第32話 参戦

 門からぞろぞろと立ち入って来る兵士達。

 剣や鎧の擦れ合う音が響き、城へ向かって押し寄せる。


「あれは……我が国の鎧!」


 ソーマは城から双眼鏡で、敵兵が自国の鎧を着用している事を確認した。


「あれだけの兵が、どこから湧いた……? 隣国の者共かと思ったが……」


 王室へ急ぎつつ、そう思考する。


「ソーマ様!」

「状況は?」


 監視役の者が報告へ駆け付けた。


「兵の数は、およそ我が軍と同等。……統率者は、その、カストロ様が……」

「ッ……!」


 つい昨日、いや今朝まで、共に過ごしてきた同期。

 そんな彼が率いて攻めて来ていると知り、拳を握り締める。


「…………見つけ次第、首を跳ね飛ばせ」


 そう一言だけ伝え、再び王室へ向かった。


「王、ご無事ですか!」

「ああ、問題ない」


 王のもとへ駆け付け、周囲を警戒する。


「話は聞いた……まさかカストロが、な……」


 王は酷く残念そうに俯いた。


「首謀者は見当がつく──恐らく、兄上が」


 現国王、オービル=エスタミア。

 その兄、オーバンが元々は国王であったが、攻撃的な政策を取ろうとし、国民からの支持が得られず、弟に王位を奪われた。


「とにかく、迎え撃たなければなりません」

「うむ、各隊長はもう兵を引き連れて向かっている」


 するとそこへ、レインが駆け付けた。


「──レイン、話は聞いたか?」

「いや……敵を確認してすぐ来たから」


 ソーマはレインへ、淡々と説明した。


「……え、嘘だろう。だって、そんなはず無いじゃないか」

「監視の眼が節穴でなければな。……奴はいつものように見回りへ行っていたが、ならば何故この事を報告しに来なかったのか。現に今も国の危機だというのに、王のもとへ戻って来ない。そして誰よりも外へ出る機会があったのもあいつだ」


「で、でも……」

「王都の付近には村も何も無い。あれだけの兵を駐留させていれば目立つ。カストロが見回りをしていれば気付けたと思うが……」


 気持ちの整理が追い付かないレインに、ソーマは容赦なく言い放つ。


「もうい……それより2人共、民の悲鳴が聞こえる」


 2人の話を止め、王が言った。


「ソーマ……お前は前線へ向かい、民を救ってやって欲しい」

「しかし護衛は……」


「レインが居れば問題ない。それに兵数が同じならば、こちらにも甚大な被害が出る。加勢してやってくれ」

「……分かりました」


 王の命に従い、ソーマは戦場へと向かった。


  *


 レインさんに逃げるよう指示された後、すぐに大勢の人々が押し寄せた。

 俺達は一旦、建物の屋上へ登って様子を確認した。


「……これが、戦争ってやつかな?」


 エルノアがそう呟く。

 そう……今まさに、目の前で戦争が起きているんだ。


「今に城からも兵が迎え討ちに来るだろう。相手の目的は王の首だろうから、案外このまま屋上に隠れていればやり過ごせるかもしれんぞ」


 ガルシオンさんがそう言う。

 この世界にも戦争犯罪はあり、民間人を攻撃する事は禁止されているらしい。


 それならガルシオンさんの言う通り、ジッとしていれば……


「ぎゃあああぁ!!」


 ──突然、人の悲鳴が聞こえた。


 いや悲鳴というより、これは──!


