第29話

「すぅ…すぅ…」

「凛花、起きろ。あと少しで到着だぞ」

「んっ…んんぅっ…待ってぇ…」


 十数時間の長いフライトの旅を経て、漸く着陸た。俺は肩に頭を乗せている凛花を起こしてから飛行機を後にし、自分の荷物を持って空港内を歩いていた時であった。


「よう恭弥!よく来たな!」

「よ、相変わらず元気だなお前…」


 俺らを出迎えたのはジルガだ。お互いにそんな挨拶を交わしつつ、パンッ、とハイタッチする。

 こうしてジルガと顔を合わせるのって結構久々なんだよな…。


「へぇ〜、それが噂の恭弥の彼女?」


 ジルガの興味は凛花へと移った様で、凛花に近づいていく。


「よろしくな、工藤凛花さん」

「えぇ…よろしく。日本語が上手なのね」

「後英語もフランス語とかも喋れるよ」

「っ…」


 ピクッ、と凛花の顔が歪む。そりゃ現段階で、自分より優れた人間のジルガに会ったんだから、プライドの塊である凛花がこんなふうになっても仕方ない。

 正直、凛花とジルガ、現段階で優れてるのはどっちかと言われればジルガだ。だが、客観的に見ても才能で言えば凛花の方が上なので、今後どうなるかは分からない。


「っと…じゃあ恭弥、早速ホテルにチェックイン済ませろよ。すぐ練習すっからな」

「了解」


 俺らは共に泊まるホテルに行き、チェックインを済ませて部屋に旅行用の荷物を置いたあと、バスでジルガ達のチームの練習場の場所に向かった。


「流石プロ…こんなとこでやるのか…」


 外部からは見れない様に施されてるスタジアム。中に入ってみると、ジムや食堂などが完備されており、とても恵まれた環境でプレイしていることがわかる。


「んじゃ、とっととグラウンド来い。更衣室はそこだからよ」

「おう、了解した」


 俺は微かな高揚感と共に、更衣室に向かっていくのだった。


………

……


「おいジルガ、なんでこんなことになってんだよ…」

「そりゃあアレだ。実力を見る的なアレだろ」


 広い広い人工芝生のグラウンドの中。シュヴァルツァーの面々とコーチ、監督が見守る中、俺とジルガは対峙していた。

 なんでも実力を見る為に一度1on1をしろとの事らしいが…。


「お手柔らかに頼むぞ」

「はっ…よく言うわ。俺がお前に一度でも勝ったことあったかよ」


 ジルガは腰を深く構えて、俺に鋭い眼光を向けてくる。そういえばコイツ、異常に執念深いと言うことを忘れていた。


「ふぅ…」


呼吸を整えて、足元にあるボールを小さく触る。


ピッ


という笛の音と共に俺が動き出す。


「ってぇい!!」

「やっぱ来るよな…」

「60メートル超えててもシュート打てるとか反則じゃねぇか?恭弥君よぉ」


 俺がシュートモーションに入って、そのままゴールに向かって打ち抜こうとしたんだが、ジルガは即距離を詰めてコースを塞いでくると、即座にサイドにパスを出す。


「っ!?」


 当然これは一対一。隣には誰も居ない無人のスペースにパスを出す姿は、側からみればただのミスにしか映らない。

 だけども。


「OK…打てる」


 そのボールに向かって一気に全速力で駆け抜ける。正直、ジルガを技術で抜こうとしてもまぁまぁ止められるので、身体能力でぶち抜こうと思う。


「んな…」


 先にボールに到達した俺は、視界良好の状態のままジルガのゴールにボールを叩き込む。ここからゴールまで約50メートルあるが、そんなのお構いなしにゴールに吸い込まれてい…。


「あっ…」

「あ」


 ガコンッ!!と音を立てて、ボールはゴールポストにより外に弾き出されるのだった。

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