第42話

 あの波乱に満ち溢れ、現実ではありえないような体育祭から、1週間の時が過ぎた。

 あの凛花の演説により、俺に対する嫌がらせや、凛花に対する嫌がらせは一瞬にして消え失せた。

 凛花のあの正論は、俺が用意したプロへの内定の話とかよりもよっぽど信じられる内容だっただろう。


(まぁ…俺プロの内定持ってるからお前凛花に近づくなよ?なんて言ったら、俺の方が嫌われるだろうけど)


 まぁ何はともあれ、俺と凛花はようやく、誰の目も気にしない、誰も文句のつけようのない平穏なカップルになり、俺らが望む平穏が訪れたのだ。


「はい恭弥、あーん」

「……はむっ、んっ」

「あーん…」


 誰も人が来ない、涼しい風が吹き抜ける屋上で弁当箱を開き、共に食べさせ合うというバカップル丸出しの行為を行う。

 果たして普通、平穏と呼べるのかどうかはいささか疑問だが。


「やっぱ凛花と作る飯はいつも美味いな。夫になる奴が羨ましいよ」

「それ私が恭弥以外の妻にならない事分かってて言ってるの?」

「当然。だから俺は幸せ者である」


 ホワホワと優しい空気が俺らの中を包み込む。やはりこういうのが1番だ。凛花を争う事件なんて無い方が良い。ずっと凛花と幸せに暮らしていたい。


「あぁ…本当幸せ」

「俺も」


 こうして学園の中で2人でイチャイチャできる日が来るとは…。

 そして弁当を食い終わるも、まだ昼休みが終わるまで時間があるので、俺が壁にもたれかかり、抱き抱える様に凛花が前に座る。


「体育祭も終わった事だし、あと残すイベントは文化祭ね」

「正直そこじゃ俺は役には立たんな…」


 俺は一点特化といえば聞こえは良いが、それしか出来ないのだ。対する凛花は、全てをそつなくこなす万能マンだ。


「確か幼稚園の頃バンドとかギターとかやってたんだろ?文化祭で演奏とかする時すげぇ役立つじゃん」

「まぁ3日程度だけど、大体の楽器はできるわよ。恭弥にも教えてあげよっか?」


 3日程度学んだだけで大体の楽器を扱える凛花さんマジパネェっす。流石凛花さん、俺には出来ないことを平然とやってのける、そこに痺れる憧れ…うん、これ以上はダメだな。


「遠慮しときますよ…才能の差で心が折れる」

「ふふっ、まぁその気になったらいつでも言いなさい。恭弥なら特別無料でいつでも歓迎してるから」


 俺と目を合わせてにっこりと笑みを浮かべる。その笑顔がとても可愛らしくて、俺は凛花の頭を優しく撫でる。


「ふふっ、こういうのも良いわね。もっと撫でなさい」

「おうよ。俺の満足いくまで撫でさせてもらう」


 俺は休み時間が終わる寸前まで、ずっと頭を撫で続け、愛で続けるのだった。


………

……


「にしても…文化祭かぁ…」

「ウチのクラス何する?タコ焼き売りとかメイド喫茶とか?」

「バンドって言う手もあるか」

「一周回ってゴスロリメイド喫茶?」


 いつものパリピ達がクラスの中心となって案を出しながら、話は回っていく。だが俺はこの手の話には弱い。運動以外にできる事が限られてるからだ。


「うーん…なら恭弥に執事やらせるか?」

「おい待て、なんでそうなった」


 流石の俺もそこには首を突っ込まざるを得ない。なんでいきなりそんな話になりやがったんだ。


「良いか恭弥!悔しいが…本当に悔しい…が…お前は体育祭補正でかなり女子に人気がある!!工藤さんと言う彼女がいるにもかかわらずだ!!」


 殺意に満ち溢れた視線で野郎の視線が集中する。だけど俺は主人公じゃないので、女子にモテると言われても喜べない。凛花以外の女に興味などないのだから。


まぁこれ言ったら太平洋に沈められるか山に埋められるかと言う二択を迫られるので言わないが。


「売り上げを考えれば、お前を執事に置いて、後は春馬や龍弥などの比較的顔の良い奴らを執事に置くのが1番良いのだ!!」


 名案だろ?と言わんばかりにドヤ顔を決め込むクラスメイトに、イラッとしながらも返答する。


「まぁ…俺がクラスに貢献できるのがそれしかねぇなら別に良いけどさ…」


 運動以外は特に役に立たんポンコツを有効活用してくれるのなら全然構わない。

 煮るなり焼くなり好きにしてくれ。


「よーし、じゃあ1年2組の出し物は、執事喫茶、これで行っていいか?」


 反論の声は何一つあがらず、俺らのクラスの出し物はこうして決定した。







この文化祭に、嵐の様な破天荒さを持ち、凛花と同じく超天才と呼ばれるあの男が現れる事を、俺はまだ知らない。

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