第5話 後悔はしたくない
この村に住む剣士、ダイアスさん。
その友人の魔法使い、リンゼさんが、魂について調べていたらしい。もしかするとその話を聞けば、アルフの魂を見つけられるかもしれない。
「おやすみなさい、アルフ」
「うん、おやすみ」
アルフの両親が、俺を育ててくれる。他人の家で他人の両親に育てられるって、変な気分だ。本当は俺は、ここに居るべきじゃないのに。
転生して2日目の夜を迎えた。
魂って、どんな速度でどんな風に移動するんだろう。この2日で、どこまで行ってしまったのか。
歩いて追い付ける速度なら、今からなら間に合うかもしれない。どうしようか悩んでいれば、その間に取り返しがつかないほど遠くまで行ってしまうかも……
リンゼさんの住む村まで結構歩く。それに村の外に出れば魔物が現れる。
でも……このまま何もしないで良い訳がない。
「…………」
両親が寝静まった。
俺は──今の内に村を出て、リンゼさんに会いに行く事を決めた。
「はっ……はっ……!」
死んだ時、俺は初めて大きな後悔をした。
“まだやりたい事たくさんある”
俺には将来の夢も、これといった趣味も無かった。普通に生きて、普通に死ぬ。そんな個性の無い人生を送るつもりだった。
別にそれが悪いとは思わない。そんな人はたくさん居るだろうし、俺の両親だって普通な人だと思う。
ただ、期待はしていたんだ。──いつかどこかで、人生の大きな分岐点がやって来るんじゃないかと。
期待するだけで終わってた。
変わろうと思えば、変われたはずだ。
テストはそれなりに点数取れるし、もっと勉強すれば良い高校に入れたかもしれない。
水泳を習ってたんだし、もっと続けていれば上手くなれたかもしれない。他にも習い事をしていれば、人に自慢できる特技を持てていた。
姫川さんに告白しなかったのも、自分に自信が無かったからだ。自信を持ちたければ、色々な事を頑張れば良かった。ただそれだけの話だったんだ。
──それなのに、しなかった。自分が頑張らなくても、そのうち何か起こるだろうって期待だけをしていた。
「はぁっ……はぁっ……」
もう、後悔はしたくない。
*
しばらく走り続けた。
地図を見ながら来たが、まだ4分の1進んだか進んでいないか。
近くの村、か……結構歩くって言ってたけど、結構どころじゃないな。まあ車も自転車も無いし、行ける距離ではあるが。
「ふぅ……」
流石に疲れて、一旦座り込む。
この体は12歳。歩幅は小さいし体力も無い。
「喉、乾いたな……」
「はい、これ飲む?」
そう言って俺に、木製の水筒が差し出された。
……んん!?
「何も持たずに家出とか、計画性無さ過ぎるでしょアルフくん♪」
軽口を叩き、俺の顔を覗き込む少年。
「うおわぁっ!?」
思わず距離を取った。
なんでここに居るんだ……エルノア!?
「もしかしてあれ? 自分探しってやつ?」
「いや違う!」
俺を心配して追って来たのか?
「ちょっと用事があるんだよ」
「一人で行かなきゃいけないの? 出掛けるなら大人連れてこうよ」
至極真っ当な事を言われ、返事に困る。
子供が一人でこっそり出掛けるとか、やましい事があるみたいだ。
「ま〜こっそりやりたいんなら、それでも良いや。俺も連れてってよ♪ 君が何してんのか、気になるじゃんかさ」
「ダメだって! 危ないだろ!」
エルノア……アルフの結構親しげな友達らしいが、俺はまともに話したのは、まだ数十分かそこらだ。
今のところ、ノリの軽いやつというか……そんな印象だ。
「だ〜から連れてってって言ってんの。危ないのは君も同じじゃんね。そんな危険を冒してまで、何する気なの?」
そう言って問いただしてくるエルノア。
話しても信じて貰えるのか……ていうか話して良いものか。
モタモタしてると時間が無くなる。
「つーか君、むしろよくここまで魔物に襲われなかったね。俺もだけどさ」
そう言えば……本当に襲われるのか警戒しながら村を出たけど、まだ大丈夫だな。
「……何がしたいのか知らないけどさ、死んじゃったらお終いだぜ? 一旦帰らない? もうちょっと準備とかさ、色々と出来るじゃん?」
エルノアは優しく微笑んでそう言った。
「──ッ……」
死んだらお終い、目の前にいる年下の子に言われ、ハッとした。
……確かに、その通りだよな。当たり前の事なのに、慌てていて考えに無かった。
明日、準備をして、誰か頼れる人にも付いて来て貰った方が安全だ。もう一度ダイアスさんを説得してみるのも良い。
村の人達に心配をかけるのは承知の上だった。けどエルノアだってまだ子供なのに、友達の為にここまで来てくれたと思うと……
「……分かった、ごめん。ちょっと焦っててさ」
「そか。んじゃ帰ろう。焦ってもさ、出来る事も出来なくなるかもしれないじゃん?」
急がば回れ、って言うもんな。
エルノアって年齢の割に、随分と冷静というか達観してるというか。連れて行けと言ったのも、俺が断るのを見越しての事かもな。
──その時だった。
突風が吹いた。
「ギャギイイィ!!」
それと同時に、さっきまで見掛けなかった魔物らしき生き物が、叫びながら駆けて来た……俺達には目もくれず。
──何となくだが、嫌な風だと思った。
何かが起きる、変化する。さっきまで普通だった事が、終わりを迎えてしまうような。
「え、あれ……ヤバくね?」
俺達を、巨大な影が覆った。
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