第34話
場所は凛花の住む家の前。俺は凛花から受け取った浴衣を着てとある人物を待っていた。
「お、お待たせ〜…ごめん、手間取っちゃった」
「あぁ、全然気にすん…なっ…」
ドアを開いて現れる凛花に、俺は目を奪われて絶句する。桃色柄の浴衣は、一見清楚な凛花には似合わないように見えるが、凛花自体のスペックの高さにより、それを呑み込んで芸術作品のような可憐さに変えていた。
「ど、どうかな?浴衣なんて久々だからあんまり自信はないんだけど…」
「綺麗だ。似合ってるぞ」
俺はそんなキザな言葉をかける。
「煩悩丸出しじゃない。鼻血出てるわよ?」
「そんなエロい格好する凛花が悪い、俺は悪くない。ってか待って、鼻血止まんないんだけど…」
凛花が可愛すぎて鼻血が止まらん。いやもうこれはこれで本望なんだけどさ。取り敢えずポケットティッシュを鼻に詰めて処置完了。
「はぁ…全く、人の浴衣姿で鼻血出すなんて変態ね」
「……よだれ垂れてますけど?あと俺の鎖骨チラチラ見るの辞めてからそれ言ってくれませんかね?」
「ふぐっ…」
行動と言動が一致しないとはまさにこのことだな。全く、俺もそうだが凛花も変態じゃないか。
「ご、ごほん、それよりそろそろ行きましょうか」
「ヘイヘイ」
そう言って俺らは、いわゆる恋人繋ぎという奴をしながら歩き出す。
「何か食べたいものとかある?」
「うーん…定番だとタコ焼きとかお好み焼きとかだな。凛花は?」
「私は…わ、綿あめ…」
ぁぁぁあぁぁあ…凛花さんマジ天使。しかも天然でこれだから本当にタチが悪い。
「綿あめかぁ…なら金魚すくいもやるか?」
「子供扱いしないで!!久し振りに綿飴が食べたいだけだから!!」
そんな会話を行いながら、俺らは夏祭りが行われる神社へと向かったのだった。
………
……
…
「んんっ…!!美味しい…!ほら恭弥も食べてみなさいよ!」
幸せそうな表情を浮かべる凛花から、ズイッ、と差し出されるのは夏祭り定番のドデカいわた飴だ。笑顔で差し出されたその綿飴を口に運ぶと、甘い味が口に広がって溶けていく。
「甘いし美味いな。ってか、テンション高いなお前」
「ふふ〜ん!そりゃ近所で恭弥とデートが出来るんだもの。テンションくらい上がるわ」
こうして二人で祭りに来るのは初だ。季節の風物詩とも呼べる彼女の浴衣姿に…俺は…
「なぁ凛花、祭り抜け出して家でイチャつかないか?」
もうほんっと…外じゃできない程イチャつきたい。俺の恋人が可愛すぎる。何でここが外なんだろうか。
それが無理なら路地裏に駆け込んでキスするバカップルみたいなことしようかなと内心考える。
「バカ、そんなことしたらここに来た意味が無いじゃない…ま、まぁ…花火とかが終わったら…良いけど…」
(さてと、人目につかない路地裏は何処かな?)
キョロキョロと辺りを見渡して良さそうな場所を模索する。
(お、あそこなんて良いな)
良い感じの人が居ない路地裏を発見したのでそこに行こうと思ったのだが、手を引っ張られて金魚すくいに連れて行かれたので断念しようとしたその時だった。
「アレ…?工藤さん?」
突如として声をかけられる。その声の方を俺達が振り返ると、そこには6人組の男女が居た。見知った顔も多いので、学校内のグループで集まってるんだろう。
「工藤さんいんの!?って恭弥も居るじゃん!?」
「恭弥!お前、工藤さんとどんな関係だ!?」
「貴様…!俺らを差し置いて工藤さんと夏祭りなどと…身の程を弁え…」
怒涛の質問責めが飛んでくる。俺は全く動ぜずに、多少威圧感を放ちながら言った。
「恋人関係の俺らが一緒に夏祭りくるのは当たり前じゃねぇか」
「「「なん……だと……!!?」」」
全員が同じ反応をして愕然としたと思えば、まだ諦めないとばかりに俺だけじゃなく凛花にも視線を飛ばす。
「嘘だろ恭弥!!嘘だと言ってくれ!!」
「お前に工藤さん取られたら俺らに勝ち目ないじゃん!!」
「そうだろ!?これはドッキリなんだろ!?」
そう言って俺に縋り付こうとする。どうしたものかと思って居ると、突如として俺の腕に凛花の胸が当たる。
「「「はがっ…」」」
石化したかのように3人の野郎は動かなくなる。
「残念ながら私と恭弥はこういう関係なの。ドッキリとかじゃなくてね?」
「て、てことは…噂の工藤さんの彼氏って…」
「俺のことだな」
石化した3人に亀裂が入り、軈て風化したように砂となって消えていく…かと思ったのだが。
「なんだろ…納得してしまった自分がいる」
「そうだよなぁ…うん。分かる」
「やっぱ二人ともお似合いだもん」
土下座状態の三馬鹿はいつしか俺と目線が同じになる。
「でもやっぱ悔しい!!爆発しろよお前!!」
「そうだそうだ!!本当だけどなんか腹立つ噂流しやがって!!」
「一回殴らせろぉぉおお!!」
そう言って殴りかかってくる怨念の塊からの攻撃を回避しつつ、俺は凛花を連れてその場から離れる。
「ヤベェなあの三人衆…」
「とんでもない怨念だったわね…」
そんな会話をしながら3人から逃げていると、突如として何かが打ち上げられるかのような音が聞こえる。
思わず俺と凛花はそれに足を止める。
「あ…」
パンッ!!と甲高い音が夜空に響き、炎の花を咲かせた。それはどんどん立ち上がり、大輪の花を咲かせる。
「……綺麗」
「そうだな」
だけど俺にとっては無数の花火なんかよりも、隣にいる彼女の方がずっと可愛いし、何億倍も綺麗だと思ったのは、俺だけの秘密としよう。
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