第19話

「違うの恭弥!これは…ほんの出来心なの!!」


 ドッキリを仕掛けようと、凛花の家に忍び込み、ひっそりと寝室に行った時だ。そこには凛花がうっとりとした表情で何かに抱きついている様子が見えた。

 目があった凛花は、ベッドから急いで降りてそれを必死に否定しようとする。だが俺の目は冷ややかだった。


「何が違うってんだ?」

「これは…その…」


 口元で吃る。そうだ。これは言い訳のしようのない真実なのだ。


「さ、寂しくて…」

「俺がお前の愛に応えられなかったのなら、それは俺の責任になる。だけど…だけどな?


流石に俺の抱き枕作るのはどうかと思うよ?倫理的に」

「うぐっ…!」


 凛花が抱きついていたのは俺の抱き枕。しかも上半身裸になってる時に寝ている姿。一体いつ撮ったのかは分からないが、それを抱き枕にして居る凛花は少し頭のネジが飛んでいるんじゃないだろうか。

 流石の俺でも凛花の抱き枕は作らん。


「し、仕方ないじゃない!夏休みでもそんなに頻繁にお互いの家に行ってたらそれを目撃されるかもしれないし!かといって毎晩の通話だけで我慢出来るかって言われたら…そうじゃないし…」

「それでこの惨状ですか」


 ベッドの方まで行き、さっきまで凛花が抱きついていた抱き枕を担ぐ。マジで俺の写真じゃん。しかも等身大。


「これは処分だな。なんか呪われそうだし」

「呪わないわよ!!お願いそれだけはやめて!我慢できなくなっちゃうから!!」


 我慢できなくなってる凛花を見てみたゲフンゲフン。おっと欲望が…。


「そ、それを言うなら恭弥!!アンタはどうなのよ!アンタの部屋の中に私のパンツの一つや二つあるんじゃないの!?」

「お前俺をなんだと思ってんの?してないわ」


そんな性犯罪者みたいなことしてない。

心外すぎるぞ。

確かにね、俺はお前の事好きすぎるよ。そこは否定しない。だけどそこまで病んでない。


「し、しなさいよ!?」

「うん?」


ちょっと待って。俺今なんの会話してる?

頭の中を整理してみた結果、凛花は俺の部屋に自分のパンツを置く事を御所望しているらしい。


「なぁ凛花、少し落ち着け」

「落ち着かないわ!私の部屋に抱き枕を置いて行きなさい!かわりに私のパンツあげるから!」

「いやいらないっすけど?」

「そこまで言うなら仕方ないわよね〜」


 ウチの彼女が話聞いてくれない。暴走モードに突入してる。恐らく明日には顔を真っ赤にして俺の家に来るだろう。

 まぁ俺もその事をネタにするんだけども。


「おい、何してんのよ凛花さん。まさかマジで…」

「これなんてどう?」

「ぶふっ!」


 服の収納スペースらしき場所から取り出した黒のレース。


「待て凛花!お前が俺の抱き枕を作るのは…まぁなんかギリギリセーフだ」


 男がやったらマジで気持ち悪いけど女がやったら愛が深いんだなぁ。みたいになる。そこの境界がある様に、俺が凛花のパンツを持つのと、凛花が俺のパンツを持つことにも境界がある。


アレ?俺何言ってんの?


「だけど俺がお前のパンツを部屋に置いたらそれこそ犯罪だ。挙げ句の果てには俺が女装趣味があるとして疑われかねん」


 そう説得すると、凛花の動きがピタッ、と止まった。よかった。考え直してくれた様だ。


「女装…?」

「おう。そうだ女装趣味な?彼氏にそんな疑いがあるの嫌だろ?」


 勿論そんな趣味は一切無い。いや、まぁそれを趣味としてる人を否定するつもりは一切無いんだけど。


「………女装した恭弥…ふふっ…」

「ん?」


 ん?


「恭弥、一回私の服着ない?」

「いや着ないよ?お前何言ってんの?」

「お願い着て!!!一回だけ、本当に一回だけで良いから!一回だけヤらせてくれれば良いから!」

「おいお前なんかセリフがアウトだぞ!って、ちょっ、おい…ジリジリと近寄ってくるな…!」


 そしてその数秒後、俺は生まれて最大の羞恥心と辱めを受けるのであった。

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