第55話

「はぁ…」

「お疲れ様…恭弥」


 俺の自宅のソファにて、凛花の肩に頭を乗せる。


「もうホント…疲れたよ」


 普段俺は凛花に甘える事などしない。そんなことしたら男のプライドに関わるからだ。だが今は…凛花に癒されないとやっていけない。

 1時間目から3時間までの休み時間、クラス内の奴からの質問責め。

 噂はあっという間に拡散し、他クラスのやつまで巻き込む騒動となり、俺の疲労はピークに達していたのだ。

 ようやく得た4時間目後の昼休み。唯一の避難場所である屋上もすぐバレるだろうとのことで、わざわざ職員室に鍵を貰ってここに来たのだ。


「…よりにもよって…バラすのが最悪のタイミングすぎるだろ…」


 何か機会があれば穏便にバラす事が出来た。だが文化祭当日、学校にジルガが居たこと、その翌日に大成功ともいえるイベントをしたのだ。

 これがジルガがまだイベント前だったのなら

『マジか!すげぇな!!』で終わっただろう。だけど今ならこうなってしまう。


つかなんかだんだん腹立ってきたんだけど。


え?だって一回状況整理しようぜ。


 そもそも俺は隠そうとしたやん。だけどジルガからの意味わからん着信のせいでそれが全部パーになったんだよ。

 つか時差考えろよ。電話かかってきたのが8時15分くらい。時差を考えたらアイツ午前1時くらいに電話してきてんだぜ?


 イライラしていたその時だ。再びスマホが鳴る。そこに表示されているのは朝と同様だ。俺は直ぐに電話を取る。


「おい…」

『よう恭弥!さっきは電話拒否しやがってよ〜』

「てめぇ…なんであの時電話しやがった。あのあと大変だったんだぞ…」

『なんか恭弥に電話しねぇと!!って本能が告げたんだ。あんま眠くねぇから暇だったしな!』


 がははは!と笑うジルガに、ブチッ、と堪忍袋の尾が切れた。


「……お前の家って変わってねぇよな?」

『ん?変わってねぇよ?それがどうした?』

「いやなに、ただ蛇関連のものを大量に送りつけるだけだ」


 ジルガは数秒沈黙し、電話越しに感じる尋常じゃないほどの震えを見せる。


『いや…ごめ…マジでそれは辞めて…本当にごめん…めっちゃ怒ってるじゃん…。ごめんて…』


 蛇の写真を見るだけで発狂するレベルのジルガは、蛇の革を使った財布などを送りつけたら気絶するだろう。金はかかるがそれ十個くらい送ってやろ。


「絶対に許さん。覚悟しろよお前」


『頼むからやめ…』と聞こえるが、もう切ってしまった。ふぅ、少しはスッキリした。


「まぁ、人の噂も七十五日というけど、実際はみんな1週間ぐらいで飽きるわよ」

「そうだな…ありがとう」

「困ったら私に相談しなさい。存分に甘やかしてあげるから」


 いつもは顔を赤くしてモジモジしながら言うくせに、俺が本当に困ったらこんな風にしてくれる。


 あぁ…ほんと…俺の恋人が頼もしすぎる。


………

……


ジルガside


「およ?」


 家で筋トレをしていると、インターホンの音が鳴り響く。脱いでいたシャツを身につけて、俺は玄関の扉を開く。


「え…?宅配…」


 唐突にいやな予感がした。恭弥の奴が言ってた…蛇関連のものって…。

 俺は一旦荷物を受け取り、リビングに持っていく。


「…いやぁ…」


 まさか、幾らアイツでもそんな鬼みたいなことはしないだろ。アイツは言葉は悪くても根は優しいんだ。それは俺に対してもそうなのだ。多分。


「………とりあえず…あけるか…」


 そうだそうだ。もしかしたら俺が頼んでたプロテインかもしれない。それに俺はもう18歳だ。宅配一つで何をびびってるんだ。

 ふぅ、と息を吐いてカッターを使ってダンボールの中を開封する。


「あっ…」


 そこに入っていたのは、蛇革製の財布と、さまざまな種類の大量の蛇の写真。

 一気に血の気が引き、体が恐怖で震えだす。


「い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!! あ…ぁ…」


 俺の意識は、自分の大絶叫と共に暗転するのだった。

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