第14話

「恭弥!昨日はマジで助かったわ!サンキュ!お前の好きなナタデココ買ってきてやったぞ!」

「ありがとう」


 俺の好きなナタデココ入りのジュースを春馬は買ってくれたようで、俺の机の上にポン、と置き、目の前の席に座った。


「いやぁ…もう夏ですなぁ」

「あぁ…暑い」


 もうセミが泣き始める季節となっている。徐々に衣替えを始める生徒も増え始め、俺も今日は半袖のシャツで過ごしていた。


「ふふっ、で?どうだった?」

「ん?」

「昨日の試合だよ。お前大活躍だったじゃねぇか。工藤さんからなんか言われなかったの?」


 昨日か…昨日は…。


『おい』

『……』

『おい、凛花』

『……』

『聞こえてるだろ。無視するな。それとも俺が嫌いになったか?』


 ストレッチなどが終わって解散になった後、俺は人目がないことを確認した後に凛花に話しかけた。だが返答がないことから、俺は少しだけ傷ついていた。


『ちが…そうじゃ…』

『ならなんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え』


 俺は凛花を壁に追い詰めて問いかける。だが凛花は、未だ顔を両手で隠したまま俺に反応を返そうとしない。

 流石に強引に手をあげる程クズでもない俺は、凛花が何か言うのを待っていた。


『その…』

『なんだ?』

『今のアンタ…カッコ良すぎて直視できないのよ…!』


 何そのクソ可愛い理由。お持ち帰りしたいんだがよろしいだろうか。

 まぁ結局お持ち帰りは不可だったけど。


「特になんも。運動だけが取り柄の俺とか眼中にないだろ」

「はぁぁ!?つまんねぇなぁ…。進展あったら俺に教えろよ?」


 絶対に断る。と内心で返事を返しつつ、俺はナタデココのジュースの缶を開けた。


………

……


「………」

「ん?どうした凛花。そんなムスッとして。そんな顔も可愛いけどな」


 場所は学校から切り替わり俺の家。いつものようにベッドに腰掛けている凛花だったが、その顔はムスッと、何処か怒っているようだった。

 だが俺がそれをいうと、顔を真っ赤に染め上がらせる。


「な、何言ってんのよバカ!!そうじゃないでしょ!?」

「そうじゃない?いや、凛花は可愛い。これは揺らがないぞ」

「そうじゃない!!私の服装に気付きなさいよ!」


 立ち上がり、自分の胸に手を置いてみる。いつも長袖のセーラー服が半袖に変わっているな。うん。


「なんなのよ!!他の男子は気持ち悪いほどこのこと言ってくるのに、なんでアンタだけ無反応なのよ!!」


 その事に少しだけイラっときてしまった。凛花の言葉にじゃない、他男子が凛花に話しかけた事に対する独占欲的なものだ。だがそこまで束縛すること気もない俺は、それを黙って押し殺す。


「なんでと言われてもな、いっつも凛花の私服姿とか可愛い姿なんども見てるからとしか言いようがない」

「なっ…!?」


 若干気圧された様なポーズを取ると、その数秒後、なぜかモジモジとし始めた。


「そ、そうだけど…やっぱり彼氏には…変化に気付いて欲しいものよ…めんどくさい女だけど…」


 なんだそういうことか。まぁ確かに、俺だけが気付いててそれを口に出さないというのは確かにダメだな。


「凛花、そのセーラー服似合ってるぞ」

「っ…ありがと…」


 凛花は嬉しそうにしながら、唇を尖らせていた。

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