第32話

 俺と凛花が泊まっているホテル付近の交差点が集合場所。俺はこの時の為だけに持ってきた服でそこで待っていた。


「お待たせ、恭弥」


 服装はサプライズがいい、とのことで、10分くらい遅れて凛花が到着する。

 今まで見たことの無い白いロングスカートとチェックシャツを着こなして、若干自信なさげにモジモジとしながら髪を指で絡める。


「ど、どう…かしら…」

「俺の恋人が可愛すぎる」


 あぁもうほんっと…なんでこんな可愛いんだろうか。神様の最高傑作だわホント。いや俺神様あんま信じないタチだけど。


「ふふっ、恭弥もカッコいいわ。世界で一番」

「……ありがとう」


 抱きしめたい衝動を我慢しながら、俺はそんな言葉を出したのだった。


………

……


「にしても流石イタリア…顔面偏差値が高い…」


 金色に染まった髪のイケメンや美女が多い。正直この中で俺が一番ブサイクだと自覚がある。


「あら、それでも他の女は見ないんだ?」


 凛花は何処か関心した様に、そんな質問をする。


「まぁ俺凛花一筋だし、他の人にうつつはぬかさんよ」

「私も恭弥一筋だから安心して。というかこの中で一番恭弥がカッコいいし」


 真逆じゃないですかねぇ?と内心思いながら、俺らは歩みを進めていたその時だった。


「おぉ?君日本人?」

「へぇ〜…むっちゃ可愛いじゃん」


 後方から俺と凛花を挟む様にして、二人の男が俺らの会話を遮る事となる。凛花が可愛いのは世界の真理なので、こんなことは日常茶飯事だ。

 正直…こんな時は結構ありがたい。


「ねぇねぇ恭弥! あのレストラン行かない?」


 凛花は俺の腕に抱きついて、ニコニコとしながらそう問いかける。そういえば時刻は12時回ってるし、それもいいかもしれない。


「おう、そうだな」

「やったー!じゃあ行こ行こ!」


 こんなラブラブカップルみたいな仕草を見せられれば当然ナンパ野郎は離れていく。


「おい凛花、そろそろ離れて良いぞ」


 もうナンパしてた奴らは離れていったし。


「………このままじゃダメなの?」

「いえ、全然問題ございません。ですが胸が当たっておりますので俺の理性ライフがガリガリ削られてることはご了承くださいませ」

「バカ、当ててんのよ」


 流石凛花、恐ろしい子。


………

……


「ほら、あーん」

「っ……あぐっ…」


 自分で顔が赤くなるのを自覚し、バカみたいに恥ずかしい思いをしながらパスタを口にする。


「あぁもうほんっと…恭弥は可愛いんだから」

「可愛くねぇ…! ほら、俺も食ったんだからお前も食えよ…!」


 小声で叫ぶという矛盾に満ちた行動をしながら、フォークに絡めたパスタを凛花に差し出す。

 さっきのお返しだ。俺の辱めを味わうが良い。


「んっ…」

「っ!?」


 髪を掻き上げてからフォークを口の中に運ぶその様は、下手をすればR17指定に入りそうな程魅惑と色気に満ち溢れていた。


(くそっ…ヤバイ…このデート…俺が主導権握られっぱなしじゃないか…)


 ずっと主導権を握られたままというのはやはり気に食わない。どうにかして俺に持っていこうとしたその時だった。


(あ…このフォーク…)


 凛花がさっき使ったから間接キスになる…そう考えたら時だった。


「間接キスね」

「なっ…」


 そうだ。こいつは俺の思考が読めるんだよな。アレ?嘘が見抜けるんじゃなかったっけ?いつのまにかバージョンアップしてない?


「は、ははっ…凛花との間接キスなんてもう何度もやってるし、今更怖気ずく事でもないけどな」

「そう、なら早く食べたら?今の恭弥は私の使ったフォークを使う事に躊躇ってるヘタレにしか見えないけど?」


くっ…くそぉ…反論の余地がねぇ…。

くっ、こうなったら…! 俺の切り札を見せてやる!!


………

……


凛花side



可愛い、可愛い、可愛い。私の恋人が可愛すぎる。恭弥にとって初のイタリアの街中だからか、緊張感が抜けずにビクビクしている。その姿はまるで小さな子供の様で、保護欲を駆り立てられるものだった。

 必死で主導権を握ろうとしているけど甘い。今の恭弥に主導権を握られるほど私は甘くないのよ。


「結局一日…俺は凛花に弄ばれただけなんだが…」


 デートの最後を飾り付けるのは、やはり王道の観覧車。王道だからこその良さがあるし、何より二人きりの空間を味わうことが出来る。


「でも楽しかったでしょ?」

「楽しかったけど…やっぱ、男は主導権を握りたい生き物なんだよ」


 恭弥は座っている私を前に壁を叩く。その目はいつも私と居る時と同じ肉食獣の瞳だった。


「んっ…」


 舌を絡める強引なキス。嫌いじゃないけど、最後の最後で持っていかれるのは私としてもプライドに関わる。


「んっぐっ…」

「んちゅ…」


 数十秒間、私と恭弥の唇が交わり合う。そして私の息が切れる時に、唇を離す。


「はぁ…はぁ…」


 火照った体と頭。もう完全にそのつもりになってる体をなんとか沈める事に精一杯だった。


「凛花」

「ん…?何?」

「サッカー選手ってさ、モテるらしいんだ。それこそ人気になれば、世界中から女性が押し寄せてくる。でも、俺はお前だけを見てるし、未来永劫、ずっとそれは変わらない。ずっとお前を愛し続けるから」


 そんな事もうとっくの昔に知ってる。私は恭弥じゃなきゃ、恭弥は私じゃなきゃダメな事なんて。


「その…証というか…なんというか…取り敢えずこれプレゼント!!」


 不器用で無鉄砲に差し出された長方形の黒い箱。形からして大体予想がつく。


「……ネックレスかぁ…」


 銀色に輝く綺麗なネックレス。それを見た瞬間笑みが溢れた。


(ぁあ…これ…ヤバイ…)


 恭弥は冷静ぶっては居るけれど、いつも私と居る時は冷静じゃない。

 今日はそれが明確に分かるものだった。酷い渡し方だ。もっとタイミングや時間などあった筈だ。


「もうっ…ホンット…」


 自然と涙がこぼれ落ちる。


「っ!?ご、ごめん凛花!泣かせるつもりは無かった!直ぐ捨て…」


 恭弥に身を任せて、強く、強く抱きしめる。


「好き、好き、好き、不器用なアンタが大好き。ネックレスは毎日つける、宝物にする」

「ありがとう。気に入ってくれて何よりだ」

「うん…」


 私は恭弥が好きだ。そして恭弥も私が好きだ。

 お互いに相思相愛で、これからもそれは変わらない。

 多分、死ぬまでずっと。




「大好き」


 その言葉と共に、もう一度顔を近づけた。

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