第29話 一歩、前進
「…………」
集めた情報を共有する為、3人で集まった……のだが。
いつも無口で無表情なミルフィだが、心なしかいつにも増してというか……ムスッとしているような気がする。
しかもフードを被って俯いていて、上目遣いで睨まれているようだ。
「えっと……悪い、特に情報が集まらなかった。……ミルフィ、どうした?」
「…………別に」
いや絶対に機嫌悪い。
「わは、仕方ないよね。アルフ君には別の用事があったしさ」
エルノアがニコニコと楽しそうにそう言う。
……用事? 何の事だ?
「ね、綺麗なお姉さんだね♪」
……うん?
「どこまでいったのさ? 住所は聞いた?」
「っておい、見てたのかよ!」
エルノア……まさか偶然にも俺を見付けて、ずっと監視を?
「だって聞き込みの割にはさ、ずっと一瞬に居たじゃん? それに手まで取られちゃってさ。そこはアルフくん男なんだから、自分から握ってあげなよ♪」
「そういうんじゃねぇよ!」
こいつ……男子中学生みたいなからかい方を。いや15歳か。
「…………」
──と、ミルフィが俺をジッと見ている。
「悪かったって。でも聞き込みなら後でも出来るからさ」
「アルフ君、そういう事じゃないよ〜」
……と、不毛なやり取りをした。
「……一応聞くけど、エルノアは何か情報は?」
「無いよ☆ だって君がおもしれー事すんだもん」
なんだ面白い事って。
「ミルフィは?」
「……ごめん」
フードをキュッと掴み、若干顔を隠して謝るミルフィ。
……そう言えば、外に出るのを怖がってたらしいな。人と話すのも得意じゃなさそうだし、ここには人が多いから、緊張しているのかも。
「やっぱり、一緒に行動しようか」
「……うん」
リンゼさんは、ミルフィに世界を見て欲しいと書き記していた。色々なものを見て、見聞を広めて欲しかったんだろう。
「とりあえずさ、お腹空かない? なんか食べようよ」
「そうだな。腹が減っては戦はできぬって言うしな」
「……いくさ?」
俺の言ったことわざがイマイチ通じなかったが、みんなで昼食を取ろうと決まった。
そして3人で、先程レインさんに紹介して貰った飲食店へ向かった。
*
──一方その頃。
エスタミア王国城内にて、2人が会話をしていた。
「ふふ、大変だね私達も。ソーマは今頃、美味しいご飯を食べているのかな」
三龍剣“飛龍”こと、レイン=ルルセイナが、そう呟いた。
「一人ずつ交代交代で休憩するものだから、ゆっくり昼食も取れないね。ねぇカストロ、お腹空いてない?」
「いや、大丈夫だ」
そう答えるは三龍剣“雲龍”こと、カストロ=エディス。
先代に代わり三龍剣に抜擢された男である。
「仕方ないだろう。我々は数ある兵士の中から選ばれた。責任持って王を護らなければならない。たった3人なのだから、一度に2人も離れる訳にはいかないだろう」
「ふふ、ソーマみたいなこと言うね。私はお腹空いちゃったよ」
「……ついさっきまで休憩していただろう?」
「えっとね、何故だか人々に追い掛けられたんだ。それからとある少年と出会って……あ、そうそう。その子がね、とても頑張り屋さんで腕も立ちそうなんだ。剣士らしいから、君も会ってあげてよ」
「分かった……だがレイン、少し私語が多いぞ──王の御前だ」
そう、この2人……王の座る机のすぐ近くで喋っていた。先に話し掛けてベラベラと続けたのはレインの方だが。
「よいよい。コミュニケーションは大事だからな」
多弁な2人(主に一人)に対し、王は優しく微笑んで許す。
「だってさ、カストロ」
「だってさ、じゃない……ソーマが居たら怒られるぞ」
「ふふ、居ない人に口は無いよ」
得意げに話すレインに、少し呆れるカストロ。
「……ログヴァナさんも居たら、収集つかなさそうだな」
カストロがそう漏らした。
現三龍剣である3人。それより強いという前三龍剣、ログヴァナ=キリュウ。
「あはは、そうだったね。ソーマはいつも怒っていたよ。面白かったなぁ」
少し前を思い出し、レインは笑い出す。
「うむ。……全くログヴァナは、どこへ行ったのやら」
王は少し困った顔をし、そう答えた。
「自由奔放であったが、実力はかの剣豪ダイアスに比肩するのだがな……」
「……そうですね。あの人は、凄い人だった」
するとそこへ、部屋の扉がノックされた。
「失礼致します」
入って来たのは、三龍剣“臥龍”こと、ソーマ=スペシオス。
何やら疲れた様子だ。
「早かったね。休憩時間はまだあるだろう?」
「早々に昼食を取り戻って来た……外は騒がしく敵わん」
「私はね、お腹空いたよ。ソーマ、何か持ってない?」
「持つ奴がいるか! お前は遊んでいるから目的を見失うのだ!」
「遊んでいないよ! 旅人に親切にしていただけさ!」
口論する2人に、王はクスリと笑った。
「ああして喧嘩できるのも、平和の証だ。良き事よ。カストロ、止めに入ってはどうだ?」
