第39話
1年・100メートル走
「『うぉぉおおっ!!カッケェ!!カッケェぞ四宮恭弥!!流石工藤凛花さんの彼氏!1年リレーアンカー、ブッチギリの1位だぁああ!!』」
ノリの良い実況を受けながらのブッチギリの1位を強奪し、巻き起こる歓声と応援歌を感じながら優越感に似た感情に浸る。
「早ぇわ畜生…」
「追いつけん…マジバケモンだわお前」
同じくアンカーを走った別クラスの奴が、少しだけ嫉妬の感情を混ぜながらその言葉を出す。
この体育祭、俺は本気だ。今年最後の3年に恨まれようが、俺の出せる最高のパフォーマンスで1位を取る。
そんな怪物なら、凛花の彼氏にふさわしいと納得させられる。まぁ手はもう一個あるけど、それはあとのお楽しみだ。
「よっ、凛花。次は女子のリレーか、頑張れよ」
リレーも終わった事で、俺はいつもとは違う体操着姿の凛花を見て抱きしめたくなる衝動を抑えながらそう言った。
「えぇ、頑張るわ。アンタみたいにぶっちぎり1位は無理だけど、絶対に1位は取るから」
俺と凛花は、この体育祭でとある賭け事をしている。賭けと言っても金をかけるものじゃない。一種目1位を取ることが出来たなら、お互いに一つ、なんでも言うことを聞いてもらえるというものだ。
いや俺はそんなの興味ないけどね?全然興味とかないんだけどさ、ほら。ね?いっぱい1位取ってたら凛花への牽制とかにもなるし、俺も有名人になれると思うんだ。だから1位をいっぱいとってるのであって、凛花に何かをしたいとかいう下賤な考えはないからね?
………
……
…
全学年・借り物競走
「『位置について、よーい…』」
パンっ!!と高い音が鳴り響き、それを合図に一斉に男子生徒が走り出す。その中には俺も混ざっており、地面に置かれている紙を拾い上げる。
「な、鍋…だと?」
「日傘か…イケル!」
「近藤先生の涙…無理だろこれ…」
鍋は家庭科室、まぁ結構遠いが手に入る。日傘もそこらの観客に頼めばイケる。一番無理なの近藤先生の涙だろ。あの鬼生活指導の先生から涙貰うとか無理ゲーすぎじゃん。
そして俺はというと…。
「こりゃまたど定番な…」
『好きな人』とかいう超ど定番だが、もし彼女が居ない奴に出されたら処刑宣告以外の何者でもない奴を引き当ててしまった。
「まぁ…いけるか…」
中学の時だったら嫌だったが、今ならなんの躊躇もなくその場に迎える。俺は女子が固まった空間の中に向かう。
「凛花!居るよな?」
キャーーーー!と女子の歓声がこだまする。借り物競走で異性の元に向かうというのは、つまりそういうことだ。
「な、何よ…」
女子に押されて凄い恥ずかしそうにしながら凛花が現れる。
「お題が好きな人だったからさ、一緒に来てくれよ」
「っ!?し、ししし、仕方ないわねぇ…!全く仕方ないけど、行ってあげようじゃないの」
そう言ってくれる凛花の手を取って、俺は男の嫉妬の嵐と女子の大歓声を受けながら一位でゴールした。
………
……
…
そして何事もなく午前の部が終了し、昼休みが始まった。俺と凛花はいつもの場所で飯を食おうとしていたのだが、その前に……とある奴に捕まった。
「やぁ、四宮恭弥」
「なんですか?」
わざわざ俺1人の時を狙ったのか、それとも単なる偶然なのかは分からないが、宍原パイセンが俺に話しかけてきた。
「いや?単に君が居たから話しかけようと思ったんだけど、ダメかな?」
「別にダメとは言ってないですよ」
薄ら笑いを浮かべるこの男に、嫌悪感に似た何かを抱く。
「いやぁ〜…正直言うとさ、目障りなんだよね。君が」
「そうですか」
この男がそう思ってたのは知ってる。惚れた女の彼氏なんて目障り以外の何者でもない。それが後輩なら尚更の事だろう。
「いい加減にしてくんないかな?つか、なんで君みたいな人が凛花と付き合えてるわけ?」
凛花が惚れた経歴は知ってる。俺が努力を重ねて、その姿に憧れて、その姿に惚れた。俺が凛花に惚れた同じ理由だ。
「それは言えないですけど、嫌ならリレーで叩き潰せば良いじゃないですか。そのためにやったんでしょ?」
「うん。そうだね」
宍原は歩き出し、俺とのすれ違いの時にこう言った。
「君が凛花を奪われてどんな顔をするのか、とても楽しみだ」
溢れんばかりの殺意を堪えながら、俺は凛花の待つ場所へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます