第9話 修行の成果①

 ──この世界に来て3年、か。

 アルフの魂はどこまで行っちまったんだろう。


 そんな事を考えながら、今日も朝食をたっぷり食べる。食べないと筋肉付かないからな。


「母さん、おかわり」

「はいはい、たくさん食べてね♪」


 修行を始めてから、両親に旅に出たいと伝えた。

 最初は猛反対された。主に母さんに。


『アルフ、村の外には危険な魔物が居るんだぞ?』

『そうよアルフちゃん!! そんなの許しません!!』


 無理もない。その時の俺は12歳、俺の世界で言えば小学生だ。3年経った今でも中学生。もし俺に息子ができて旅に出たいとか言い出したら、間違いなく反対する。


「ごちそうさま。じゃあ行って来るね」

「いってらっしゃい。気を付けてね♪」


 3年間、ずっと説得を続けた。

 転生について話せば早い話だったかもしれないが、そんな大層な事をペラペラと話して良いのか分からないし、混乱を生む事は止めようとエルノアに言われた。

 そしてようやく、その許しを得られた。


「よう、来たなアルフ、エルノア」

「おはよう師匠」

「おはよ〜師匠〜」


 師匠とは敬語で話していたが、師匠はそういうのを気にせずフランクに接してくれて、俺達も次第にタメ口で話すようになった。


「今日はいよいよ、お前達の実力を試す。これをクリア出来れば、旅に出る事を許そう」


 ずっと村の中で修行し、ある程度強くなってからは時々少し村を出て、その辺の魔物を狩っていた。

 その辺の魔物ってのは、この村が食用としていつも狩っている奴だ。大人達が罠も利用して狩る魔物だが、修行を始めて1年が経つ頃には、俺達は単独で倒せるようになった。


 けど、師匠に言わせればそんなの子犬と変わらない。

 旅に出るには、もっと強い魔物を倒せるくらいじゃないと。


「この3年間、お前達はよく頑張ったと認める。だから……俺はお前達を信頼している。これから魔物と戦って貰うが、俺は決して助けに入らない」


 いつになく真剣に話す師匠。

 旅に出たいなら、そのくらいやってみせろってか。


 でも俺は……むしろ嬉しく思った。

 自分は信頼されている。それなら期待に応えないとな。それに、今までずっと頑張ってきたんだ。今の自分なら出来るって自信がある。


「おす、師匠!」

「ん、頑張るよ♪」


 俺達は答え、3人で村の外へ向かった。


  *


 いつもは外に出ると言っても、せいぜい数百メートル。


 だが今日は、その何倍も歩いた。

 そして到着したのは、謎の洞穴。


「あそこには、この辺りで一番強え魔物が棲んでいる。そいつを単独で倒すんだ」


 師匠がそう説明して数分後……洞穴の中から、体からトゲの生えた巨体の魔物が出て来た。ざっと10メートルはあるか。


「──強いな」


 俺は思わず、そう呟いた。

 まあそんなデカい魔物なら、そりゃ強いに決まっている。俺が言ったのはそういう意味ではなく──


『お前よりエルノアの方が先に魔力を感じ取ったがな、多量の魔力であっという間に気が付くよりも、微量の魔力を感じ取ったお前の方が、より繊細な感覚が身に付いているはずだ』


 俺が“魔鎧まがい”を身に着けた後、師匠にそう言われた。

 それから修行をしていると……いつの間にか俺は、他人の魔力までも感じ取れるようになっていた。そう言えば弟子入りした時、師匠は俺達の魔力を測っていたな。

 エルノアは俺より魔力が多い。そして師匠だが、剣術専門なのにエルノアよりももっと魔力を持っていた。

 恐らくは最初は俺のように魔力がほとんど無く、修行を続ける内にどんどん増えたんだろう。経験の差を改めて感じた。


 さて……あの魔物、デカさはもちろん、多量の魔力を持っている。

 魔物も魔力によって肉体を強化したり、知能が高ければ魔法も使うらしい。

 あいつ──強いぞ。


「俺から行く」

「お、頑張ってね。ところであいつ、俺らより強そう?」


 エルノアがそう軽く聞いてくる。


「師匠が俺達を信頼してるんだぞ? 愚問だろ」


 俺はそう返し、剣を抜いて魔物へと向かって行った。


「ごめんな……今日の夕飯はお前にするぜ」


 自分でもドギツい事を言った気がする。

 初めて魔物を斬った時は、血や内臓が気持ち悪くて吐き気がしたものだ。


「ギシャアアアァ!!」


 魔物は大きな腕を振り下ろした。

 素早く回避する。──速い。


「うおぉッ!!」


 俺は剣を振り、腕を狙った。


「──ッ!?」


 だが、通らない。皮膚がかなり硬い。

 魔物は腕を横に振って、俺に当ててきた。


「ぐっ……」


 “魔鎧まがい”で肉体は強化済み。腕でガードし、下手に逆らわず敢えてふっ飛ばされて力を流した。そして着地時には受け身を取る。


 こうすれば、あんなデカい魔物の攻撃も防げる。


「人の体使ってんだ……あんま傷付けてくれるなよ」


 今度はこっちの番だ。


 “剛剣ごうけん”で剣を頑丈に。剣を相手に真っ直ぐ向け、体勢を低くし、右足を深く下げ……


 ──一直線に、貫くッッ!!


ザシュッッ!!


 魔物の右足を斬り裂いた。


 “烈突れっとつ

 猛スピードで突進し、剣を突き立てて貫く技だ。


 迂闊に突き刺して抜けなくなると困るから、今回はかすらせた。


「グルオオォ!!」


 痛みによって、魔物は激しく暴れる。

 それを避けながらカウンターを当てるが、やはり刃が入らない。


 今の俺の実力では、“烈突れっとつ”じゃないと斬れないか……

 距離を取ろうにも、こいつは素早いから逃げる隙がない。もう一度ふっ飛ばされる手もあるが、そんなリスキーな事はすべきじゃない。


 激しく振り下ろされる魔物の攻撃。向こうも速いし、下手に避けると隙が出来てしまう。


スススゥ…………


 俺は歩法を変え、攻撃をすり抜けた。


 “水流脚すいりゅうきゃく

 特殊な脚さばきによって、一定の速度を維持しながら走る。


 魔物の攻撃の隙を見つけ、掌底を当ててやった。


「グガッ……!?」


 ただの掌底じゃない。習ったのは剣術だけではなく、素手による体術もある。


 “震魔掌しんましょう

 相手に掌底を当て、衝撃を内部に伝える。

 それと同時に微量の魔力を流し込み、相手の体内の魔力を乱す技だ。


 魔力は身体機能の一部。それを乱されれば、動きが鈍くなる。


 ──本当は、“魔鎧まがい”と“剛剣ごうけん”を除いて魔力を使わずに、剣術で倒したかった。

 師匠が主に磨いてきた剣術を、俺がどれだけ身に着けられたか、それを試したかった。でもまだまだみたいだな。


 動きの鈍った魔物から距離を取って背後に回り、2発目の“烈突れっとつ”を背中に喰らわせた。


「よし、合格だ」


 そこで師匠がやって来た。


「じゃあ、苦しまずに逝かせてやろう」


 師匠はそう言って、歩きながら剣を振り、倒れた魔物の首を斬り落とした!

 凄い、あんな軽々と……! 魔力の量、魔力の使い方、剣の振り方、全てが洗練されているんだ!


 こうして俺は、テストに合格した。

 次はエルノアの番だ。一緒に修行してたから、お前の実力は分かっている。

 魔物を相手にどう戦うか、見せてくれ──!

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