第35話

 色々あって長かった様で短かった夏休みがとうとう幕を閉じ、今日から二学期が始まろうとしていた。プロ入りが決まったからと言って怠けては居られない。いや、プロ入りが決まったからより一層励む様になった。


「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」


 家の前で膝に手をついて息を整える。夏休みは終わり、少しだけ涼しさを感じる様にもなったが、やはりまだ夏、額には汗が噴き出ており、それをタオルで拭いながら家の玄関の扉を開く。


「ただいま〜…」

「おかえり。うわっ、アンタ汗だくじゃない。とっとと風呂入って来なさいよ」

「ヘイヘイ」


 当たり前の様に家に居る凛花の指示に従い、俺は軽くシャワーを浴びた後、制服に着替えてリビングに戻ると、そこにはスクランブルエッグとトースト、サラダなどの豪勢な朝食が並んでいた。


「ん?なんだこれ?」


 机に並んでいる四つの弁当箱。その中には俺の弁当箱も入っており、それを持ち上げて凛花に問いかける。


「お弁当よ。その…二学期からは私らの関係がバレていいんでしょ? なら…栄養バランスとか…色々考えたから、今日はそれ食べなさい」


 ぁぁあやっべ、超可愛いわ俺の彼女。何そのモジモジした仕草。クッソ可愛いんだけど。


「おう。なら今日の昼休み一緒に食おう」

「え、えぇ…!そうね…!」


 平常心を装ってツン、とした態度を取っているが、ニヤケが堪え切れていない口元と、僅かに赤くなった頬を見れば、それが嘘だということは分かる。


「凛花はツンデレだなぁ」

「バカ!そんなわけないでしょ!」

「じゃあ俺と弁当食いたくない?」

「うぐっ…それ…卑怯よ…食べたいに決まってんでしょ…」


 これをツンデレと言わずしてなんというのだろうか。

 そして、学校行ったらどうなるかなぁということを考えながら、俺は凛花の作った朝食を食べるべく椅子に座った。


………

……


「お、おい…なんだあれ…」

「嘘だろ…なんで工藤さんと恭弥が並んで歩いてんの!?」

「待て落ち着け…!まだそうだと決まったわけじゃないんだ!」

「信じない…俺は信じないぞ…!」

「でも工藤さん…あんなに嬉しそうに歩いて…」

「「「黙ってろ!!俺らの幻想を壊すな!」」」


 俺と凛花は一緒に学校に登校し、共に廊下を歩いていた。その際の反応は、大多数がこんな感じだった。


「うぉぉおおいコラ恭弥ぁあ!!」

「テメェ工藤さんとどういう関係だああ!!」

「答えろ!!さもないと殺すぞ!!」

「まぁ答えても殺すがな!」


 お、出て来た出て来た。凛花親衛隊(過激派)の皆さんだ。俺らの目の前を遮る様にして、その言葉を放つ。

 申し訳ないが、凛花は俺の彼女だ。そろそろ親衛隊は解散してもらうとしよう。


「凛花と俺は…まぁ恋人関係だ」


 暫しの間、ざわついていた周囲が沈黙に包まれる。


「ぐふっ…」

「お、岡島!?」


 親衛隊の一人、岡島と呼ばれた奴は吐血する。


「がほっ…そんな気は…していたさ…。俺らじゃどう足掻いても工藤さんには釣り合わない。釣り合うとしたら、スポーツテストで校内一位を全て掻っ攫ったお前しかいない…」


 お、おう…というか吐血したけど大丈夫か?


「な、何言ってんだ岡島!!」

「そうだ!例え相手が恭弥であっても、俺らの希望はまだ潰えていない!!」

「ふふっ…」


 凛花はこの場に居る俺と、岡島達に確かに聞こえるように、小さく笑った。


「焦ったいわね。こうしたら信じるかな?」

「ん?どういう意味…っ!?」


 俺の顎を掴んで固定させ、自分の唇を持ってくる。


廊下の中での公開キスだ。


 そして1年の廊下には、女子の歓声の声と、男子の阿鼻叫喚の声で溢れ、学校全土にその声を轟かせるのだった。

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