第33話 竜殺しの実力

 三龍剣“臥龍がりゅう”ソーマ=スペシオス。


 王を護る剣が、ついに抜かれた。


「ぬぅ……三龍剣! 剣を交えるのを楽しみにしていたぞ!」


 敵兵の隊長は嬉しそうに剣を抜き、構える。


 ──しかし。


「……アルフ、といったな。これだけの兵を倒すとは、感謝する」


 ソーマは相手に目もくれず、まず秋人達へ礼を言い、


「……ふむ。我が国の鎧かと思ったが……少し違うようだ。やはり、他国の者共か」


 周りに倒れている兵士の鎧を見てそう判断した。


「……カストロは、他国と繋がっていたか」

「おい、貴様! 私を無視するな!」


 相手に呼ばれ、ようやくソーマは目を合わせた。


「まだ集まっていなかったのか。早くするが良い」

「?」

「周りに隠れている者共、出て来い」


 ソーマに呼ばれ、無事に済んで隠れていた兵士が集まった。


「よし、やれ!」


 隊長が命じ、敵兵は一斉に襲い掛かった。


「「「ッッ!!?」」」


 その瞬間、敵兵の視界からソーマの姿が消えた。


ブシュッッ!!


 そして敵兵の膝裏から血が噴き出し、全員が倒れ込んだ。


(〜ッ!! 一瞬だ! 一瞬で体勢を限界まで下げて、兵士達の隙間を縫い、膝裏を狙って斬った!)


 見ていた秋人はそう分析する。


 実際、それは当たっていた。一瞬にして体勢を下げ接近する事で、相手にはソーマが消えたように見える。

 その上、鎧の隙間の一つである膝裏を狙い、敵兵全員を斬ってみせた。


 “地喰ちぐい”

 超低姿勢から攻撃を仕掛ける、ソーマの得意とする戦法である。


(…………なるほど、“臥龍”か……!)


 膝を斬られ戦闘不能となった兵士の一人が、最後にそう思った。


「……さて、最後は貴様か。来るが良い」


 相手の隊長へ手をクイクイと動かし、攻めて来いと煽る。


(……なるほど、お前の技は見切ったぞ!)


 隊長はニヤリと笑い、再び剣を構える。


(打倒三龍剣を目標に、今の今まで鍛練を積んできた……いざ!)


 隊長は“地喰ちぐい”を警戒しつつ、ソーマへ斬り掛かった。


ズバッ!!


「──え」


 隊長が剣を振り切るまでもなく──ソーマの剣が、腹を斬っていた。


「ぐああぁッ! きッ、キサマ──」


 そして次の瞬間、ソーマは隊長の手首を掴み、足を払い、隊長の体を180度回転させて持ち上げた。

 そう、隊長は今、2メートル程の高さに位置し、逆さまで頭部は地面を向いている。


 “地天井ちてんじょう

 ソーマは持ち上げた隊長の体を、手首を引いて地面へ落とした。


 隊長は頭部を打ち付けられ、血を流し意識が朦朧とする。


「ぐふっ……な、なぜ、勝てぬ……」

「鍛練不足であるな。あの世で励むが良い」


 その会話を最後に、隊長の呼吸は止まった。


  *


 一方、敵兵の魔法部隊。

 王の首を最優先に、準備を整えていた。


「よし、撃て!」


 建物の屋上を占拠した魔法使い達が、王室へ狙いを定めて魔力を撃つ。


「来たぞ! 迎撃しろ!」


 城の兵士達は、剣や魔法でその攻撃を弾く。


「う、しまった!」


 しかし一発、迎撃に失敗し魔力攻撃が王室へ向かってしまった。


「……ねぇ君、ちょっと扉を開けてくれるかな?」

「えっ?」


 レインは扉の前の兵士に、扉を開けるよう指示した。


 開けた瞬間──魔力攻撃が入って来た。


ギンッ!


