第43話

「な、なんかあの辺暗くね?」

「元凶は間違いなくアレだな…」

「うっわ…おい、なんかあったのか?」

「それがさ…今日工藤さん風邪で休みらしいんだよ…」

「え!?マジで…!?だからってあんな風になんのか…!?」


 どうやら俺は、噂されるほど酷い状態らしい。窓に映る自分の顔が反射して見える。その顔はまるでゾンビの様で、生きる尸と言われてもなんら文句は言えない顔だった。


「はぁぁ…」


 誰かに聞かれたら鬱陶しいと言われかねないので、自分にしか聞こえない様にため息を吐く。

 今日、凛花は風邪で休みなのだ。毎日毎日凛花と接していた俺は、右腕を失ったレベルの損失であった。


「き、恭弥ぁ…?そこまで落ち込む必要ねぇんじゃないか?」


 龍弥が引きつった顔でそう言う。


「そうだな…悪いな…」


 みっともないところを見せてしまった。そうだ。凛花がいないからなんだ。切り替えなければならない。


………

……


「えー…じゃあ教科書84ページを…四宮、読んでくれるか?」

「はい、春はあけぼの、やうやう白くなりゆく…」

「ん?ちょっと待て四宮、それ国語な?今やってるの英語だぞ?」

「はっ…!す、すんません!」


 完全に無意識化でやってしまった。次からは気をつけなければ。


………

……


「恭弥っ!!」


 春馬からのパスが俺に向かって飛んでくる。チラリとゴールを見てダイレクトで叩ける事を確認する。


「やっべっ!?」


 俺と少し距離を取っていた鬼林が焦りの声を出すが、もう遅い。

 ドンッ!!と強い衝撃音と共にボールはゴールに向かって飛んでいく。だが、ゴールをかする事もなくボールは彼方に飛んでいく。


「マジか…」

「恭弥でもミスすんだな…」

「ドンマイドンマイ、次行こう」


………

……


 気がついたら放課後になっていた。俺はのそのそと立ち上がり、身支度を整える。


「な、なぁ…」

「本人曰く、何も言うな…だそうだ」

「まさか…工藤さんが居なくてここまでポンコツになるたぁな…」


 今日は不甲斐ないばかりである。英語の授業じゃ国語の教科書と間違えて読んでしまうし、2時間目の体育のサッカーじゃ凡ミスを連発。3時間目も4時間目も…そして1番最悪なのが昼休みだ。久し振りにボッチ飯をしかけたところに、春馬達が声をかけてくれなければ、今の俺はチリとなって消えていた。感謝しかない。


「っ…?」


 スマホからバイブが鳴る。LINEの類だろうと、画面に目を向ける。

 そこにはたった一言だけ、凛花から告げられていた。


『来て』


と。


 断る理由が全くない俺は、廊下を走るなという張り紙を無視して凛花の家に直行した。


………

……


凛花side


「ううっ…恭弥ぁ…」


 恭弥が居ない、恭弥が居ない、恭弥が居ない、恭弥が居ない、恭弥が足りない、恭弥が足りない。

 必死に今まで貯めた隠し撮り写真で我慢していたけど、もう無理。本物じゃないと我慢の限界だ。


 ベッドの上で恭弥と撮ったツーショットの写真を見てニヤける。


「はやくぅ…」


 そろそろ学校も終わった事だろうし、多分恭弥も私と同じくらいの重症だ。だから何がなんでも来てくれるだろう。


「んっ…?」


 ガチャッ、と音がする。時刻は丁度5時。両親が帰ってくるにはまだ早い時間帯だった。

 タッタッタ、と階段を上ってくる音がするが、極力音がならないようにしている、そんな音。


コンコン、と扉がノックされる。


『凛花、居るか?』

「うん…!居る…!」


 声を聞いた途端に、体に元気が溢れる。私は大喜びで扉を開いた。

 目の前には最愛の人。抱きしめたいけど、今私は病人という立場だ。それは出来ない。


「っ…」


だけど、恭弥から抱きしめてくれた。

こんなの…抵抗出来るわけがない。


「私今…風邪引いてるのよ?」

「知ってる」

「……バカ…」


 私は恭弥の背中に手を回す。一回り大きい、ゴツゴツした体。この匂い、この感覚、全てが愛おしい。


「凛花…」

「何…?」

「なんでお前の部屋の中…俺の写真が散乱してんの?」

「ぇぇえっ!?」


 ヤッバ!!隠すの忘れてた!!!

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