ただ、何か言わないと始まらない。俺はとりあえず、日本語と英語で会話を試みた。


  *


 ……えっと。当然ながら会話はできず。相手の人が心配そうにして、とうとう俺達の周りに人が集まってしまった。


 みんなして話し掛けてくるが、もちろん意味は分からない。俺はある建物に連れて行かれ、ある人に頭を見られ、また色々と話し掛けられた。


 恐らく……俺は記憶喪失だと思われ、医者に診られていたのか。


「〜〜〜〜」


 相変わらず分からない言語だが、みんな俺に敵意は無さそうだ。


 ──ある俺と同じ背たけの少年は、笑顔で何か言ってくる。友達なのか?


 ──ある2人の大人の男女は特に俺を心配し、家に連れて行かれた。そして見た事のない料理をご馳走になった。初めて経験する味だが、美味しかった。


 ……この2人は多分、関わり方からして両親だ。俺は、他所の家の子供になったのか。


 とりあえず俺はペコペコと頭を下げ、感謝していると伝えた。知らない土地だし、伝わっていない可能性も高いけど。


 ……そうだ、鏡。鏡はないか? 自分が今どんな姿なのか、確認したい。


 そう思って家中を探した。井戸はあるが水道は無く、洗面所も無い。結局あったのは居間らしき所で、俺はそれに自分の顔を映した。


「────ッ」


 まだ小学生か、中学生ぐらいの顔立ち。水色の髪だが染めた感じはなく、地毛だろう。

 案の定、ではあった。だがこうして確認すると、何というか、その……


 自分が自分じゃない。この顔も、動かしている手足も、全くの別物。そう考えると、無性に気持ち悪く感じた。


 俺は、生まれ変わった……のか? 俺は学校の屋上から落ちて死んだに違いない。なのに今、別の人間として生きている。


「〜〜〜〜」


 鏡の前で悩んでいた俺に、両親らしき2人が声を掛けてきた。案内されたのは寝室。もう夜だし、寝ろという事か。


 2人は優しく微笑み、扉を閉めた。


 ……いや、寝られない。何がなんだか理解できないのに。


 ベッドに腰掛け、窓を開けた。


 夜空を見上げると、蒼く光る月のような物があった。……ここは、どこだろう。


「はぁ……」


 溜息しか出ない。


 自分が生きている事に、喜べば良いのか? いや……死んでるのか。


 こんな言語の通じない場所で、自分じゃない体で、どう生活していけば良いんだ。


 それに……もう、元の生活には戻れないのか。俺の、本当の両親。俺が死んで、今ごろ悲しんでるのかな。


 陽平も、クラスのみんなも……もう会えないのか。いつもみたいに学校へ行って、楽しく話して……あの日常が、もう送れない。


 将来の事も……何も考えてはいなかったけど、何もしない訳じゃない。きっとその内に何か見つかるだろうって、少し期待していたのに……


「────けた」


 ……ん?


「──見つけた」


 声が聞こえた。周りを見渡すが、誰も居ない。


「──良かった、すぐ見つかって」


 誰も居ない、そう確認した刹那、目の前に何かが現れた。


 まばゆい光に目がくらみ、一瞬目を閉じる。


 光が収まり目を開くと──この部屋に、白装束を着た女性が立っていた。


 背中から大きな純白の翼が生えており、部屋に羽が舞い散る。


「えっ、ちょっ、えぇ!?」

「驚かせてすみません。……ああ、無事で良かった」


 どこから入って来たのか、何者なのか、そもそも人間じゃないのか。


 驚いて後ろへ下がる俺を、追い詰めるように彼女は近付いて来て、いきなり抱き締めてきた! い、一体何を……!?


「あ、あの、誰なんですか……!?」


 逃げようとしたが、彼女は異様に力が強く、ビクともしない。


「私は天使です。そしてあなたは、転生なさいました!」


 ──驚く俺を置いてけぼりに、彼女は淡々と説明を始めた。


 ……俺の身に、何が起こったのかを。

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