第四章 王都編

第27話 路地裏での出会い

 ガルシオンさんの宿った剣を持ち、俺達は今度こそ王都へ向かう。

 王都には優秀な魔法使いがたくさん居るそうだし、何か手掛かりが掴めると良いな。


「アルフ、三龍剣は知っているな?」

「ああ、国王の護衛の……って事くらいなら」


 前々から話題に上がっていた“三龍剣”。

 国王直属の護衛で、凄腕の剣士だそうだ。俺が目指すべき存在だな。


「王都には兵士を育てる学園がある。そこでは卒業試験として、強い魔物を狩るんだが……三龍剣ってのは、単独でドラゴンを倒した剣士だ」

「ッ……!?」


 単独で……!? まだ弱かったとはいえ、俺とエルノアが殺され掛けたドラゴンを……


「そんでもって、数ある兵士の中から上位3人が三龍剣に認められる。まあドラゴン倒した時点で上位なのは間違いねぇ。むしろ歴史の中で、三龍剣には欠員が多い」


 そうだよな……そんな強い人、なかなか現れないよな。


 今の俺って、ドラゴン相手にどこまで闘えるんだろう。少し気になるが……みすみす危険な事する必要もないな。

 けど三龍剣レベルを目指すなら、ドラゴンを倒せないとダメって事か。


「今、三龍剣って3人いるの?」

「ああ。それもつい最近に代替わりした。一人は22歳くらいで、他2人は卒業したばかりの19だ」


 19……! この体が今15だから、4つ上か。


 ──そんな事を話しながら歩いて行く。その途中、ミルフィが話題に付いて来られず暇そうにしている事に気が付いた。


「……」


 まあ元から無口な子だが……大丈夫かな。


  *


 王都までかなり距離がある。数日は掛かりそうだ。

 ミルフィは俺達より歩幅が小さいし、ゆっくり行ってあげないとな。


 しばらく歩いて、少し休む。休んでいる間に、感覚が鈍らないよう剣を振る。


「力み過ぎだ。もっと緩めて関節を使え」

「……おす」


 師匠が居ない今、同じく師匠に教わっていたというガルシオンさんがアドバイスをしてくれる。


「この前の技だが……肉を上手く脱力させれば、脚への負担は減るはずだ」

「なるほど……」


 俺の考えた技にも改良を加えてくれた。本当に助かる。


 それから、エルノアの短剣と打ち合い模擬戦を。ミルフィに魔法を撃って貰い、それを防いで魔法への対処を。それぞれ練習した。


  *


 ずっと同じ景色で歩き続けるというのは、なかなか応えるものがあるが……みんなで話しながらだと楽しい。ガルシオンさんがうるさいし。


 数日経過して、遠くに大きな壁が見えてきた。


「あれが王都の外壁だ。ようやく着いたな」


 当たり前だが、村よりずっと大きいな。

 日本では街の大きさを実感する機会が無かったから、何だか新鮮な気分だ。


 中へ入ると──賑やかで都会的というか、何だか懐かしい感じがした。日本っぽさは無いが、こんな景色を見たような無いような……


「さあ、さっそく三龍剣に会いに行くぞアルフ!」

「いやその前に聞き込みだよ!」

「なにッ!?」


 いつの間にか目的を変えられていた。この人、剣の事しか考えてないな。


「……そもそも、国王直属の護衛だろ? 一般人が会えるのか?」

「むぅ……」


 きっと仕事で忙しいだろうし、休憩時間に相手して貰うのも申し訳ない。


「じゃあせめて、どれほどの実力なのか確認したいところだな」


 それもまあ気になるが──まずは聞き込みだ。


 魔法に詳しい人を探して、魂の研究について情報を得なければならない。


「情報が欲しいなら酒場だな!」

「いや俺たち未成年だから」


「俺が聞いて来てやるって」

「剣が喋るな人がビックリするから!」


 ダメだこの人バカだ。


「とりあえずさ、その辺の人に聞いてみようよ。あとガルさん喋んないで」

「……」


 エルノアが提案し、ミルフィはそれにコクリと頷く。


「……んだよ」


 ガルシオンさん、拗ねたっぽい。

