第53話 一人じゃない

 ────ん……暖かい。


 私……寝ちゃってた?


『──俺達は、味方だから』


 ……あんなに酷い事しちゃったのに、アルフさんはそう言ってくれた。


 みんな、私を助けに来てくれた。


 ──嬉しかった。だって、だって……私、獣人なのに。人間は獣人を嫌ってるって、そう習ったから。


 でも、少し前にこの辺りに来たカストロさんは、とても優しかった。


 それからアルフさん達に会って、やっぱり優しいんだなって思った。


 ……私、アルフさんに怪我をさせた。だからもう、合わせる顔が無いって思ったのに。


『──今、一番つらいのは……シーエだろ』


 ……本当は、泣きたかった。誰かに傍に居て欲しかった。


 ……一人ぼっちなんて、嫌だ。


 こんなに、優しくされたら──頼りたくなっちゃうよ。アルフさん達にも自分の旅が、大事な目的があるのに。


「──お、シーエ。起きたか」

「……ふぇ……?」


 目を開くと──アルフさんと目が合った。


 暖かいって思ったら、私、アルフさんに抱かれてた!? というか、私がアルフさんを抱き締めてた!!


「ご、ごごっ、ごめんなさい!」


 私は慌てて、腕を解いて離れた。


 ……そうだ。私、急に力が抜けて寝ちゃって、それできっとアルフさんが受け止めてくれたんだ。


 ……うぅ、寝顔とか見られてたのかなぁ。


「良かった、元気そうだな。たくさん動いて疲れたし、飯にするか?」


 すると、良い匂いが漂ってきた。その方を見ると、エルノアさんがお肉を焼いてる。


ジュルリ──


「はは、ヨダレ垂れてるぞ」

「えっ、あっ、これはそのっ……!」


 思わずヨダレが出ちゃった! は、恥ずかしい……!


「べ、別にお腹が空いた訳ではなく……!」


グウウウゥ〜……──


「……あぅ」


 お、お腹鳴っちゃった……!


 言い訳したそばから、何でこんなにタイミング悪いの〜……!


「気にすんなって。いっぱい食べる女の子とか好きだぞ?」

「うえぇっ!?」

「ほら、一緒に食べよう」


 アルフさんはニコッと笑って、そう言ってくれた。


 ……敵わないなぁ。


「──シーエちゃん!」


 その時、後ろから抱き着かれた。


「……ニャムルちゃんっ!!」

「シーエちゃん……よ、良かったぁ……!!」


 里が無くなって、離れ離れになったみんな。


 その中で唯一、ここに残ってた私の親友……


「し、心配したんだよぉ……!」

「……ごめんね」

「ううん、助けてくれてありがとぉ……!」


  *


 シーエはしばらく、猫の女の子ニャムルと2人で泣き続けた。


 そして肉が焼けると、シーエは物凄い勢いで食べ始めた。


 ──ミルフィがシーエに掛けた回復魔法は、以前のとは違うらしい。


 今までは破損した細胞を魔力で埋めて治していた。すると怪我が酷ければ酷いほど、魔力を多く消耗してしまう。


 だが、あのライオン頭が俺とエルノアで手に負えなかった場合、ミルフィにも加勢して貰う必要があった。


 ──そこで使ったのは、王都でベルさんから習った魔法。


 戦争で大勢の人間が負傷すれば、一人一人に魔力を使っている余裕が無い。


 魔力で怪我を埋めるのではなく、自然治癒能力を活性化させる魔法。回復の速度は遅いが、少量の魔力で回復できる。ただしその分、負傷者は体力を消耗するが。


 シーエはたくさん食べてエネルギーを摂取し、回復速度が上がってみるみる治った。


「ぷはっ……ふぅ……」

「お腹いっぱいになったか?」

「うっ……あ、あまり見ないで下さい……」


 食べ終わって満足そうなシーエに聞くと、顔を赤らめて腹を隠した。


 戦いで出来たのか、彼女の服には裂け目がある。そのせいでヘソの辺りが見えているので、腹が膨れたのを見られたくないんだろう。


 ──ともあれ、みんな無事に済んで一緒に食事を取り、さっきまでのような重苦しい雰囲気ではなくなった。


 ……けど、大事な話が残ってるよな。


「……2人はこれから、どうしたい?」


 俺がそう聞くと、シーエとニャムルは黙り込んだ。


「俺達はこれから、色々な場所を回るんだ。2人を受け入れてくれる所があるかもしれない。それが見つかるまで、一緒に行かないか?」


 するとシーエは、モジモジとしながら答えた。


「……はい、そうさせて頂こうと思います。ただ……」


 その瞳からは、強い決意が感じられる。


「私、居なくなった里のみんなと会いたい。まだ生きているはずだから、どこかで必ず会えると思うんです」

「シーエちゃん……」


 どうやらシーエは、どこかでジッと待つつもりは無いらしい。


「それに、その……お世話になった皆さんの旅を、お手伝いしたいです」


 あんなに危険な目に遭ったが、シーエは里の人達を探しに行きたいようだ。


 そりゃ心配だよな……自分が襲われた以上、他のみんなも同じ事になるかもしれない。


「つまり……シーエちゃん、行っちゃうの?」

「……ごめんね。でも私、ずっとみんなと離れ離れなんて嫌なの。それにみんなも、私達が無事かどうか分からないと安心できないと思う」


 せっかく再会できた2人。どこか安全な所で、一緒に過ごすのも良いだろう。


 だがシーエは、自分よりも皆の方を心配している。彼女はそういうさがだ。


「……うん、私も会いたいよ。でも私はシーエちゃんみたいに強くないから、付いて行ったら迷惑になる」

「……私も本当は、ニャムルちゃんの傍に居たいよ。でも私にはもう一つ、解決しないといけない事があるの」


 シーエには暴走してしまう衝動がある。里を離れたのも、それで周りを傷付けてしまわないかと危惧したからだ。


 それを解決しない限り、親友のニャムルをも傷付けてしまう可能性がある。


「──皆さん。私、必ずお役に立ちます。だから、その……皆さんの旅に同行させて頂いて、里のみんなを探したいなと……」

「うん、俺達もシーエを受け入れるつもりだった。むしろ今のままで不安だったから、心強いよ」


 これは心からの本音だ。


 最初は師匠が居たから安心していたが、離れる事になってミルフィが同行。

 それからノアーツ村の鉱山では魔物に苦戦し、王都ではどうしようも無い結果に終わってしまった。

 そして今回も苦戦し、最後には恐怖を覚えた。


 シーエが一緒に居てくれれば、俺達も心強い。それに旅をする上で、人数が多ければ退屈もしないからな。


「宜しく、シーエ」

「は、はいっ!」


 俺が差し出した手を、彼女は優しく握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る