第60話
「気を付け!礼!」
いつもならやる気の無い返事だが、今日は冬休み前最後の登校日だったからか、全員がきちんと頭を下げる。
そして当然のように、クラス中が騒がしくなる。
「っしゃあ!!カラオケ行こうぜカラオケ!」
「俺ラーメン食いに行きたい!」
「じゃあ俺坦々麺!」
「醤油バター!」
パリピ達はそんな事を言いながら教室にたむろする。俺にはそれが眩しすぎる為、すぐに教室を出ていつもの集合場所の玄関に向かう。
「んっ…」
そこには壁にもたれかかってスマホを弄ってる凛花の姿。これだけでも絵になるものだ。
「よっ、じゃあ帰るか」
「えぇ」
今日は冬休みに入る最後の登校日。12月23日。そう、クリスマスイブの前日であった。
………
……
…
「く、クリスマスイブって…どうしたら良いのかしら…」
「し、知らんわ!!い、いつも通り…で良いんじゃね…?」
家に帰った後、俺と凛花はクリスマスをどう過ごすかという議論に熱中していた。
俺も凛花も、お互い以外の誰とも付き合った事がない。それはつまり、クリスマスでの恋人の付き合い方が分からないという事であった!!
(でも、クリスマス!!クリスマスだぞ!?恋人にとっての一大イベントの一つであるこれをいつも通りで過ごすというのはいかがなものか…!)
もうちょっとロマンチックに…という願望が強く出る。
「ねぇ恭弥、クリスマスイブは…その…北海道に行かない?」
「北海道かぁ〜…」
行ったことは無い。だけどラーメン、海鮮など、いろんな飯が旨いで有名な北海道。正直行ってみたいという気持ちはあった。
(俺の現在の貯金は…おぉ、いけるな)
スマホを見て残高を確認すると、旅行するには十分すぎる程の数字が刻まれている。
物欲というのがあまりなく、貯金が趣味だった俺は、小さい頃から貯めていた金がかなりある。
中古で格安な蛇革財布をジルガに渡したせいで2万円近く吹っ飛んだが、それでもまだ余ってる。
「よし、じゃあクリスマスは北海道行くか」
「えぇ!」
ウキウキ気分で返事をする凛花があまりにも可愛く、俺は思わず顔を赤く染めるのだった。
………
……
…
「なぁなぁ〜、良いじゃん〜」
「じゃあ名前!名前だけでも教えてよ!」
(こりゃまたテンプレな…)
12月24日のクリスマスイブ。時刻は集合時間の20分前の8時40分。少し早く来すぎたと思いつつも駅に向かうと、そこには2人組の男が凛花をナンパしているではないか。
(つか…この時期にナンパって…)
恋人や家族とと過ごすクリスマスイブでナンパなんて、自らにそういう相手が居ないって事を露呈している様なもんだ。
浮かれる気分も分からんでもないが、自分の恋人にやられると腹が立つものだ。
「悪りぃ凛花、俺集合時間間違えたか?」
ナンパ男に割り込んで、スマホを弄って無視を決め込んでいた凛花にそう言う。
「ううん、私が浮かれて早く来すぎたのよ。でも少し寒いからコーヒー買って良い?」
「おうよ。じゃあ行く…かぁ…?」
喧嘩などに巻き込まれないうちに直ぐにここから逃げようとしたが、どうやら無理だった様だ。
俺の肩が掴まれてぐいっ、とナンパ男達の方に向けられる。
「おいおい待てよ兄ちゃん〜。こんな美人と今からデート?」
「そうっすね」
本当なら『そうです!!超最高です!』と叫びたいが、そうなったら俺の顔面に拳が飛んできそうなので辞めておく。
「へーすごいねぇー。でもねぇー、こんな人兄ちゃんに釣り合わないと思うんだ〜」
「はぁ…」
まぁそれもそうだ。俺の様な一般ピーポーと凛花の様な女神が釣り合う筈もない。
「だからさ〜、俺らに譲ってくんないかな?」
俺の肩を掴んでいる握力を強めていき、早くしろと急かす。男も握力は強いのか、60キロ弱の力で強く握る。
だが俺もこればかりは譲れない。
「すんません、それは無理です。後この手離してください」
警察を呼ぶのはせっかくのデートに差し支える。と言う事であれば、俺の肩を持ってる男の前腕を掴み、徐々に力を強めていく。
「おぉ〜、力強いね〜」
そう言って笑っていたが、徐々に、徐々に、その顔色が青白いものへとだんだんと変わってくる。
「あっ…ちょっ…ごめっ…!待って待って!」
俺の腕をタップして降参の意を示され、流石に手を離して握力から解放すると、その腕を押さえて息を切らす。
「すみません。では、失礼します…」
ちゃんと頭を下げて謝ってから駅の中に入り、どうやらナンパ男撒いた様だったので安堵の息を吐く。
「大丈夫かな…警察呼ばれたりとかしたら…」
「大丈夫でしょ。手を出してきたのはあっちだし、こっちは正当防衛よ。下手に口論とかりしたら喧嘩になるし、アレが最適よ」
クリスマスイブで喧嘩して警察沙汰とか本当に洒落にならない。折角の凛花とのデートが台無しなんてものじゃなくなるな。
「凛花もあれくらいやればナンパぐらい回避できるだろうに」
「私はアンタみたいに怪力じゃないから無理よ!」
凛花は運動部以上の力はあるんだが、その体は真っ白な、筋肉がついてるなんて思えない、女性の最高のスタイルを体現した様な体つきなんだが、それがすげぇ謎である。
「アンタ今…変なこと考えたでしょ?」
自分の体を抱きしめて、ジトォ…と俺に疑いの目を向ける。
「まっさかぁ…」
やっべ…そういやウチの凛花さん心読むんでしたね。
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