第10話 修行の成果②

「エルノア、次はお前の番だぞ」

「は〜い」


 師匠に呼ばれ、エルノアは軽く返事をしてやって来る。


「で、何と戦うの? さっきのこいつ?」

「いや、もうこいつの動きや速さは分かっただろう。それを倒しても意味が無い」

「ちぇー。楽できると思ったのにー」


 するとその時、別の魔物の気配を感じた。


「気付いたな? こいつの血の匂いに釣られて来たようだ」


 ……来る。さっきのよりも速いぞ。


「ウキャアアアァ」


 やって来たのは、体長2メートル程のサルのような魔物。

 さっきのよりはずっと小さく、身軽だ。それに鋭い爪を持っている。


「さあ、あいつと戦えエルノア」

「あ〜、あれね? んじゃ、やりますか」


 エルノアはサルのような魔物に向かって歩いて行く。


 ──俺とエルノアは同時に体作りを始めたが、俺の方が筋肉が付いた。

 そしてエルノアはどうやら剣が合わないようで、短剣の修行をした。

 俺よりも軽く、攻撃力は低い。だがその代わり手数が多く、小技や身のこなしを鍛えてきた。それに俺より魔力量が多く、魔法の練習をしていた。


 あの素早い魔物を相手に、どんな戦いをするか……


「ウキャキイイィ!!」


 サルのような魔物──この際サルと呼ぼう。

 サルは俺達に食料を盗られると思ったのか、それとも俺達を食料にする気なのか、甲高い奇声を発して襲って来た。


「おっとぉ」


 エルノアは軽く避ける。

 が、サルの機動力は高く、すかさず戻って来て再び攻撃に転じた。


「あらよっと!」


 エルノアは再びかわす。

 と同時に短剣を抜き、カウンターで斬りつけた。


 だが傷が浅い。あれじゃあ──


「キイイィ……!?」


 と思ったら、サルは苦しそうにし始めた。


「……毒、か?」

「そう。あいつの短剣には毒が塗ってある」


 なるほど……これは勝負あっ──


 いや、サルの魔力が高速で回転している! これは……


「──来るぞ」


 師匠の言葉を皮切りに、サルは向かって来た。


 ──速い! さっきよりもずっと!


「うわっ!?」


 エルノアは避けるも、脇腹に爪がかすって少し血が噴き出した。


「痛ってぇ〜……マジかよ」


 あの速さ……攻略は難しいぞ。

 けど速くなった分、ブレーキが効かなくなった。


「おし、一旦退散っと」


 相手がブレーキをかけている隙に、エルノアは逃げた。


「……っておい!」


 思わず叫んでしまった。

 エルノアが逃げたのは森の方だったからだ。


「狭い場所じゃ、こっちは不利じゃ……」


 安直な考えだが、見た目がサルで動きが速いので、木々の中での移動も速そうだ。


「ああ、狭い空間じゃあの魔物の方が有利だ」


 師匠もそう言う。


 ──いや、エルノアは冷静なやつだ。

 あいつに諭されて、一緒に修行してきた俺はよく分かっている。

 きっと何か考えがあるんだ。


  *


 ……あ〜、つらいぜぇ。

 アルフ……秋人くんはほぼノーダメージで勝ったってのに、俺は脇腹切られちゃうし。死ぬような傷じゃないけど、痛いよ。


 俺は秋人くんみたくパワー無いし、剣も苦手。だから短剣による手数と身のこなしを得意にしてたのに、あのスピードには通じない。


「キキャアアァ!!」


 魔物が来る。そんでもって周りには木。

 避けづらくて圧倒的に不利──ってのは長期戦ならの話。


 あの魔物、速くなった分、止まりが悪い。それに知性も無い。

 真っ直ぐ突っ込んで来るだけ。狭いならなおさらだ。


「うぐっ……!」


 また貰っちまった。同じ所やられるとマズいから、さっきとは逆に避けて、反対側の脇腹を狙わせた。


 ──さあ、反撃だ。短期決戦で行くぜ。

 ブレーキに時間が掛かり、木という障害物。隙だらけだ。


「ギイイィ!?」


 俺は短剣を投げつけた。

 ベルトには左右2本ずつ、計4本の短剣を持ってる。


 さあ、毒が回るぞ。かすっただけのさっきと違って、刺さったら効くだろ?


「ギィ……ィ……!!」


 避けづらいのは相手も同じ。

 これがただの短剣なら、与えられるダメージは少ない。互いに削り合えば、俺が先に倒れるだろうね。

 だから、長期戦にするつもりは無い。毒でスピードが落ちれば、もう脅威じゃないよ。


「ギアアァァ!!」


 また来た。

 さっきより遅い。けどまだまだ速い!


 ──よし、奥の手だ。


ゴンッッ!!


「ギャギッ!?」


 魔物は岩に頭をぶつけ、ビックリしてよろける。


 さっきまで無かった岩が、突然現れた。

 これが俺の修得した、召喚魔法。


 どんな魔法を練習しよっかな〜って考えた時、やっぱ便利なのが良いよねって思った。

 そこで、色んな物をパッと手元に持って来られたら旅に便利だと考え、召喚魔法を選んだ。まあ色々と条件はあるけどね。


 自分自身のスピードで、魔物は頭を強打してダメージを負う。


「喰らえッッ!」


 その隙をつき、2本目の短剣を投げつけた。


「ギ……ィィ……!」


 3回目の毒。魔物の動きがかなり鈍くなった。


 ──よし、これで終わったね。

 残り2本の短剣で、魔物の首を斬り落とした。


「ふぅ〜……疲れたぁ。全く勘弁して欲しいね。服が台無しだよ」


 そう呟いて、俺は魔物の頭を持って元の所へ戻った。刺さった短剣を抜くのも忘れずに。


  *


 エルノアがサルの頭を持って戻って来た。


「やったんだな!」


 俺が声を掛けると、エルノアは笑ってピースサインを作った。


「もっちろん。ね、師匠。合格で良い?」

「ああ。ちょいと傷は負ったみたいだが、まだまだ余裕そうだしな」


 それを聞いて、俺とエルノアはハイタッチをした。


「お前達、この3年間よく頑張った。この剣豪ダイアスが、お前達の強さを保証するぜ!」


 しれっと自慢を入れつつ、師匠は褒めてくれた。

 そしてガシッと俺達の肩に手を回してきた。


「ちょっと師匠、俺ケガしてんだぜ? 痛いってば」

「ははは! 男ならその程度気にすんな!」


 これで俺達は、自信を持って旅に出られるんだ。


 ──3年も待たせてごめんな、アルフ。

 けど、お前を探すのはこれからだ。それに探す方法もまだ分からないし、方法があるのかも分からない。

 この体、もう少し借りさせて貰うな。


 ──俺、剣術が好きになった。俺はさっき魔物を倒したけど、師匠はあんなのよりずっと巨大で強いドラゴンすら倒せるらしい。

 師匠のように、強くなりたいと思った。


 早くお前に、この体を返したい。その時が俺の最期だ。元々、俺は死んだ身だからな。


 けど……この世界に来て、目標が出来ちまった。前の世界では、ロクに努力なんてしなかったのにな。

 アルフ……お前には申し訳ない事をした。ただ、この出来事がキッカケで俺は初めて努力をし、達成感を覚え、目標が出来た。

 感謝するよ、アルフ。感謝されても仕方ないだろうけど、一応な。


 ──そして俺達は準備を整え、2日後にこの村を出て旅を始める。

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