第41話
そして迎える閉会式。選手一同が朝礼台の下に立ち並び、それを上から眺める校長の景色は良いことだろう。
長々とお疲れ様でしたというメッセージを送った後、待ちに待った優勝発表が行われようとしていた。
「『えー…ではこれより、優勝、準優勝発表に移ります』」
ウチの学校は紅白で色が別れている訳じゃなく、1年、2年、3年の組で分けられている。
俺らの場合は2組。それなら2年2組、3年2組が同じくチームとなっているのだ。
沈黙が続く。
「『優勝は、2組』」
淡々と告げられる校長の声。だが生徒達の喜びは絶頂に達した。2組の生徒達は大きく喜び、肩を組み合っている。
「『続いて、準優勝は、4組』」
………
……
…
その他にも応援賞、横断幕賞などの賞がそれぞれの組に与えられた。いや…それはどうだって良い。問題はこの次だ。
「『続いて、最優秀選手を発表いたします』」
そう、これだ。男から1人、女から1人最優秀選手がそれぞれ選ばれるのだ。
1年2組の生徒の目が一点に俺に向けられる。やれることはやった。綱引きなどの団体戦なども出来るだけ一位は取った。リレーも借り物競走も一位は取った。
やれるだけの事はやったが、やはり緊張する。
「『男子最優秀選手、四宮恭弥、壇上に上がりなさい』」
「っし!!」
大きくガッツポーズを決めて、俺は友人に背中を押されながら壇上に向かって歩き出した。
次は女子の最優秀選手だ。
「『続いて女子最優秀選手、工藤凛花。壇上に上がりなさい』」
「はい」
1年2人が最優秀選手とか前代未満なんじゃないだろうか。
嫉妬の視線を浴びながら壇上に上がり、全校生徒を目の前にする。
「『では、賞状を授与します』」
クソ程いらんが、まぁ受け取っとかなダメだよな。流石に。
教員から渡される賞状を校長が受け取り、そんで俺に手渡して受け取る。
パチパチパチパチという拍手が俺らを包み込み、凛花が受け取り終わるとその拍手も次第に止んでいく。
「『えーでは、2人から何か一言ないですか?』」
来た。手筈では俺はこの壇上に立ってるだけでいい。凛花が色々言った方が説得力あるからだ。
「じゃあ一言いいですか?校長先生」
「えぇ、どうぞ」
校長が凛花にマイクを手渡した。学園一の美少女の発表という事で、ほぼ全員が全神経を集中させているのではないだろうか。
だが、凛花の第一声は俺でも驚くものだった。
「『うーん…うん、こうしましょう。恭弥、ちょっとこっち来なさい』」
「え?何?俺何もしないんじゃないのっ…っ!?」
俺が凛花の方を振り向いた瞬間、強引に唇を奪われる。それはディープじゃない軽いキスだったが、こんな場面でやられるとは想像もしていなかった。
キャーーー!!と女子の黄色い歓声がグラウンドを包み込む。
「『ご覧になって貰った通り、私とこの四宮恭弥は交際しております』」
それをする為だけにこんなことしやがったのかお前。後で覚えてろよ。
「『ですが最近、それでもいいから付き合ってくれと交際を申し込まれることが数多く存在しています。それは大変迷惑して居るのです』」
思い当たる節のある学生は分かりやすく目を逸らすか、顔を俯かせている。こういうのってここから見ればわかるもんなんだな。
「『挙句の果てには、私を賭けて勝負する人も現れる状況です。そんな人達に言わせてください。
私は恭弥だけの物です。貴方達には微塵の興味もありませんので、諦めてください」
ほんの少しだけ涼しくなったものの、まだまだ暑さを残す九月の上旬。
ゾクッ、と背筋に氷を入れられたかの様な寒気が俺を襲う。
(こいつ…こんな目も出来たのかよ…)
にっこりと微笑む笑みだったが、その目は恐ろしい程冷酷だった。それは俺も始めてみる、まるでそこらへんの小石でも見るように、心底どうでもいいものを見ているような目に恐怖した。
「『というわけです。ありがとうございました』」
まだ希望が残っていたと思っていた輩は絶望の目をするが、大多数は俺達を祝福してくれた。
断言しよう。
こんな異常なまでの体育祭が出来るのは、今年が最初で最後だ。
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