第30話
「いやマジでこれ…どうやって止めんだ?」
シュヴァルツァー背番号2番。ディフェンスの総監督センターバックのレイがそれを呟いて、俺、ジルガ、そしてさっき連携を行なっていた黒人選手のロベルトに視線を向けてくる。
「ははっ!出来た出来た!俺の理想的超速攻カウンター!」
ジルガはそう叫びながら胸を張る。
「まぁこれが出来るのほぼロベルトのフィジカルあってこそだよな」
「……恭弥の…フィジカルも…いい」
俺がこのチームに来てから数時間。大体のチームメイトとは打ち解ける事に成功し、今はこうやって連携プレイの練習を行なっていた。
コイツはロベルト。身長は2メートル10センチ。体重は120キロだそうだ。ガチガチに固められた腹筋や、全身満遍なく鍛え抜かれた筋肉の塊であるコイツとは、絶対に喧嘩はしたくないものだ。
「ロベルトの圧倒的なフィジカルで空中戦を制して俺にボールが渡り、恭弥に弾丸パス。それを貰った恭弥がその俊足で敵陣地に一気に切り込む。ふっ! まさにこれこそ俺の理想的な超速攻!!!」
ふはははは!!と高笑いするジルガ。こんなんがウチのキャプテンなのは先が思いやられるが、コイツ以上に試合の組み立てがうまいやつを知らないので仕方ない。
「おい恭弥!まだまだ試したい事山程あるんだ。今日はそれ全部試すからな!」
「あぁ、元よりそのつもりだ」
………
……
…
凛花side
両親との旅行でイタリアには何度か来たことがあるので、そこまでドキドキはしなかった。
だけど別の意味ではドキドキしてた。なんせ始めての恭弥との海外旅行なのだから。
そんな事を考えながら、私は練習が観戦できる場所に向かった。
凄い
一般の人でも練習風景を観れる席で、恭弥のプレイを間近で見ることができて、その練習を見てみて出てきた感想がそれだった。
流石プロチームというべきだろうか。以前見たサッカー部の人達とは比べ物にならないほど全ての基準値が高かった。
まぁそこでも、恭弥はチームのエースとして輝けるだけの能力を持っていた。
だけど問題は帰ってきた後だ。
「もっとフィジカルトレーニング加えて…って、どうした凛花。そんな目で見てきて」
「いやっ…な、なんでもない…」
「ん?そうか…」
ホテルに帰還した恭弥は、お風呂に入って、ベッドに座って今後の事を色々考えていた。
サッカー以外に、もっと私を見てほしい、とかじゃない。
流石の私も身分を弁えてる。この旅は本来、恭弥の将来の為の旅であり、私は単なる同行者に過ぎないのだから。
(雰囲気が…雰囲気が…!!ほんっとヤバイ…!)
恭弥は時々肉食獣みたいな目をしたりする。林間合宿では、それが良いという女子が恭弥を狙ったりした。
だけど今回は、それがより深くなってるのだ。
身体中からオーラが迸り、その眼光をみただけで雌としての本能が擽られるような、そんな状態になっている。
(だから耐えるのよ…工藤凛花!!)
私から襲うなんてのは言語道断。恭弥は今真剣に物事を考えているのだから。だけどそれが治れば、恭弥の方から襲ってくる筈だ。
寧ろそれを望んで居るなんて口が裂けても言えないわね。
「凛花」
「っ!?な、なにかしら?」
もしかしてと、内心期待する。
「そろそろ寝ようや。時差ボケとかもあるだろうさ、今日はゆっくり休もう」
「っ…え、えぇ…そうね…」
そうよね…。
時差ボケとかもあるものね…
「っ…!?」
「ん?どうしたの恭弥」
「あ、い…いやぁその…出来れば違うベッドで寝てくれないか?一応シングル二つあるし…」
シングルベッドが二つだけど、いつもの旅行ならシングルで2人で寝る事なんてあるのに、今日に限って…。
「な、なんで?」
「いやぁその…凛花に飽きた訳じゃないぞ?ただそんな日もあったほうが…と思っただけだ」
恭弥は嘘が下手くそだ。特に私に対しての嘘は本当に下手くそで、私に対しての嘘はつけない。
今の言葉で、嘘なのが分かる。
「っ!?」
「恭弥…私は…正直に言ってほしい…」
恭弥の肩を掴んで、最後になるかもしれない接触を行う。
(恭弥は…もう私に…興味なんて…)
「凛花…これを言ったら、多分お前は俺に失望するかもしれないし、怒るかもしれない」
「うん…」
「でも正直に言う…」
「俺さ、今すげぇ欲情してんの…」
「………ん?」
え?欲情?え?どういうこと?
「その…練習した後って生存本能が働くとかの理由でさ、性欲が強くなることがあるんだよ…。だから俺、お前が密着してたら間違いなく襲うからさ、離れててほしい」
「え…私のこと嫌いになったんじゃないの?」
「はぁ!?な、な訳無いだろ!!俺は世界で一番お前を愛してるぞ!!」
上体を起こして私にそんな声を投げかける。うん、これは間違いなく本音だ。
というか普通に恥ずかしい。
「う、うん…それは分かったわ。でもなんでダメなの?」
私は恭弥から誘ってくれるのならいつでもウェルカムなんだけど。
「その…今日は練習漬けの日だったからお前に構う事出来なかった。そんな奴がお前の体を求めるってなると、お前の事を単なる道具としか見てないようなもんだと思って…」
「え…そんな事で?」
正直呆れてしまった。確かに今日は練習漬けの日々で私に構う事は殆どしなかった。
でもそれは構わない。今回の旅行は恭弥のための旅行であって、私は単なる付添人なんだから。
「だって…凛花に申し訳ないし…」
「恭弥、右手貸しなさい」
「え…は、はい…」
恭弥はあっさりと私に右手を差し出した。その腕を両手で掴んで、自分の胸を触らせる。
「っ!?!?な、なにしてらっしゃる!?」
普段使わないような言葉を使う恭弥。
「どう?襲うつもりになったでしょ」
「っ!」
恭弥は私の上に跨る様な体制となる。その眼光は相変わらず、雌を刺激させるような目だった。
「お前さ…やり方がずりぃよ」
「私は恭弥を愛したいし、恭弥も私を愛したいなら条件は成立でしょ? 私に構わなかったのは、今度埋め合わせをしてくれればそれで良い」
単純な答えを恭弥に教え、強引に唇を奪う。
「じゃ、楽しみましょっか」
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