第12話

「ぁ?サッカー部の助っ人?」


 金曜日の放課後、いつものように帰ろうとした時のことだった。1年でサッカー部のレギュラーを獲得している、白金春馬から、そんな話を聞いた。


「そうだよ!お前にしか頼めないんだよ恭弥ぁ!実はな!?なんでか次の練習試合で黒宮とやる事になってんだよ!!」


 昨年度東京都選手権での優勝チームである黒宮学園。ここからバスで二十分程度で着くし、ウチはインターハイでも準々決勝止まりも良いところのチーム。

 新しい武器を試すには強すぎる事もない。まさに絶好の相手だ。


「良いじゃねぇか。ボコボコにされてこい」


 10点差くらいつけられるのかなぁ?と内心思っていると、両肩を掴んで逃げられなくされた。


「その試合で…俺の彼女が見に来る事になっちまった。彼女の前で大量に点差つけられ辱め受けるとか…どんな拷問だよ!!」


 なるほど、それは確かに嫌だ。そこで負けないために俺に泣きついて来たと。


「それはいつだ?」

「来週の日曜…」

「ごめん無理だ。その日予定ある」


 日曜日は凛花とお家デートなのだ。これに勝る優先順位を俺は知らない。


「ウッソだろ!?なんとかなんないのかよ!!」

「無理」

「ぐむ…ぐぅぅ…」


 頭を捻らせて何かを考え込む春馬。それを尻目に、俺の隣にヒョッコリと現れる人物。


「なんの話をしているの?」

「く、工藤さん!?い、いや、なんでもないですよ…」


 春馬は急にヘコヘコと頭を下げる。同級生だというのにこんなにも上下関係というのは出来てしまうのだろうか。


「むぅ…少し気になるわね。2人してなんの話をしていたの?四宮君」


 わざわざ俺に話題を振ってくるか…。


「日曜日サッカー部の練習試合があるんだけど、それの助っ人に来ないかってさ」

「へぇ…面白そうだけど、断ったの?」

「あぁ、日曜日は少し予定がある」


 凛花はこれに気付いている筈だ。だけど春馬の手前こういうのを装わなければならない。


「因みに対戦相手は?」

「黒宮学園だよ…昨年度選手権優勝校の」

「え…黒宮学園?」


 凛花はわざとらしく目を見開いて驚くようなそぶりを見せる。けど、長年の付き合いである俺はそれが演技だと余裕でわかる。


「どうしたんですか工藤さん。まさか、黒宮に知り合いでもいるんですか?」

「え、えぇ…中学の知り合いが、確かサッカー部のマネージャーやってるのよ。どうしよう…見に行こうかしら…」


 わざと考えるそぶりを見せて、チラチラと俺にアイコンタクトを送ってくる。要するに『私が見に行くから試合出ろやコラ』ということだろう。

 すると、それをチャンスと思ったのか春馬が俺に耳打ちする。


「ほら!工藤さんが見てくれるんだぞ!?お前の見せ場のチャンスじゃないか!!」


 確かにそうだ。中学の時に何回か見せた程度で、高校に入ってから俺のプレイは一度も見せたことがない。以前と比べて俺がどれだけ変わったのかを見せるチャンスとも言える。

 だけどそれだと相手が弱すぎる…が、まぁ俺が目立つし問題はない。


「分かった。やる」

「うおっし!!!」


 こうして、俺のサッカー部(助っ人)加入が決定するのであった。

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