俺の恋人が可愛すぎる

スライム

第1話

 清楚な黒髪を腰の辺りまで伸ばし、まるで芸術品の様な顔立ちと、2次元にしかあり得ない様な抜群のスタイルを持った、この学園の女神。工藤凛花が、移動教室なのか、廊下を歩いていた。


「はぁぁぁ…今日も凛花様はお美しい…」

「我らの希望の花ですなぁ…」

「これを見るために学校来てるまである」


 男共は当然その美貌に釘付けになり、いやらしい目を向けている。


「俺偶然にもさ、凛花様の顔が入った写真を撮ったんだけどさ…」

「なんだとぉ!?俺は五千円出す!」

「っ!俺は1万円!」

「はっはっは!バイト勢舐めんな!俺は今月の給料6万全部ぶっ込んでやる!!」


 こんなオークションが日常的に行われるとんでもない学校なのだが、ここだけの話、教師がこのオークションに参加していたという噂話まであるくらい、工藤凛花は人気者なのである。


「はぁ…」


 俺、四宮恭弥しのみやきょうやはそれに少しだけ溜息を吐く。すると、それを聞きつけた俺の友人、上原龍弥が言葉を振る。


「なんだぁ恭弥。もしかして工藤さんのことマジで狙ってるパターン?」

「狙ってるっつうか…まぁ…間違ってはないけど…」

「おっ!それがガチ恋なら俺も応援するからな!頑張れよ!!」


 龍弥は俺の背中をバンバンと叩いて、鼓舞する様にしてくれる。だけど、悪い龍弥。


 俺には、お前らには絶対に言えない秘密があるんだよ。


………

……


「邪魔してるわよ。恭弥」


 家に帰って自分の部屋の扉を開くと、ベッドに座って微笑を浮かべている凛花の姿。俺は気にせず鞄をいつもの場所に置き、制服をハンガーにかけ始める。


「なぁ凛花よぉ、俺の家に来るのは良いけどあんまバレない様にしろよ?バレたら男に殺されるのは俺なんだからな?」

「別に良いんじゃない?私と恭弥が付き合ってることなんてバラしちゃっても」


 そう、俺、四宮恭弥と工藤凛花は付き合っている。だが学校でそれがバレれば間違いなくリンチに近い形になるので、みんなには秘密にしているのである。


「つか、なんで来たんだ?」


 バレるのが嫌な俺は咎める様に凛花に視線を向ける。

 こんなことが許されているのは俺くらいなものだ。


「な、何よ…用がなきゃ来ちゃダメなの?」


 何処か悪いと思ってるのか、肩を竦めて自信なさげにそれを言った。


「いんや?別にそこまでは言ってねぇよ。でもまぁアレだ。年頃の女の子が無防備で男の家に来るのは、そういう事なのかなぁと、健全な男子高校生なら…少し期待する」


 そう言った途端、凛花の顔はゆでだこの如く赤く染まり上がった。


「な、なななな!何言ってんのよバカ!!そ、そんなふしだらなこと思って来たはずないでしょ!!」

「チェ、割とマジで期待したんだけどなぁ」


 俺と凛花は中学の時から付き合っている。だから付き合い始めて約5ヶ月くらいが経過しており、一線は超えている。だからその話題も特に遠慮なく話せるのだが、凛花はまだ抵抗があったらしい。

 若干残念な気持ちだが、相手の意思を尊重せずにねだるのは唯の我が儘だ。だから我慢しよ…うと思った矢先、俺のシャツをキュッ、と掴んだ。


「き、今日は…ダメ…。その…明日は…金曜だし…両親も家に…いない…から明日で…良い?」


 前言撤回。どうやら凛花は俺が思ってたよりも変態らしい。まぁ凛花が可愛らしいから変態でもよしとしよう。


「変態だねぇ凛花さんは。これがあの学園の王女様の実態か。しかも俺1人だけしか知らない秘密って、けっこうぐっとくるもんがあって良いよな」

「な、なによなによ!!恭弥のくせに!!」


 凛花は恥ずかしがる様に俺の胸をポカポカと叩く。だが全く痛くない。寧ろ可愛いだけだ。


「はぁ…マジ可愛いな俺の彼女」

「うっさい!!可愛くない!」

「ほらそういうとこが可愛い」

「うっ…うううっ…!!」


 顔を真っ赤にして膨らませて、上目遣いをして俺を睨む。あー…うん。もう襲っていい感じかな?

 その欲望を何とか堪えていると、凛花は突如、俺の背中に腕を回し、抱きしめた。


「んなっ…!」


 大きくとも小さくとも言えない胸が、俺の胸に当たって強調される。そのことに顔を赤らめると、凛花はまるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。


「へっへーん…恭弥ってば、そんな顔赤くして可愛いわねぇ?」

「んのやろ…俺をからかうなんざ100億年はえぇんだよ」

「ふにゃあ!?」


 俺は凛花を抱きしめて、今でさえ真っ赤な凛花の顔を更に赤く染め上げる。


「おうおうどうしたぁ凛花よぉ、顔が真っ赤…」

「も…もっと…」

「へ…?」

「もっと…ぎゅーって…」


 からかうつもりがとんでもないカウンターが顔面に飛んできた。これは…マジでやばい。しかも本人無意識だし!!


「お、おう…」

「んっ…」


 そして俺らは、20分程ずっと、お互いを抱きしめたままだったという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る