第47話
凛花side
とうとう始まった。文化祭。私のクラスがやるのはバンドなので、1番最後の方でステージで披露する。それまでは暇なので、当然恭弥の居る執事喫茶に行く。
「いらっしゃいませ」
昨日あった事なんて何事もなかったかの様に、恭弥は笑みを作った。その顔はとても綺麗で、思わず心臓を鷲掴みにされるも、私は知ってる。
この人物は、実はとんでもない悪魔だということを…。
………
……
…
『なぁ凛花、流石に1日中俺を買うってのは辞めてくれないか?』
『むぅ…何?私に買われるのは嫌なの?』
いつもどおり恭弥の家でソファで2人で居た時だ。私は内心不服だった。
『嫌ってわけじゃないけどさ…お前絶対ロクな事しそうにないもん…』
『そ、そんな事は無いわよ?』
あくまでも…あーんして貰ったりとか、執事の様なことをしてほしいと頼むだけ…まぁ家に帰ったら…ちょっとサービスして欲しいけど。
『それに忙しくなってきたりとかしたら注文とかで大変だし…』
『まぁそれはあるわね…でも…嫌なの!!…私の恭弥が他の女に取られる…のが…』
それが本音だった。
自分でも嫉妬深い、重いと言われるのは自覚してる。だけど…今恭弥は本当に危ないのだ。体育祭の熱りもまだ覚めていないのにこんな機会があって、下手をすれば…と思ってしまうのだ。
『他の女に取られるのが嫌と?』
『えぇ…そうよ…』
恭弥はぷっ、と笑い、私を抱きしめる。
『あぁもう…可愛いなぁほんと…』
『うっさい…』
私の発した声は、消え入る様な声だった。
『本当お前…俺の事好きだよな』
『好きよ…』
自分でも驚く、気がついたら恭弥のことを考えているし、気がついたら恭弥の家に居て、一緒に居る。
多分それは一生変わらない。
『おう。俺もだ』
『……』
その返答はズルイ。
私が恭弥のことが好きな事と同じくらい、恭弥が私のことを想ってくれている事を知ってる。
だから逆の立場で考えさせられる。私が恭弥以外の男を愛するかどうか…と。
『ズルイ…その言い方…』
『ははっ…そうだな』
『…分かったわよ…我慢したげる…。だけど家に帰ったら思いっきり愛でなさい』
その条件は最低限。家に帰ったら色んな事をしてもらう。
『了解しましたよ、お嬢さん』
言質が取れた事に少しだけ笑みを浮かべると、背筋が凍るような寒気に襲われる。
『だけどさ、俺を犬にしようとしてたのって…どうかなぁと思うわけよ』
『き、恭弥…?』
『普段M気質なお前が、わざわざSを気取る。なんか腹立つな〜それ』
そう言って浮かべるニヒルの笑み。
(あ…これヤバイ…)
私というより、メスとしての本能が、これはヤバイと警告を鳴らした。だけど気付いた時にはもう
遅かった。
………
……
…
(あぁ…もうお嫁に行けないわ…。まぁ恭弥以外の嫁になるつもりはないけど…)
あの夜で確信した。恭弥は本物のS、いや多分、以前から片鱗は見せていたけど、あの夜に完全に開花したんだと思う。
アレは狼だ。本物の狼だ。いや…なんか以前男子たちが恭弥の事『ドラゴン』って言って恭弥に殴られていたけど…ドラゴンの方が良いのかしら…?
っていやいや!!なんて事を考えてるの私は!
「ん?どうしたんですかお嬢様?顔が赤いですが、ご気分が優れないのですか?」
「ひゃあっ!?」
思わず大声を上げて驚く。すぐ隣には恭弥の姿。
「き、きき、恭弥…!」
「ん?」
「ちょ、ちょっとあっちいってなさいよ!」
「んっ…?お、おう…」
今の恭弥と顔を合わせられない…ヤバイ…本当にヤバい。顔を見ても意識してしまうし、
ぁあ!!もう!!
(見てなさいよ…!!絶対に仕返ししてやるんだから…!!)
私はリベンジの炎を燃え上がらせ、恭弥にどんなことをしようかと頭をフル回転させた。
………
……
…
恭弥side
「アレ?どうしたよお前。もしかして工藤さんに嫌われたとか?」
冗談まじりの笑みを浮かべて春馬がそう言った。
「さぁ…?そんな風には見えないけど…」
いつもと少し違うが…何かあったのだろうか。俺が近づいて顔赤くすんのはいつもの事だが、それでもあそこまで赤くならない。
(俺なんかしたっけ?)
暇な時間、俺は過去の記憶を思い返してみるが、特に何かしたという記憶は無い。
(まぁ、どうせいつも通りに戻るだろ)
俺はそんな楽観的な事を考えたのだった。
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