 剣だから表情が分からないが、どんな顔してるんだろう。


  *


 まあ聞き込みするとは言ったものの、数日は外を歩いていたから、少し街中をうろうろして気分転換だ。


「わーい!」

「こら、振り回さないの!」


 ちらほらと見掛けるのは、オモチャの剣を振って遊ぶ子供と、それを制止する親。

 三龍剣という存在があるだけに、憧れる子供も多いのかな。


「全く……ガキはやたら剣が好きだなぁ」


 そうガルシオンさんが呟く。おいツッコミ待ちか?


 商店街のような場所へ来ると、武器を売っている店があった。

 もしかして、ガルシオンさんやデトラさんの作った剣も売ってるのかな。


「お、坊主いい剣持ってるな! 好きなのか?」

「はい、まあ」


 店主の人が話し掛けてきた。


 せっかくだから商品を見てみる。……が、俺には武器の良し悪しはよく分からないな。


「おい! なんだこの剣は! 練度が甘過ぎるぞ!」

「ッ!?」


 突然、鞘にしまっているガルシオンさんが半身ほど飛び出し、店主に向かって文句を言い始めた。

 その妙ちきりんな光景に、店主は驚いて後ずさる。


「貸せぃ! 俺が打ち直してやる!」

「騒ぐな騒ぐな! あと打てないだろ!」


 俺は店主に頭を下げ、慌ててその場を去った。


「全く……あんななまくらを、よくあんな高値で売れるもんだ。ほとんどぼったくりだぞ」

「それはさて置き、人前で喋らないでくれ! あと出て来んな! 俺が抜刀したと思われるだろ!」


 はぁ……先が思いやられる。


 騒いでしまったから、一旦路地裏へ入った。少し移動してから出るか。


ドンッ!


「うおッ!?」


 ──その時、曲がり角で誰かにぶつかった。


 事前に防げなかったのは、音が聞こえず全く気付けなかったから。


「おっと!」


 はすかさず、俺を受け止めてくれた。

 出合い頭の事故にもかかわらず、バランスを崩した俺に対し、彼女は平然としている。


「怪我は無いかな?」

「は、はい……」


 ──その美しい顔立ちに一瞬見惚れつつ、俺は彼女から、異様な強さを感じ取った。腰に剣も携えている。


 ……それと同時に、彼女の濡れた手が俺の肩を冷たくさせる。


「ああ、すまない。さっき手を洗ったのだが、ハンカチを忘れてしまってね」


 水の滴る良い女……と言い換えれば聞こえは良いが。


 子供のように濡れた手を見せるその様子は、せっかくの美貌を台無しにしている。


「これ、使います?」

「良いの?」


 俺はハンカチを差し出した。

 彼女は受け取って手を拭く。


「ふふ、淑女の嗜み」


 なぜか少し自慢げにそう呟くが……多分、淑女はハンカチを忘れて手を濡らしたまま、路地裏を走ったりしないと思う。


「ありがとう、洗って返すよ。えっと、君は……見ない顔だね。都外から来たのかな?」

「はい、アステア村から」


 見ない顔って……この王都に人なんてめちゃくちゃ居るぞ。住んでいれば覚えるものか?


「こんな遠くまで大変だったね。……うん、君は腕が立ちそうだ」


 俺を一目見て、彼女はそう評価する。


「今は休憩中でね。もし良ければ、軽く案内しようか?」


 そしてそのような提案をしてくれた。これから聞き込みをしようと思っていたし、詳しい人に案内して貰えるのは嬉しい。


 けどこの人、今さっきに走ってたよな。休憩中と言ってるし、仕事しているのか?


「でも、何か急いでいませんでした?」

「え? ああ、さっきまで少しばかり追われていてね」


 胸元に手を当て、剣がカチャリと音を立て──


 彼女は凛とした笑みを浮かべ、名を名乗った。


「そう言えば自己紹介がまだだったね。私はレイン=ルルセイナ。三龍剣っていうのを名乗らせて貰っているんだ。怪しい者じゃないよ」

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