第40話
体育祭もいよいよ終わりを告げようとして居る。
ラストを飾る花と言っても良い選抜リレーがいよいよ始まろうとしていた。
大きな歓声と、応援組の張り上げる声がこだまする中、アンカーである俺はトラックの内側で待機していた。
その隣には、同じくアンカーの宍原の姿がある。
「正々堂々勝負しよう。四宮君」
「そうですね」
俺はそんな返事を返しつつ眺めて居ると、とうとう一週目がスタートする。
トップバッターの龍弥は三年生も居ると言うのにみるみるウチに後続を突き放して1周目が終了。
ぶっちぎりとは言いづらいが一位で鬼林にバトンが渡る。
「うぉらぁあああああ!!」
鬼林も懸命に走るが、宍原のチームの奴に抜かれてしまう。だが必死に喰らい付いて二位を維持しながらゴール。
ここまでは順調。そしてこれからも走ればなんの問題もなく走れる。
そう思った時だった。
「『おぉっと2組!ここで大きく接触して転倒だ!!大丈夫か!?』」
後続の奴に足を絡め取られて、桐原が大きく転ぶ。宍原との勝負とか関係なしに声を張り上げる。
「桐原!大丈夫か!?」
「済まん!!直ぐ走る…!」
桐原は泥だらけになりながら起き上がって走る。気合だけで走ってるようなもんなのでいつもの桐原らしい走りじゃない。どんどん後続に抜かれていく。
最下位の六位、しかもかなり離された状況で、俺はコーナーに立たされる。
「残念だね〜四宮君。あんなことが起こっちゃって。まぁ勝負は勝負、そんなの関係ないでしょ?」
下品な笑みを浮かべて隣の宍原がそう言う。こいつにとって、コレは思わぬ大チャンスだろう。
コイツのチームは1位、一方俺のチームは最下位だというのに、もっと距離が離れるのだから。
(離された距離は…ちょい…まずいかもな…)
離された距離は約20メートル。絶望的な数字だった。
宍原の表情はとんでもなく嬉しそうで、俺の怒りを買うには十分な言動だった。
「うるせぇよ。ゼッテェ追い上げて吠えズラ掻かせてやる」
「うんうん、期待して待ってるよ。負け犬君」
1位で宍原にバトンが渡り、俺の横を通り過ぎて走り出す。そして2位、3位、4位も着々とアンカーにバトンが渡っていき、残るアンカーはただ俺1人。
「『さぁ2組!!ここから巻き上げ出来るのかぁ!?』」
実況のそんな声が聞こえてくる。だがみんなわかってる。アンカーはこのトラック一周、約400メートルを走るとはいえ、既に20メートル以上の差がついてしまって居る。
どう考えても逆転は不可能だと。
「わっり…!恭弥…!!」
助走に入りながらバトンを受け取る構えを取る。春馬は泥だらけになりながらも走ってくれた。
何故謝る必要があるのだろうか。
お前も、桐原も、そのほかの奴も、全員懸命に走ったのだから謝る必要なんてない。
俺はお前らの気持ちを丸ごと背負って、全身全霊で走りゃ良いだけの話だ。
それを言いたかったが、流石に間に合わないかも知れないから一言だけ。
「後は任せろ」
その声と共に、バトンが俺に渡った瞬間、全身全霊、文字通り俺のフルスロットル、120%の力で地面を駆け抜ける。
「『嘘だろ2組!? はっや!?』」
みるみるうちに5位との距離が詰まってくる。
「はぁ!?」
十数メートルあった5位との順番が逆転。その目の前にいた4位もぶち抜く。
はちきれんばかりの歓声が聞こえてくる。だが今は、水中の中にいるように、その声があまり聞こえてこない。
並走して走っていた3位、2位も更にぶち抜く。
残り100メートル、目の前の宍原との距離、約7メートル前後。
そして、宍原はチラリと後方を向居た。
「なっ…!?」
『なんでお前がそこに居る』
分かりやすいその表情、そして一瞬見えた瞳には、絶望、困惑、恐怖の色が宿っていた。
(あぁ…それだ。それだよ…そんな顔が見たかったんだよ)
凛花を奪おうとした事、俺に対しての態度はその顔に免じて許してやろう。
溢れんばかりの憎悪はその絶望の顔によって、俺の心は少しだけ晴れやかになる。
「おせぇんだよ鈍足が」
あっさりと、もう本当にあっさりと、拮抗した勝負などなく一瞬で逆転し、そのままゴールまで突っ走る。
「っしゃぁ!!」
最下位からの超どんでん返しの1位を決める。
そのすぐ後に巻き起こる大歓声の嵐を、その身に浴びた。
「はぁ…はぁ…はぁっ…なんっで…はぁ…」
やや遅れて到着する宍原先輩。俺に抜かされても順位を守って無事二位でゴールした。
「勝負は俺の勝ちっすよ。宍原先輩」
「うるさいっ…僕は…まだ…負けてない…!」
往生際が悪いっすよねぇ…。まぁこの後の発表で心を叩き折ることにしてるんだけどさ。
「諦めろ。テメェがどう思おうが結果は変わんねぇ。アンタが敗北者である事実は何一つ変わらねぇよ」
そう言い残して、選手が控える場所に向かった。
「うぉぉおおお恭弥ぁああ!!」
「お前!お前!お前ぇえ!!よくやったぁあ!」
「俺は信じてたゾォぉおお!」
「それでこそ運動チートの恭弥だぁあ!!」
俺の頭をガシャガシャと撫でてくる鬱陶しい俺の友人たち。
「いてっ!いってぇよ!わしゃわしゃすんな!」
俺は恥ずかしさ100%で、そんな言葉をぶつけるのであった。
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