第56話

「ふっ…ふっ…ふっ…」


 まだ朝日も完全には登っていない時間帯で、毎日毎日飽きもせずに行っているランニング。既に走り出してから10キロの道のりを走っており、秋だというのに、俺の額にはうっすらと汗があった。


「ん?」


 走っている最中で、ウエストポーチから違和感を感じた。足を止めてからチャックを開くと、スマホのバイブが鳴っていた。


「凛花…?」


 凛花からの着信だ。こんな朝早くから珍しいと思いながらも、俺は電話に出る事にした。


「もしもし?おはよう。どうした?」

『恭弥…!!お願い!!助けて!!』


 スマホの先から切羽詰まった様な声が聞こえてくる。


「どうした?なんかあったか?」

『あ…頭に…』

「頭…?」


 助けて、と言われて頭というワードが出てきた。それが理解できずに?マークを浮かべる。


『頭から猫耳が生えてるの!!』

「はい?」


………

……


「ま、マジかぁ…」

「朝起きたら…こんなことになってたのよ…」


『直ぐに来て!!』と言われたので、俺はランニング中にも関わらず凛花の家に直行した。

 そこには、見事なまでの猫耳をはやした凛花の姿があった。


(問題か…?これ。いやまぁ問題だけどさ…これはこれで超可愛いだろ…)


 猫耳を生やした凛花、超絶可愛い。可愛い+可愛いは反則だと知らされる。


「なぁ凛花よ。やっぱりそうなったらテンプレの猫みたいな言動するのか?」

「はぁ!?そんにゃことするわけないじゃにゃい!」


ん?


「ちょっと待って。今のもう一回」

「ダメ…本当にダメよ…私が悪かったから…!」


 凛花は顔を真っ赤にし、顔を両手で抑える。さっき確かに耳で聞いた。「そん『にゃ』ことするわけないじゃ『にゃい』!」と。


(これは…イケる)


 確信を得た。今の凛花は…いじり放題だと。


「凛花、にゃあって言ったら頭撫で撫でしてやる」

「ふん!なんで私がそんな事…するのよ!! ま、まぁ?恭弥がしたいって言うんならされて上げても良いけど?」


 撫でろ、さぁ撫でろと言わんばかりに俺に頭を突き出してくる。言葉ではうるさくても体は正直だ。

 俺はいつものように凛花の頭を撫でる。すると、若干耳に触れる。


「んっ…」

「ん?」

「な、なんでもないわ…」

「そうか…」


 気のせいか?耳に触れたら反応したような…。じゃあもう一回試すか。


「んんぅっ…!」

「………」


オーケー理解した。

重点的に虐めてやろう。


「ちょっ…恭弥…!ぁあっ…!ダメ…だから…!」

「……」


 顔を赤くして、ビクッと痙攣し始める。

 不本意だが、このままだと絵面も18禁になりそうなので大人しく引き下がり、頭から手を離すと、凛花はベッドに顔を埋めて息を荒くする。


「はぁ…はぁ…」

「猫耳はどうやら性感た…」

「言わせないわよ!?性感…じゃにゃいから!!決してそうじゃにゃいから!!」


 それであることを必死に否定する凛花の顔は、まだ熱を帯びていて、俺にとって大変よろしくないものだった。


「っ…そうかそうか」


 だが悟られるわけにはいかない。自慢のポーカーフェイスでやり過ごそうとするも…。


「アレ?何?動揺してんの?」


 流石凛花。俺の仮面なんて直ぐに見破ってしまう。いつの間に超能力を身につけやがった。


「ふふん、やっぱり恭弥はバカねぇ。この程度で動揺しちゃって〜。お子ちゃま…なん…あれ…っ!?」


 突如凛花の体がビクッ、と跳ね上がる。


「凛花…?どうした?」

「あっ…まっ…て…やばい…」


 突如起こった凛花の変貌に、俺はどうにか対処しようと動き出そうとすると、肩を掴まれて床に押し倒される。


「いっつ…ちょ…凛花さん…?」

「ヤバイ…ちょっ…ホントヤバイわ…ごめんなさい…恭弥…でも自分でも……止められないの…」


 何がヤバイのか大体察しはつく。こんなトロン、とした目をして、発情しきった猫の様な姿になっているのだから。


(あっ…これ俺もヤバイわ…)


 こんなあられもない姿の凛花を見て、俺が耐え切れる訳が無かった。

 無意識のうちに手を伸ばし、手が軽く頬に触れる。

 

「にゃっ…ぁっ…」


 ピクリと反応し、俺の手にスリスリと顔を擦りつける。


「…恭弥ぁ…もう…無理…」


 その消え入る様な声に、俺の理性がプッツンした。


………

……


「っ!?」


 ガバッ!!と勢いよく飛び起きる。そこにはいつも見る、自分の部屋の光景があった。

 時計に目を向けると、俺がいつも起床する時刻の4時半。


(アレ…?夢…か…)


 鮮明に覚えている猫と化した凛花の姿を思い出す。そして次の瞬間、とある危機を警戒して布団をかき上げてズボンを脱がす。


「ほっ…」


危なかったな。よく耐えた。我が息子よ。


………

……


「うへへへぇ…恭弥ぁ…アレッ…?」


 ぼんやりと映し出される、自分の部屋の光景。本来なら隣に恭弥もいるはず…と思った瞬間、ベッドから飛び起きる。


「あっ…ね、猫耳が…」


 猫耳は生えておらず、隣には恭弥も居ない。私はそれが完全に夢だった事を理解した。


「はぁ…」


 少しだけ残念だ…と思った時だった。少し下品な言い方をしてしまうが、股の間にとある違和感を感じる。


「嘘でしょ…」

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