 それをレインは、高速の抜刀で弾き、王には当たらず後ろの壁へ。


「……うん、一方的にやられてるみたいだね。このまま後手に回るのは危険だ」


 レインはそう呟き、部屋の外へ向かう。


「ちょっと、十数秒だけ離れます」


 そう言い残し、レインは部屋を出た。

 そして迎撃している現場へ。


「ッ! 三龍剣が現れました!」

「集中攻撃しろ! 撃て!」


 レインを確認し、敵兵は更に激しく魔力を放つ。


 ──それを物ともせず、レインは敵兵へ向かって跳んだ。

 次々と来る攻撃を、全て斬り落とす。


「早く撃ち落とせ!」


 そう隊長が命ずるも、レインには一発も当たらない。

 空中で身動きの取りづらい人間を、大勢で撃っているにもかかわらず。

 そしてレインは、敵兵の上空へやって来た。


 “血舞ちまい驟雨しゅうう

 剣に魔力を込め、それを撃ち出す。

 鋭い剣の突きによって、魔力は猛スピードで射出され、剣のように尖り、対象を貫く。

 それを何発も何発も連続で放ち、雨の如く降り注ぐ。


「「「きゃああああぁ!!!」」」


 魔法部隊は腕や脚を貫かれ、血を噴き出して次々に倒れる。


(次元が……違う……)


 朦朧とする意識の中、魔法使い達はそう思考した。


「……ねぇ、君達を率いているのは誰かな?」


 比較的軽傷の者に、レインは聞いた。


「ひっ……首謀者はオーバン様です……」

「首謀者じゃなく、兵全体を率いている者だよ」

「それは……カストロ様が……」


 それを聞き、レインは拳を握り締める。


「…………どうしてだよ、カストロ……」


 そう呟き、再び跳んで王室へと戻った。


  *


 秋人達とソーマの活躍により、敵兵の右側が壊滅。中央と左側は進軍しており、それを城の兵士達が迎え討つ。


 ……が、中央の部隊は止められない。


 先頭に立つ人物──三龍剣“雲龍うんりゅう”カストロ=エディス。

 彼の力により、迎え討つ兵士が倒されてゆく。


「だ、ダメだ! 止められん!」

「やはりこちらも三龍剣の力が必要だ!」

「しかしレイン様は王の護衛に……」


 するとそこへ、数名の魔法使いが。


「ど、どうしてあなたが……!」


 秋人達に協力した女性、ベル=ファルム。

 三龍剣に憧れていただけに、動揺は隠せない。


「退いてくれ。我々の目的は王位奪還、傷付けるつもりは無い」

「そういう訳には……いきませんッ!!」


 カストロへ向けて、一斉に魔力を放った。

 退路を断つ為、上下左右にも攻撃する。


「「「ぐわあぁ!!」」」


 その猛攻に、周りの敵兵は吹き飛ばされる。特にベルの攻撃は突出しており、威力・連射と共にミルフィを上回っていた。


 ──が、カストロはゆっくりと歩を進める。


(〜ッ!? 全て剣で弾かれ……)


 “雲烟過眼うんえんかがん

 カストロの生み出した防御術。


「全ての攻撃に反応し、惑わされるから受け切れない。自分に当たるものだけ弾き、他は全て無視すれば良い話だ」


 その考えに基づき、必要最小限の防御を行う。

 自分の動きを牽制する上下左右の攻撃には、はなから意識を向けていない。明らかに自分へ命中するであろう攻撃のみ弾いている。


 かと言って、カストロへ向かって集中攻撃をすれば、左右がガラ空きとなって避けられてしまう。


トトトト──ッ!!


「うっ……!?」


 ついに魔力の包囲網を抜け、カストロは魔法使い達の首を叩いて気絶させた。


 魔力は射程距離が長く威力が高い反面、距離を詰められると弱い。下手に高火力で放てば、自身もダメージを負うからである。


「さて……」


 城まで──後少し。

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