第33話

「んっ…アレ?」


 ボヤけた視界がクリアになってくると、見慣れた天井が見えてくる。だが俺は今までイタリアに居たはず…。


「あ、帰ってきたのか…」


 イタリアから帰国して、流れる様に風呂入って飯食って歯磨いて寝たんだった。その速さは人生で最も速いスピードだっただろう。


「うわぁ…まじか…」


 時計を見てみると既に10時を回っているではないか。

 こんなことしてても始まらないので、とっとと体を起こしてベッドから脱出し、いつもの動きやすい着替えて一階に降りると、何かを焼く様な音が聞こえてくる。

 親は仕事だから当然居ない。だとすればキッチンに立っている人物は1人しかいない。


「おはよ〜凛花…」


 エプロンを身につけて、ベーコンを焼く凛花の姿。いつものロングの髪がポニーテールに結ばれており『なにそれ超可愛い』と思ったのは俺の秘密だ。


「おはよ。やっぱり疲れてた?」

「あぁ…まだ眠気が取れなくて…」

「元気出しなさい。はいこれ牛乳」


 そう言って俺に牛乳の入ったコップを差し出してくる。それを受け取って全て喉に流し込むと、頭が回転しだして目もぱっちりと開く。


「なんか、通い妻みたいだな」

「現状はそうだけど私は恭弥と同棲したいかな」

「っ……そ、そうか…」


 料理を作りながら平然とそれを言う。

 本音でそれを言ってるから文句も言えないし、俺もその方が良いと思ってしまった。

 俺は逃げる様に洗面台に向かい、顔を洗い流すことにしたのだった。


………

……


「ご馳走さん」

「お粗末様でした」


 流石ハイスペック凛花様、プロの料理人以上の料理で超美味かった。それを毎日食べることの出来る旦那は幸せ者だな。


「今日はどうするの?」

「特に予定も無いし、いつも通りだな」


 ここで俺の優先順位を説明しよう。


第一優先 凛花

第二優先 凛花に携わるもの

第三優先 サッカー、運動、筋トレ、食事

第四優先 勉強、遊び、学校、その他諸々


 ここからでもわかる通り、俺がこれから何をするかはとても明白である。


「その事なんだけど、夏祭り行かない?」

「夏祭り……?」


 頭に?マークを浮かべる。毎年この近所で夏祭りは開催されるが、その期間俺はイタリアに行って居た。他に何かあるのだろうか。


「そう、私の近所で今日それが開催されるの。だから、一緒に行かない?」


 凛花の家の近く、となれば高校の知り合いもそれなりに居る筈だ。その隣で一緒に歩いている俺は、当然の如く彼氏に見えるものだ。

 バレるリスクがある。


 だけど


「行きたい。行こう」


 俺はそれを選択する。今の俺は、凛花と釣り合うほどのステータスをイタリアで手に入れた。もう誰にも文句は言えないほどのステータスを手にしたら、二学期からは俺らの関係を明かす事を林間合宿で伝えている。

 二学期からバレるのと夏祭りでバレる、どうせそんなの結果は変わらない。


「ふふっ…やっとバラせる…気兼ねなく恭弥とイチャイチャ出来る…!文化祭で食べさせ合いっこしたり、体育祭の借り物競走で好きな人選んだり…くぅっ!」


 凛花はダンダンと机を叩いて妄想を膨らませる。想像力が豊富なのは良い事だ。


「一緒にお弁当食べたり、おかずを交換したり…!ふふっ、ふふふふっ」


 冷静沈着の凛花がニヤケを堪えきれずに笑っている。


「おーい凛花さん?そろそろトリップから戻ってきてくださいな」

「後は…体育祭で恭弥専用のチアをやろうかな…。マラソン大会では私と恭弥のワンツーフィニッシュで…」


 目の前で手を振ってみるが、まるで冷静に戻りゃしない。そろそろ運動しに行こうと思ってるんだが、この姿の凛花を放っとくわけにもいかない。


「後は後は…んっ!?」


 軽く頰にキスをすると、顔を真っ赤にしながらそこを押さえて俺を凝視する。


「冷静になりましたか?お嬢様」

「は、はい…」

「私は運動をしに行きます。ついて来ますか?」

「はい…」


 言質が取れたので、俺は自分の部屋にボトルやバッグなどを取りに向かうのだった。


 PS、準備が終わって一階に戻ったら、もう一回凛花がトリップしてました。


 それをどうやって戻したのかはご想像にお任せします。

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