第54話

「なんかさ、金曜日って嬉しいよな」

「そうよね、土曜日も嬉しいし、日曜日は明日のことを考えると憂鬱になるけど、金曜日は幸せよね」


 凛花とそんなくだらない会話をしながら、俺達は学校に登校する。いつものように玄関で上履きに履き替えて、自分のクラスへと向かう。


「じゃあね、恭弥」

「おう、また昼休み」


 そんな会話をして別れて、俺は自分の教室に入る。すると、殆ど全員の視線が俺に集中するが、すぐに逸らす様に無くなる。


(なんだ?)


 違和感は覚えるも特になにも気にせず、自分の椅子に座る。机の横のホックに鞄を置き、いつものように眠ろうとした時だった。


「恭弥、これマジ?」

「は?」


 眠ろうとしたところを春馬に止められ、スマホの画面を見せられる。眠い頭が一瞬で活性化し、目を見開いて席を立つ。


(うわっ…マジか…)


 そこには、中学時代の俺の写真と、ブログらしき内容の文章がある。別に隠しているつもりは無かったが、『とうとう見つかったか…』内心思って居た。


「まぁ…うん…間違ってないけど」


 それを言った瞬間、教室の中がざわめき始める。まさか、さっきの違和感の正体はこれが原因か。


「ちょっ…マジかよ…」

「ってなったら…なんで今は四宮くんサッカーしてないの?」

「おかしいと思ってたんだよ…普通スポーツテストで全部一位取るとかおかしいし…」


 隠していたことが見つかったか気分で何か恥ずかしいが、別に悪いことじゃ無いので堂々としていよう。うん。

 

「じゃああいつ…将来プロになんのかな…?」

「いや、それはないだろ…!?流石に今サッカーしてないんだし…」


 あ、これやばいかもしれん。


「その辺…どうなん?」


 春馬が疑心に満ちた目でそれを言ってくる。これは大変まずいことになったかもしれん。

 なんせ昨日はジルガの話題で大盛り上がりしていたのだから、将来そのチームに入るなんて言ったらどうなるかなんてのは、想像するまでもない。


「あ〜…そういう話は無いな。結構な数スカウトは来たけど、高校生活したかったから断ったわ」


 俺がやりたいのは、凛花と平穏な学生生活を送る事だ。これを今バラせば、それが手に入らない場合もある。

 というか既に俺は凛花と付き合う事を認められてるから、これを言う必要は無いのだ。


「あー…そうなのか。勿体ないなぁ」


 春馬は若干落胆した様な姿を見せるが、仕方ないと諦めた。よし、クラスの中でも結構落ち着きを見せてきた。


俺は勝利を確信した。


その時だ。


「ん?」


ブーー、と机に置いていたスマホのバイブが鳴る。その画面に表示されている、『ジルガ』からの着信。

『ヤッヴァイ!!』と人生最大の焦りと共に、スマホを持って着信拒否のボタンを押す。


「え…ちょっと待って…恭弥…今のなに…?」


 ヤバイ…ヤバイ…ヤバイ。コイツ多分見てたな…。


「いや…その…違うぞ。知り合いからの電話だ」

「いや……ごめん恭弥、ちょっとスマホ見せて」

「嫌だ」


 スマホを自分の背中に隠す。


「ジルガって表記されてたよな?もしかして今のって…あのジルガからの着信?」


 ジルガには後でアイツの大の苦手な蛇の画像を大量に送りつけるとして、今は打開策を考えろ。


「いや、違う。同名の海外の友達だ。ジルガが好きなあまり自分の名前もジルガって登録してるんだよ」

「あー…なるほど…。いやでも一回確認させて」

「ふざけんなお前、なんでそうなる」

「だって…お前すっげぇ焦ってんじゃん。ちょ、増援を求む」


 春馬の名の下に、謎の結成力を見てた野郎達は、どんどん俺に近寄ってくる。

 これは本当にマズい。幾ら俺でも10人くらいに取り押さえられたら元も子もない。


「辞めろ…俺に近づくな…。殴るぞ…」

「大丈夫、俺の知ってる恭弥は口は悪いけど殴ったりはしないから」


 じりじりじりと近寄ってくるクラスメイト。逃げ場が無い。終わりだ。


「あぁもうわかった!!白状する!高校卒業したらシュヴァルツァーに入団が決まってんの!!さっきのジルガからの着信は本物です!!これで満足か!!」


 興奮しながらキレ散らかし、俺はそれを白状するのであった。

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