 見てみると……人が、斬られていた。兵士の一人が、逃げていた人を剣で斬ったんだ。


「……ッ! あいつら、民間人でも関係なく……!」

「落ち着けアルフ。……建物内に入って来る可能性もあるか。なら上がって来た連中だけ迎え討て。それで何とかなる」


「いやそれも大事だけど、このままじゃ大勢の人達が……」

「お前達、これが戦争だよ。人が死んじまう事だってある。お前達もかなり実力はあるが、戦うのは兵隊の役目だ。それに相手は数も多い。手を出そうなんて考えるなよ」


 これが戦争……目の前で、人が死んでいく。

 それなのに、黙って見ておくしかないのか……


「うぇ、ミルフィちゃん!?」


 ──と思った矢先、ミルフィが飛び降りた。


「……んッ!」


 下に居る兵士達へ魔力を放ち、大勢をふっ飛ばした。


「なんだこのガキ!?」

「構わん、やれ!」


 当然、兵士達も剣を向ける。


「おいおいおい、俺の話聞いてたか!?」

「あちゃー……やっちゃったよねこれ」

「とにかく降りるぞ!」


 このままではミルフィも攻撃される。俺達も加勢に向かった。


「ねー秋人くん、俺らヤバい事してるよね? 下手すりゃ戦争犯罪人……」

「もう引き下がれないだろ……」


 兵士達が斬り掛かってきた。

 相手も悪い事してるし、ぶっ倒すしかないな!


「とりあえず行って来るね!」


 押し寄せる軍勢に、エルノアが向かった。


パキキキキキキキ──ッ!


 瞬間、兵士達の持つ剣が次々に折れてゆく。


 “牙狩きばがり”

 ソードブレイカーを使い、大勢の武器を一瞬で破壊する技だ。

 この狭い路地にて、壁や屋根を利用して空中から一方的に攻められる。


「はぁッ!!」


 相手の間合いが短くなった。俺も斬りやすくなる。

 相手は鎧を着ているから、狙える部分が少ない。ひとまず攻撃力を奪うべく、肩を狙って斬りまくった。


 そして俺達を他所に、ミルフィは魔法で多方向から来る兵士を倒す。


ビュンッ──


「危ねっ!」


 何か魔力を感じて振り返ると、矢が飛んで来ていた。

 兵士達の足音やら、剣や鎧の音やらで、矢の音には全く気付けなかった。

 矢を強化する為に魔力が込められており、そのお陰でギリギリ反応できた。


 ……それだけじゃない。魔力攻撃も飛んで来ている!


「剣士だけじゃねぇ、魔法使いの部隊もいる! そいつらを何とかしねぇと無理だぞ!」

「分かってる! ミルフィ、魔法使いを倒してくれ! こっちは俺達で何とかする!」

「……分かった!」


 ミルフィは風を起こして自らを浮かせ、遠方への攻撃を始めた。


「さあ、練習したアレをやってみろ! それが効率いい」

「よし!」


 ミルフィの技“廻転魔式かいてんましき”は、魔力を竜巻のように回して攻撃を受け流す。

 そして“螺旋魔式らせんましき”は、魔力をじって撃つ事で威力を上げる。


 その2つを参考に、俺の“波動はどう”は形を変えた。


「思いっきり螺子ねじれ!」


 俺は飛び上がり、兵士達のド真ん中へ行く。

 そして空中から──足首、膝、腰、肩、肘、手首、全身の関節を回転させ、剣に込めた魔力を捩じって地面へ放つ。


ギュルルルッッ!!


 “烈波れっぱ

 暴れる波動を無理やり回し、威力を上げる。

 半径1メートル程度しか射程は無いが……その余波で広範囲までの物をぶっ飛ばす技だ。


「「「ぐああああぁッッ!!!」」」


 これで地上の兵士は、この周辺の連中は倒せたはずだ。

 だが……一気に魔力を使っちまった。まだ慣れていないからな。


ドサッ!


 ──その時、空からミルフィが落ちて来た。

 全身に攻撃を受け、矢も何本か刺さっている!


「ミルフィ!」

「……ん、何人か、倒せた……」


 相手は多方向から大勢、更に矢と魔力の2種類の攻撃となると、キツかったか……


「──ほう、三龍剣の御出ましかと思いきや……この軍勢を圧倒したのが、まさか子供とはな。驚いたぞ」


 すると、倒れた兵士を踏み越え、恐らく他とは一線を画する奴が現れた。


「だが、もう終わりだ」


 こいつは……軍隊の隊長か?

 まだ遠方に魔法使いも残っている。こいつを倒すのにも骨が折れそうなのに、遠距離攻撃にも気を使ってたらキツいぞ……


「──貴様は、余が引き受けよう」


 ポンと俺の背中を押し、


 ──三龍剣ソーマさんが、剣を抜いた。

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