「……そうですね。このままでは収まりそうにないですし」
王室は今日も騒がしく、平和であった。
*
昼食を終え、再び聞き込みをした。
その結果、数人の魔法使いが住んでいると分かった。
しかもその内一人は、城で働く宮廷魔法使い。更には実験好きらしい。
「フヒ、フヒヒ……いらっしゃい」
……という訳で訪れてみたのだが……毛量が多くボサボサで、何だか不気味な女性が出て来た。俺がイメージする『魔女』とはこんな人かもしれない。
「家に人を入れるの、何ヶ月ぶりかなぁ……」
そういう彼女の家は……酷いとしか言いようのない散らかりようだ。
リンゼさんは研究資料の本が多くて散らかっていたが、これは単純にムダな物が多い。多分。だって破られた紙が散らばってるし。
「きょ、今日はねぇ……たまたま休みなんだ。だからずっと研究してたの……」
文字通り足の踏み場がなく、彼女が普通に踏みながら進んで行くので、俺達も続く。
「あの、要件というのは、これを見て欲しいんです」
まずは自己紹介をして、とりあえず早速、リンゼさんの研究資料を手渡した。
すると彼女は突然、息を荒げる。
「こッ、これ……すっごく高度な魔法だよッ。どこで手に入れたの!?」
大魔女と呼ばれたリンゼさんの考えた魔法。やはり凄いものらしい。
軽く事情を説明すると、彼女はミルフィの方を向いた。
「へ、へぇ……そうなの。君が、あの人の魔法習ったんだ」
すると彼女は突然、ミルフィに詰め寄って、
「み、ミルフィちゃん? き、君のカラダ、調べさせてぇ!」
と、指をワキワキとうねらせ、ハアハアと息を荒げながら言った。
はいアウト、現代日本なら通報されてるぞ。
「……嫌です」
ミルフィは即座に断り、俺の後ろに隠れた。
「……あ、フヒ、間違えた……君の魔法、調べさせてって言いたかったの。ほら、魔力の使い方って、人によって癖が出るし、ね?」
そう訂正する彼女だが、ミルフィの警戒心はなかなか解けない。
「ミルフィ、多分大丈夫だから協力してあげて」
「……多分?」
俺が警戒を解き(多分)、彼女はミルフィと一緒に解読を始めた。
「フヒ、それじゃあ、始めるねぇ……!」
彼女はミルフィへ向かって、また指をワキワキさせてそう言う。
いかにも何かされそうなその仕草に、ミルフィはビクッと身震いした。
「やっぱさ、天才には変わり者が多いのかね」
邪魔しないよう距離を離すと、エルノアがそう言った。
「誰が変わり者だ!」
「あんたには言ってないから」
ガルシオンさんが勝手に自分を天才認定して突っ掛かって来たので、飛び出さないよう
まあ実際、作った剣が世界中で売れてるらしいから天才なのかもしれない。変わり者なのは間違いないな。
「ふむふむ……ふむ!」
しばらくして、何か分かったような声が聞こえた。
「ふむふむふむふむふむふむふむふむッ!!」
それは分かり過ぎ。
「わ、分かったよぉ。こ、これはねぇ。魔力だけを探知する魔法だよ」
魔力だけを探知する魔法?
「え、えっとねぇ。簡単に説明すると、魔力を放って、目的の物に当たったら跳ね返るんだけど……これを使うと、魔力には当たるけど物や人には当たらないんだ」
当たったら跳ね返る……つまり、レーダーと同じ原理か。
物には当たらないが、魔力には当たる……ガルシオンさんは魂として剣に宿ったが、魔力を持っている。
それと同様、魂だけになったアルフも魔力を持っているなら……魂を無い物と考えた場合、魔力のみが動いている事になる。
つまりその魔法を使えば、肉体を持たない魔力=魂を見つけ出せるって事か。
「それは、どうしたら使えるんですか?」
「えと、それは、練習次第、かなぁ……」
原理は分かったが、使えるかは別問題か。
「も、もう一つのねぇ、実際に魂を触ったり、移動させたりっていうのは、やり方もよく分からなかったよ。ご、ごめんねぇ……」
「いえ、お陰で助かりました。ありがとうございます!」
これで……目的に一歩近付いた。
そんな難しい魔法、今まで魔法をほとんど練習していない俺には無理そうだな。ミルフィにやって貰うか、これからまた色々な魔法使いに会って頼むかだな。
「……ところで君、剣術とかやってるの?」
「はい、そうですけど」
もうそろそろ出て行こうと思っていると、剣を携帯している俺が声を掛けられた。
「じゃあ、三龍剣に会ってみると良いよ……そろそろカストロ様が休憩に入る頃だから」
へぇ……って、なんかやけに詳しいな。
「フヒヒ……三龍剣、みんな格好良いんだぁ……全員のスケジュールを把握してるよ。フヒヒヒヒ……!」
「お、お邪魔しました……!」
ヤバい感じがして、俺達は早々にこの場を立ち去った。
「……エルノア、やっぱおかしいなあの人」
「そだねー。天才って変なのかね」
「…………」
とりあえず、ミルフィは近付けないようにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます