第53話

「なぁなぁ!!昨日のジルガ見た!?」

「見た見た!あれヤバくね?」

「無理無理、止めれねぇやん。どうやって止めるんだよあれ」


 文化祭を終えた後に学校に到着すると、教室の中がその話題で盛り上がっていた。

 昨日、テレビで放送されたジルガのサッカーイベント。生中継で配信され、会場であるフットサル場には千人を超える規模の人が居たとか。


 サッカーイベント自体は、とんでもないほどの大成功だったらしい。ジルガと一対一をするという至ってシンプルなものだが、馬鹿みたいに高い個人技で、1回たりとも負けた事は無かったのだ。


 女性人気と男性人気を日本で同時に高めたアイツは、昨日電話でウキウキ気分でそう話しながら満足しながらイタリアに帰国していった。


(ウザかったな…アイツ…)


 あのウキウキ気分のジルガは普通にウザかった。嫌な気分になったので、俺は最近買ったBluetoothのイヤホンを耳に装着し、机に突っ伏した。


「だ……」

「そ……き…」

「つ……」


 耳にかかった音楽が陽キャたちの声を掻き消して、俺の意識は闇の中に沈んでいくのだった。


………

……


「よりにもよって…」


 なんと今日の体育の授業、よりにもよってサッカーなのだ。あ…そういえばウチの体育教師、サッカー部の顧問だったからだわ。

 しかもご丁寧にサッカー部専用の人工芝生のグラウンドの上でやるのか…。


「よっと…」


 そんな事を考えながら、ストレッチを終えた俺はボールを持ってリフティングを始める。

 まずは今日の調子の確認だ。


「………」


 ポンポンポンと利き足の右足だけのリフティングは、左足も使って交互に行い始める。


(ん、普通だな…)


 特段悪いわけでもなく良いわけでも無い。まさしく普通のコンディションだ。リフティングを辞めて、ボールカゴの中に蹴り入れ用としたその時だ。


「なぁ恭弥」

「ん?どうした」


 春馬が俺に問いかける。その背後には、やたらソワソワした様子のサッカー部連中達が立っている。


「お前さ、ポストにぶつけてからシュート打ってゴール入れる事ってできる?」

「できるけど…それがどうした?」

「ちょっとやってみてくんね?」

「……別に良いけど…」


 何か不穏なものを感じながらも、出来ない事をやれと言ってるわけじゃないし、すぐ済む事だ。

 俺は少しだけ転がしたボールを助走を付けて蹴り上げる。

 ゴンッ!! と音を立てて、ポストが弾いたはずのボールはネットに吸い込まれる。


「ほら!!やっぱ恭弥もヤベェじゃん!」


 いきなり春馬が叫びだし、驚きのあまり目を見開く。


「え、な、なに…?」

「いや、ジルガが時々FKで恭弥がやった奴をやるんだよ。こいつらが流石の恭弥にもそれは出来ないって言うからさ〜」


 あー…そういうことね。


 まぁ俺も狙ってアレをやるのは流石に躊躇うな。試合中の成功率も7割くらいだし、あんまり良いことは無い。

 ただシュートの精度を上げるにはアレがうってつけだ。外した時ボール取りに行くの面倒いけど。


「まぁでもさすがにさ、恭弥でもジルガには勝てないんじゃね?」

「……そりゃそうだろ。相手はプロだぞ」


 内心苛立ちがある。現状今のジルガになら勝てるからだ。だがそれをここで言っても意味がないと判断してそう言うと、授業開始のチャイムが鳴り響くのだった。


………

……


春馬side


「んん〜、やっぱおかしいよな〜」


 ハロハロー、みんな大好き春馬ちゃんだよ。

 今はお風呂を終えてからベッドに仰向けになってちょっと色々考えてたんだ。


「恭弥って…ほんとどっかで…みたことあるんだよなぁ…」


 初対面の時から、何故か恭弥に既視感があった。最近では良くあることだと思ってその既視感を放置していたのだが、なんだか急に気になり始めた。


(そもそも普通あんな精度でシュート打てるか?)


 自信満々にゴールポスト狙ってシュートなんて、数センチズレただけでゴールの外だ。それを自信満々でやれて、尚且つ決めるなんておかしすぎる。


「んん〜」


 おかしいな〜。と思っていると、すぐに答えが出た。


ググれば解決すんじゃね?


ググって有名人かもしれないしな〜恭弥って。


どれどれ、四宮恭弥、検索っと。


「ほほぉ…は?」


『中学選手権大会 歴代3位の得点王 四宮恭弥』

『6人抜きからのシュートでハットトリック。天災、四宮恭弥の現在は…』

『最強のストライカー、四宮恭弥の行方は…?』


え? なにこれ…。

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