第13話
「うぉおおおおお!!君があのスポーツテストの全種目全1位の一年生か!!春馬から話は聞いているよ!中学校の頃、全国でベスト16のチームにいたんだって!?しかも一軍で!!」
日曜日、スサッカーに必要な脛当て(レガース)やストッキングなどの道具をリュックサックに詰め込んで、試合会場である市民グラウンドの更衣室の方まで訪れると、サッカー部3年・主将の品川隼人さんに右手を掴まれ、ブンブンと振り回された。
(全国ベスト16…?どうなってんだ?)
俺はとある事情で部活になど入っていなかった。なのにこんな情報が出回っている…。どう考えても春馬の仕業だ。
『おい、どうなってんだゴラァ』
という視線を送ってみると、『すまん!仕方ないじゃん!』みたいなジェスチャーを送られる。まぁ信用を勝ち取るにはそれが1番良いということは理解出来るので、別に構わないか。
「今日はよろしくお願いします。皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります。中学の時のポジションはFWでした」
「そうかそうか!!じゃあ今日は君と春馬のツートップで行こうと思ってるけど良いかな!?」
どうやら春馬もFWだったらしい。1年だというのにもう得点屋に抜擢されているとは、かなりすごいんじゃないだろうか。
「はい、問題ありません」
そんな会話を行いながら、俺はユニに着替えてスパイクに履き替えるのだった。
………
……
…
「お前ら声出せ声!!」
「ぇぇええい!!」
「フリーフリーー!!」
体育会系ならではの声出し。強豪校あるあるの光景を、既にグラウンド内で行われていた。黒いユニフォームを身につけた、今回の練習試合開いて、黒宮学園高等学校。
「いやぁ…マジぃ…?こんなのと戦うのかよ…」
「いやだぁ…公開処刑も良いとこじゃん…」
「シュートの威力やっば…大砲みたいな音出るじゃん」
確かインターハイや選手権でもでも黒宮学園はベスト16に食い込むチーム。大砲みたいなシュートを打ててもなんらおかしくはない。
完全に飲まれかけている春馬の後頭部に、ボールをぶつける。
「痛い…!ちょっと恭弥!何すんの!?」
「ストライカーがビビるなよ。彼女が見てんだから2点くらいは決めさせてやるよ」
クイッ、と顎で方角を差すと、そこには春馬の彼女らしき人物が春馬に向かって手を振っていた。そしてその横には、腕を組んでこちらを見ている凛花の姿。
「う、うぉおお!」
「まさか…!女子の観戦が2人もぉお!!」
「こりゃいいとこ見せないとな!!」
「春風高校!ファイトーー!!」
「「「「「うぉおおおおお!!!」」」」」
どうやら活気付いてくれたようで何よりだ。というか顧問が完全に空気だ。
(というかマジで見に来てるじゃんあいつ…)
今日は春馬を彼女の前で格好つけさせてやろうと思ったけど、どうやら俺も格好つけないわけにはいかないらしい。
………
……
…
ピッ、というホイッスルで試合が始まる。ボールは黒宮から始まり、隣の11番にパスをする。
当然目の前にいる俺と対面し、視線が合う。
「弱いんだよなお前のチーム?」
「さぁ?知らないです」
試合中に話しかけられるとは思わなかった。というか初対面の相手にそんなこと話すか普通。
「じゃあ…行かせてもらうわ!!」
ゼロから100に持っていくその速度は、流石強豪校と言える。俺をドリブルで抜こうと横を通り抜けようとする。
(おっせ…)
ポンッとボールを蹴って、春馬のいる場所までパスをする。
「は…?」
唖然としている11番を置き去りにして、全速力でグラウンドの中を駆け抜ける。
作戦は最初に伝えたので、それ通りにやってくれたら出来るはずだ。
「頼むぞ…恭弥ぁっ!!!」
『俺がボールを奪ってお前にパスを出したら、前に思いっきりシュートしろ。高い奴でもいい』その指示を実行し、春馬は思ったよりも強烈なボールを空中に飛ばした。
「セカンドボール!!」
「奪い返せ!!」
ボールの落下地点はペナルティエリア内にまで入り込み、そこまで切り込んでいる俺には2枚のディフェンスがついた。けど、僅かに隙間がある。
「んっ…問題ない」
ボールが落下し、地面にバウンドする直前。ダイレクトでシュートをぶっ放す。
そのシュートはゴールネットに吸い寄せられ、普通にゴールとなった。
「よし」
先制点はコッチのもんだ。
………
……
…
「凄い…」
フェンスの外側から眺める恭弥の試合に、私は思わずそんな声をあげた。
1人でも勝てる筈の試合なのに、味方に沢山パスを出してチームを壊さないようにしている。だけど、いつも最善の手を打ってチームに沢山貢献している。
アレが本気じゃないことは、私が1番よくわかった。だから凄かった。本気じゃない恭弥でアレなのだから。
(バカよ…貴方は)
アレほどの努力を重ねたのは、私と釣り合う男になる為。何度も聞かされ、それで自分を追い詰めようとしている。
だけど恭弥、それは逆なの。
本当は私が貴方に釣り合わない。私は貴方みたいに努力して手に入れた力じゃない。気がついたら習得していたものなの。
だけど…それを言うのはとても怖かった。自分からそれを恭弥に言ってしまうと、恭弥は私から離れて行ってしまうんじゃないか。
考えただけで震えが出てくる。
「はぁ…なら私も…頑張らないと」
なら私も、恭弥と釣り合う女になるように必死に努力しよう。そう決意した途端、試合終了のホイッスルが鳴る。
結果は8対0。ウチの高校が圧勝だった。
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